9 / 46
三、再会
(二)
しおりを挟む
駅前のタクシー乗り場に着くと、列の最後尾に加わった宮本は、一息つくようにため息をついた。昨日、今日と、顧客訪問が続いたことを気に病んだのだ。こうもタクシーを使っていると、かさんだタクシー代のことで課長にちくりと小言をもらいそうだった。
目的の会社は津田沼駅からは思いの外、近くで、迷うことなく見つける事ができた。五階建てくらいの小さいビルの三階に、その会社はあった。ビルの入り口から携帯電話でメールに書かれていた電話番号にかけると、女性が出て来て社名を名乗り、用件を聞かれた。宮本は依頼者の部署と名前を告げてプリンターの修理に来た旨伝えると、直ぐに依頼者に電話は代わり、三階の受付の前で待つよう言われた。宮本はエレベータで三階まで上がり、電話だけ置いてあって誰もいない受付の前のソファーに座って待った。しばらくすると、奥のドアが開いて、髪の長い小太りの女性が現れた。女性は、宮本の前に来ると、軽く挨拶をして、「こちらにどうぞ。」とドアの向こうに導いた。宮本は、導かれるまま、中に入って、依頼者である小林という男性の席まで案内され、そこで名刺交換を済ますと、その小林にプリンタの前まで案内された。フロアの隅にある少々古ぼけたレーザプリンタである。小林は、状況を手短に説明すると、「後は頼みます。」と言って、さっさと自分の席に戻ってしまった。宮本は、早速、プリンタの蓋を開けて、中を調べた。状況を聞くに、恐らく、中の基盤に異常がありそうな気がしたが、念のため、鞄からノートパソコンを取り出し、プリンタに直結して、印刷を実行してみた。予想通り何も反応がなかった。そこで、プリンタ前面にある表示パネルをいじってみたが、どうも動作がおかしかった。十中八九、基盤が故障しているにちがいないと考えた宮本は、ノートパソコンに向かって伝票を打ち込んでいた小林の背後から声をかけ、一旦、自社に戻って、代替基盤を探してくるので、プリンタはそのままにしておいてほしいと頼んだ。また、戻るのは夕方過ぎになるが、それでよいか確認をとると、小林は、夕方は取引先のスーパーに出向いているので、代わりにこの女性が相手をするからと、隣の席の女性を紹介された。茶色のカーディガンを羽織ったその女性は、書類に書き込んでいた手を休め、立ち上がると机の引き出しから名刺入れを取り出し、自己紹介をした。黒いパンツルックのすらっとした女性で、やや丸顔に大きめの瞳が目についた。宮本も遅れじと背広から名刺を取り出して交換しながら、改めて自己紹介をして、相手の女性の顔を正面から見すえた。見覚えのある気がした。それは相手も同じようで、宮本と視線があった瞬間、目にかすかな動揺の色が見えた。宮本は、誰だったか、記憶の海に潜って思い当たる何かを必死に探した。すぐにそれは見つかった。初対面の顧客との名刺交換という事で相手のことを全くの他人という先入観で見ていたから、うっかり気づかなかったのだが、その名前は、過去の長い時間、ずっと身近にいた女性の名前と同じだったのだ。相手も、そのことにすぐに気づいたみたいで、意味深な微笑を浮かべて、「よろしくお願いします。」と続けた。宮本も、苦笑いしながら、「お願いします。」と応えた。二人の間の微妙な空気の変化を感づいたのか、小林は、怪訝そうな顔をしたが、それ以上は何も言わず、「じゃあ、宮本さん、お願いします。」と言って、ドアの所まで先導すると、ドアを開けて、宮本が出るのを待って、女性とともにお辞儀をして別れた。宮本は、思いもかけない出来事にどうにも落ち着かなくて、自然と苦笑がうかぶのを必死にこらえながら、ひとまず、電車で幕張のオフィスに戻った。戻ったときは、既に午後一時を回っていた。基盤を探す前に、オフィスの近くで昼食をとることにして、荷物を席に置くと、再び、ビルの外に出た。
目的の会社は津田沼駅からは思いの外、近くで、迷うことなく見つける事ができた。五階建てくらいの小さいビルの三階に、その会社はあった。ビルの入り口から携帯電話でメールに書かれていた電話番号にかけると、女性が出て来て社名を名乗り、用件を聞かれた。宮本は依頼者の部署と名前を告げてプリンターの修理に来た旨伝えると、直ぐに依頼者に電話は代わり、三階の受付の前で待つよう言われた。宮本はエレベータで三階まで上がり、電話だけ置いてあって誰もいない受付の前のソファーに座って待った。しばらくすると、奥のドアが開いて、髪の長い小太りの女性が現れた。女性は、宮本の前に来ると、軽く挨拶をして、「こちらにどうぞ。」とドアの向こうに導いた。宮本は、導かれるまま、中に入って、依頼者である小林という男性の席まで案内され、そこで名刺交換を済ますと、その小林にプリンタの前まで案内された。フロアの隅にある少々古ぼけたレーザプリンタである。小林は、状況を手短に説明すると、「後は頼みます。」と言って、さっさと自分の席に戻ってしまった。宮本は、早速、プリンタの蓋を開けて、中を調べた。状況を聞くに、恐らく、中の基盤に異常がありそうな気がしたが、念のため、鞄からノートパソコンを取り出し、プリンタに直結して、印刷を実行してみた。予想通り何も反応がなかった。そこで、プリンタ前面にある表示パネルをいじってみたが、どうも動作がおかしかった。十中八九、基盤が故障しているにちがいないと考えた宮本は、ノートパソコンに向かって伝票を打ち込んでいた小林の背後から声をかけ、一旦、自社に戻って、代替基盤を探してくるので、プリンタはそのままにしておいてほしいと頼んだ。また、戻るのは夕方過ぎになるが、それでよいか確認をとると、小林は、夕方は取引先のスーパーに出向いているので、代わりにこの女性が相手をするからと、隣の席の女性を紹介された。茶色のカーディガンを羽織ったその女性は、書類に書き込んでいた手を休め、立ち上がると机の引き出しから名刺入れを取り出し、自己紹介をした。黒いパンツルックのすらっとした女性で、やや丸顔に大きめの瞳が目についた。宮本も遅れじと背広から名刺を取り出して交換しながら、改めて自己紹介をして、相手の女性の顔を正面から見すえた。見覚えのある気がした。それは相手も同じようで、宮本と視線があった瞬間、目にかすかな動揺の色が見えた。宮本は、誰だったか、記憶の海に潜って思い当たる何かを必死に探した。すぐにそれは見つかった。初対面の顧客との名刺交換という事で相手のことを全くの他人という先入観で見ていたから、うっかり気づかなかったのだが、その名前は、過去の長い時間、ずっと身近にいた女性の名前と同じだったのだ。相手も、そのことにすぐに気づいたみたいで、意味深な微笑を浮かべて、「よろしくお願いします。」と続けた。宮本も、苦笑いしながら、「お願いします。」と応えた。二人の間の微妙な空気の変化を感づいたのか、小林は、怪訝そうな顔をしたが、それ以上は何も言わず、「じゃあ、宮本さん、お願いします。」と言って、ドアの所まで先導すると、ドアを開けて、宮本が出るのを待って、女性とともにお辞儀をして別れた。宮本は、思いもかけない出来事にどうにも落ち着かなくて、自然と苦笑がうかぶのを必死にこらえながら、ひとまず、電車で幕張のオフィスに戻った。戻ったときは、既に午後一時を回っていた。基盤を探す前に、オフィスの近くで昼食をとることにして、荷物を席に置くと、再び、ビルの外に出た。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる