つばき

斐川 帙

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一、鮫洲八幡

(三)

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 今回の仕事は、ずっと先送りになっていた帳票の出力部分をいよいよ着手することになったのだが、人手が足りないので急遽、悟に回ってきた仕事であった。集められたのは四人で、そのうちの一人が悟だった。作業内容はモジュール設計書に書かれた通りにプログラミングし、単体テストを行なって終わりである。期間は三ヶ月、作業の進捗具合では一ヶ月程度の延長はあるかもしれないとのことだった。
 仕事の内容を聞いて、悟の頭には瞬時に作業のイメージが浮かんだし、やることは大体、想像が付いた。似たような仕事を何度もやってきていたからだったが、同時にまた、今回も同じようなことをするのであろうと、多少、うんざりした気持ちも抱いた。とはいえ、作業が見える安心感もないわけではなかったので、仕事を引き受けることにした。今の悟には、未知の分野への挑戦などという若気の至りはとうに持ち合わせていなかった。

 派遣契約を締結してから、初めて今の職場に来たのは五月の初め、今から一ヶ月程前だ。それから一週間ほどは、職場環境や開発環境などについて教えてもらいながら、完成している設計書を元に少しずつコーディングを始め、現在は、担当分の約半数のプログラムが完成していた。ほぼスケジュール通りだった。
 
 六月十日、テレビの天気予報では、今日、梅雨入り宣言が出たそうである。しかし、どんよりした曇り空とは言え、雨は降りそうもない空模様だった。気温も高く、ちょっと外を歩くと汗ばむ陽気だ。昼食を外で取った悟は、蒸し暑いくもり空を見上げながら、本当に梅雨入りなのかなと疑問に思った。
 オフィスに戻ると、プログラミングの続きを始めた。設計書は完成していると言っても、記述に不正確な部分や、不足の部分はつきものなので、その都度、関係者に尋ねて回り、確定しながらコーディングを続けていく。そんな作業を始めようと、席についてPCのディスプレイに向き合ったのだが、気持ちが仕事をする気にならなかった。コードを打ち込む手は止まったまま、とりとめのない事を次から次へと考え始め、気が付いたら三十分が過ぎていた。ここのところ、残業が続いて、大抵、帰るのは十時過ぎになっていた悟は、知らないうちにストレスがたまっていたのだろうか。こうなると作業ははかどらない。気分転換しないといけないと思った。
 気持ちが煮詰まったときは、悟は、とりあえず、職場から離れる事にしている。オフィスを出て、外の空気を吸い、周辺をぶらぶらと散策するのである。
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