つばき

斐川 帙

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五、いつきの島

(三)

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 「知っているのかい?」と小声で聞いた。つばきは、うんと頷いたきり、誰かは答えなかった。ただ、三人のうち一人は既に会っていた人物なので、その知り合いの人物であることは間違いないだろう。だとすれば、神々ということになるのだろうか、そして、さっき、つばきが口にした『宗像の姫神様』というのが彼女たちのことなのか。しかし、果たして、つばきは、しばらく間を置いて、
 「宗像の姫神様です。」と答えた。そして、三人に向かって話しかけた。
 「もう、いらっしゃってたのですか。」
 「来るのがすこし早くなってしまったわね。でも、いいときに来られたわ。」と丸顔の女性が言うと、「ええ。」と細面の女性が相づちを打った。ふたりとも笑っていた。続いて市杵嶋姫が口を開いた。
 「私たちが先導してあげるから、大丈夫よ。」そういうと、三人は消えた。悟は、もう少し見ていたかったと惜しい気がしていた。つばきは、悟の顔をまじまじと見つめて、「美しかったでしょ?」と、まるで心の底を見透かしたような口調で言った。悟は、そんな語調には気をかけず素直にああと頷いた。つばきは笑った。
 「田心姫の神様と湍津姫の神様で、市杵嶋姫の神様とはご姉妹なのよ。宗像よりいらっしゃったの。海陸の往来を守っていらっしゃる方なのよ。」
 つばきは、わかる?と言った表情で解説を加えたが、当然、悟にはぴんとこなかった。宗像がどこなのかも知らなかったし、市杵嶋姫に姉妹がいるのも知らなかった。ただ、もう少し、三人と一緒にいたかったなと思っていた。
 二人の乗ったボートはゆっくりと沖合の島に向かって進んでいた。誰が漕いでいるわけでもなく、まるで速度の遅い潮に流されていくように島に近づいていた。島は、一つの山の山頂付近が海面の上に覗いているだけのような険しい地形で、平地は海際のへりをわずかに彩っているだけであった。ボートの向かう先には湾曲する海岸線が砂浜に縁取られ、二人の行く手を迎えていた。それ以外の海岸線は岩場になっていて、断崖がそのまま海に飲み込まれているような場所も見えた。上陸地点は、正面の浜辺以外にはありそうになかった。
 徐々に接近して、ボートは船底を遠浅の砂浜にひっかけて、停止した。つばきは、悟の手を取り、ボートから出ると海水の中に両足をつっこみ、じゃぶじゃぶと重たい海水の抵抗をかきかけながら、陸地へと進んだ。陸に上がると、更に奥へと進んだ。砂浜が終わると、すぐ、茂みが広がり、木々が混乱した枝振りをかざして、その先の視界を覆い隠していた。つばきは、構わず、茂みに向かって進んでいった。
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