つばき

斐川 帙

文字の大きさ
13 / 48
二、再会

(六)

しおりを挟む
 「私ね。市杵嶋姫いちきしまひめの神様のお社に間借りして棲んでるの。姫神様は、とってもきれいな方だけど、なんか、怖くて。見た目は、全然、怖くないんだけど、なんか、感じが、近づきがたいっていうか。ねえ、福島さん、私ね、ずっと、あの島から外に出た事なかったの。だから、嬉しいの。どこに連れってくれるの?」
 「どこにって、うちに来るんじゃなかったの?」
 さっきは、面白い事を言うなあと感心していたが、再び、頭がおかしい子なのかもしれないと感じ始めた。
 「そうね。そうだったわね。でも、どっか連れてって。」
 「・・・・どこに?」
 「どこでもいい。」
 列車は、いくつかの駅に停車したあと、品川駅に入った。この列車は品川止まりだ。ここで都営浅草線に入る列車に乗り換え、三田で三田線に乗り換えなければならない。ただ、もし、つばきの要望に応えるのなら、ここで降りて山手線に乗り換えた方が、渋谷、新宿、池袋など下車駅の選択肢が増えていいのだが、そもそも、どこに連れて行くか、全然、当てがなかったので、ここ品川で乗り換えたとしても、結局、あてもなくさまよう事になるだろう事は容易に想像がついた。悟は、京急線の品川駅ホームで、列車を待ちながら、悩んだ。つばきは、楽しそうに周囲をきょろきょろ見回していた。突然、袖を引っ張って悟の注意を引くと、「あれ何?」と聞いてきた。おかゆを食べさせる店だった。ホームの出口寄りにあった。
 「おかゆとパンの店だよ。」
 「ふうん。食べよ。」
 そう言って、つばきは店に入っていった。レジで、目の前に貼られているメニューを見ながら注文するのだが、つばきは何がいいかわからないので、先に悟に注文させ、同じものを注文した。トレイにおかゆの入ったお椀がのせられ、あいている席に悟が二人分のお椀が置かれたトレイを持って、向かい合って座った。つばきは、椅子が高いので床につかない足をぶらぶらと動かしながら、スプーンをお椀に突き刺しては、山盛りに掬うと口に運んでいた。
 五分くらいで平らげてしまうと、つばきは、「お酒、飲みたい。」と言ってきた。悟は、見た目に似合わない、その台詞に、「君は、お酒、飲める年じゃないだろ?」とたしなめたが、つばきは、「でも、飲み慣れてるから、大丈夫。」と意に介さなかった。
 「飲み慣れてるって、普段から飲んでるの?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...