つばき

斐川 帙

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五、いつきの島

(七)

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 翌日の月曜日、悟はいつものように東品川のオフィスに出社した。ディスプレイに向かってキーボードを打ちながらも、ややもすると、思考は、つばきとの記憶を再現して夢想に浸ってしまい、なかなか、仕事に集中できなかった。休日あけも影響しているのだろうと自分なりに納得させるが、それでも、やはり、心は納得できていなかった。また、つばきに会えないものかと知恵を絞るが、いい知恵が出るわけもなく、そもそも、つばきの住所も本名も、電話番号もメアドも彼女と連絡を取るどんな手だても知らないのであるから、向こうからコンタクトを取ってこない限り、再び会う事は無理であった。ただ、わずかな可能性を期待して、午後になったら、密かにオフィスを抜け出して、あの神社に行ってみようとは思っていた。
 午後三時、トイレに立つような感じで席を立つとビルから抜け出して、神社に向かった。そして、境内に入った。予想はしてはいたものの、やはり、つばきはいなかった。池に近寄ったが、今日も、扉は閉まっていた。開けるのが簡単である事は、前回の時にわかったが、開けて中に入ろうとまでは思わなかった。がっかりした悟は、仕方ないと呟くと、きびすを返して、境内から出ようとしたが、そのとき、何かを思い出した気がして、振り返って奥の厳島神社を見た。そして、傍らの椿の木を見た。椿は、青々と照り輝く葉を茂らしていた。こないだ見たときとちょっと違うなと思ったが、どこが違っているのかは思い出せなかった。しおれかけた赤い花が地面に落ちているのが視界の端に入った。
 悟は、気が済んだので、オフィスに戻る事にした。これから、また、仕事をするのかと思うと、陰鬱な気分になっていた。
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