つばき

斐川 帙

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四、外出

(三)

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 外へ出ようとして、玄関のドアを開けた。そこには髪の長いすらりとした若い女性と初老の恰幅のいい浅黒い男が、進路に立ちふさがるように並んで立っていた。女性は薄いピンクのワンピースにダークグレイのジャケットを羽織って、男の方は、デニムのパンツにカジュアルなシャツを着込み、ツィードのジャケットを着ていた。
 つばきは二人の存在に気づいた途端、ひどく驚いて何かを恐れるように悟の後ろに隠れた。悟は、背後で縮こまっているつばきに目をやりながら、目の前の二人が誰なのか、悩んだ。新聞の勧誘員には見えなかったし、宅配便や郵便配達員とも違う。悟には自宅を尋ねてくるような親しい知り合いは一人もいなかったので、全く、見当も付かなかった。近所の人なのだろうか?
 しばらく黙っていた二人だったが、若い女性の方が最初に口を開いた。
 「こんなところにいたのね。見えなくなったから、どこにいったのかと思ってたわ。」
 つばきに話しかけているようだった。
 「しばらくここにいるのか?」
 今度は男が口を開いた。つばきは依然として悟の背後に身を潜めている。仕方ないので、悟が二人の素性を質した。しかし、二人は黙ったまま、素性を明かさなかった。代わりにつばきが蚊の鳴くような小さな声で、「市杵嶋姫いちきしまひめの神様と綿津見わたつみの神様です。」と説明した。悟は驚いて、つばきを振り返った。
 「誰だって?」
 「だから、女の人の方が市杵嶋姫の神様で、男の人が綿津見の神様。」
 悟はびっくりして言葉が出なかった。
 神様がやってきたのか?
 ばかげた話しだった。直ぐに信じられる話しではなかった。悟は、二人には「すいません。」と一声かけて、玄関を閉めると、つばきの手を引いて、廊下で立ちどまり、つばきに問いただした。
 「誰だい、あの人たちは?」
 「だから、市杵嶋姫の神様と綿津見の神様です。」
 悟はつばきの目を穴が開くほどじっと見つめた。
 「うそだろ?」
 「うそじゃないってば。」
 「もしかして、君の両親じゃないのか?君を連れ戻しに来たんだろ。だから、ごまかしてんじゃないの?」
 「私に親なんていないんだけど。」
 「親がいない人間なんているわけないだろ?」
 「私、人間じゃないもん。」
 押し問答になりそうなので、「まあ、いいや。」と言って悟は黙った。
 「どうしよう。私、怒られるかもしれない。綿津見の神様は普段は優しいけど、怒ると大変なのよ。ねえ、どうしよう?」
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