つばき

斐川 帙

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三、同棲

(三)

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 オフィスには始業二分前に席に着けた。しかし、周囲には人はまばらだった。今の職場は、複数の会社から技術者が来ており、それぞれ、始業時間が違っていたり、あるいは、始業時間があるのだが遅刻を黙認しているところや、フレックスの会社もあったりで、朝はばらばらであった。
 悟は席に着くと、ディスプレイの電源を入れ、メーラを立ち上げた。OSの起動を待つのが面倒なので、PCの電源は常に入れっぱなしにしていた。
 メーラが立ち上がると、サーバに溜まっていたメールが続々とダウンロードされてきた。ここのプロジェクトは、開発作業に関するメールは、何でも開発者全員に配信するルールになっていたので、二、三時間、見ないと二十や三十のメールが平気で溜まっている。しかし、ほとんどは、臨時で雇用された悟には直接関係ないものばかりだったが、中には、重要な内容のメールが紛れていることもあり、タイトルだけでは容易に判断できないことが多いので、結局、それらの大量のメールをひとつひとつ熟読しないといけなかった。これだけで出社直後の二十分くらいは費やす毎朝恒例の行事であった。
 やっと、すべてを読み終えると、周囲の空席もおおかた埋まっていた。
 朝の恒例行事を済ました悟は、フロアーの隅に設けられている休憩コーナーに赴いた。休憩コーナーには、自販機が置いてあり、そこで缶コーヒーを買って、空いている椅子に座った。このコーナーは禁煙のせいか、あまり人が座っていることはない。ガラスで仕切られた隣の喫煙コーナーはいつも数人、紫煙をくゆらせているのとは対照的だ。
 悟はコーヒーをぐいっと一気に飲み干して、後は漫然と外の景色を見下ろしていた。このビルの十二階からは、遠くにお台場のレインボーブリッジや東京湾、品川の高層ビル群などが望めるなかなかいい眺望を提供してくれていた。
 十分に一息つくと、席に戻り、昨日の続きを始めた。途中で切り上げたコーディングの続きである。画面上で昨日から開きっぱなしになっていたエディターで、作りかけのソースファイルに手を入れ、手元の仕様書で処理内容を確認しながら、コードを打ち込んでいった。
 この日の午前は、誰が質問に来るでもなく、ミーティングの予定もなくて、コーディングだけに集中できた。おかげで、昨日、中途半端に投げ出したモジュールのコーディングがあらかた済んでしまい、コンパイルも全てのエラーを潰し終わり、午後には、ざっと動作確認ができる状態まで行った。この分だと、今日はもう一つ、モジュールのコーディングに着手できそうだと踏んだ。
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