つばき

斐川 帙

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四、外出

(四)

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 悟は、うろたえるつばきを眺めながら、ますます、彼らが彼女を連れ戻しに来た両親であるという確信を強めた。親が来ている以上、おとなしく連れ帰ってもらった方がいいだろうと悟は考えた。ただ、これまで、同じ部屋に寝泊まりした事がばれて、変な勘ぐりをされないだろうかと不安になった。警察沙汰という言葉が一瞬脳裏に浮かんで消えた。子供の事になると親というものは勝手な思いこみで感情的に反応するものだ。
 「とりあえず、帰った方がいいんじゃないか?」
 つばきは悟の目をじっと見つめて、やがて、ぼつりと「やだ。」と一言言った。
 「どうして?」
 つばきは黙っていた。
 「だって、ここまで来ちゃってるんだから、もう、無理だろう?」
 つばきは何かを言おうとして、すぐに口をつぐんだ。
 そのときだった、悟は何かの気配に気づいて部屋の方に視線を転じた。そこには、玄関前に立っていたはずの二人が床に並んで座っていた。思わず、悟は玄関の方を見たが、ドアは閉まったままだった。腰を抜かしそうになるくらいびっくりした悟は、我知らず足が震えてきたのに気づいた。つばきも異変に気づいたようで、部屋の方を振り返り、驚いて、悟の背後に隠れた。
 「こちらに来なさい。」
 女性の方がつばきを呼んだ。柔らかいが凛とした響きのあるしっかりした声だった。しかし、つばきは隠れたまま、出てこなかった。
 「連れ戻そうという気はないから安心しなさい。」
 男の方が続けた。ここに至って、つばきは恐る恐る悟の背後から姿を現すと、部屋に入っていって、入り口付近にちょこんと正座した。悟は、恐ろしくて、その場から動けなかった。
 そのまま、つばきと二人の男女は話しを始めた。声が小さいのか、悟には話の内容は聞きとれなかったが、つばきは心なしか意気消沈した風でうつむき加減に二人からの言葉に応じているようだった。そんな感じで、三人はしばらく話し込んでいた。悟は、その間、廊下に立ちつくしたまま、動けなかった。
 やがて、つばきが振り返って悟を呼んだ。悟は、傍に行きたくなかったが、何度も呼ばれるので仕方なくつばきの横に正座した。慣れない和服を着ていたせいか、楽な座り方をするのがなんとなく気が引けていた。
 怖くて下を向いている悟に、若い女性の方が声をかけてきた。
 「短い間だけど、大事にしてあげなさいね。」
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