つばき

五、いつきの島

（六）

　島からはボートで対岸に戻った。来るときと同じように、漕ぎもしないのに自然にボートは対岸に向かって動いていった。対岸に着くと、そこは、荒川の河川敷だった。悟とつばきは、やはり、来たときと同じように、いや、今度は方向が逆だが、アパートの部屋に戻った。部屋に戻った途端、二人は、倒れ込むように床に寝そべった。そして、疲れがどっと出たのか、自然に、眠りに落ちていった。二人は抱き合ったまま、部屋の中央で寝息を立てて、そのまま、長い睡眠に入っていった。

　起きたとき、てっきり、夕方だと思ってテレビをつけると、早朝の番組をやっていた。各地の天気予報で、今日一日の天気を予報していたのである。しばらく見ていると、画面の右上に今日の日付と曜日が映し出されていた。それによると、今日は日曜日のようであった。そのとき、悟は、何かの欠落に気づいた。何がたりないのだろうかと考えたが、随分と長い時間、それはわからなかった。悟が、何かを食べようと、冷蔵庫を開けて、作る料理を思い悩んだとき、その答えがやっとひらめいた。悟は、冷蔵庫を閉めると、部屋の中を見回した。ロフトの上ものぞいた。やはり、誰もいなかった。
　「帰ったんだ。」
　悟は呟いた。同時に落胆を覚えたのは仕方ない事だった。じんわりと寂寥感が湧いてきた。しかし、どうしようもなかった。置き手紙もないし、悟自身、彼女との生活が永遠に続くとは思っていなかったのだから、その時が、今であったことに残念な気はするものの、納得するしかなかった。