三首の和歌

斐川 帙

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三、再会

(二)

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 駅前のタクシー乗り場に着くと、列の最後尾に加わった宮本は、一息つくようにため息をついた。昨日、今日と、顧客訪問が続いたことを気に病んだのだ。こうもタクシーを使っていると、かさんだタクシー代のことで課長にちくりと小言をもらいそうだった。
 目的の会社は津田沼駅からは思いの外、近くで、迷うことなく見つける事ができた。五階建てくらいの小さいビルの三階に、その会社はあった。ビルの入り口から携帯電話でメールに書かれていた電話番号にかけると、女性が出て来て社名を名乗り、用件を聞かれた。宮本は依頼者の部署と名前を告げてプリンターの修理に来た旨伝えると、直ぐに依頼者に電話は代わり、三階の受付の前で待つよう言われた。宮本はエレベータで三階まで上がり、電話だけ置いてあって誰もいない受付の前のソファーに座って待った。しばらくすると、奥のドアが開いて、髪の長い小太りの女性が現れた。女性は、宮本の前に来ると、軽く挨拶をして、「こちらにどうぞ。」とドアの向こうに導いた。宮本は、導かれるまま、中に入って、依頼者である小林という男性の席まで案内され、そこで名刺交換を済ますと、その小林にプリンタの前まで案内された。フロアの隅にある少々古ぼけたレーザプリンタである。小林は、状況を手短に説明すると、「後は頼みます。」と言って、さっさと自分の席に戻ってしまった。宮本は、早速、プリンタの蓋を開けて、中を調べた。状況を聞くに、恐らく、中の基盤に異常がありそうな気がしたが、念のため、鞄からノートパソコンを取り出し、プリンタに直結して、印刷を実行してみた。予想通り何も反応がなかった。そこで、プリンタ前面にある表示パネルをいじってみたが、どうも動作がおかしかった。十中八九、基盤が故障しているにちがいないと考えた宮本は、ノートパソコンに向かって伝票を打ち込んでいた小林の背後から声をかけ、一旦、自社に戻って、代替基盤を探してくるので、プリンタはそのままにしておいてほしいと頼んだ。また、戻るのは夕方過ぎになるが、それでよいか確認をとると、小林は、夕方は取引先のスーパーに出向いているので、代わりにこの女性が相手をするからと、隣の席の女性を紹介された。茶色のカーディガンを羽織ったその女性は、書類に書き込んでいた手を休め、立ち上がると机の引き出しから名刺入れを取り出し、自己紹介をした。黒いパンツルックのすらっとした女性で、やや丸顔に大きめの瞳が目についた。宮本も遅れじと背広から名刺を取り出して交換しながら、改めて自己紹介をして、相手の女性の顔を正面から見すえた。見覚えのある気がした。それは相手も同じようで、宮本と視線があった瞬間、目にかすかな動揺の色が見えた。宮本は、誰だったか、記憶の海に潜って思い当たる何かを必死に探した。すぐにそれは見つかった。初対面の顧客との名刺交換という事で相手のことを全くの他人という先入観で見ていたから、うっかり気づかなかったのだが、その名前は、過去の長い時間、ずっと身近にいた女性の名前と同じだったのだ。相手も、そのことにすぐに気づいたみたいで、意味深な微笑を浮かべて、「よろしくお願いします。」と続けた。宮本も、苦笑いしながら、「お願いします。」と応えた。二人の間の微妙な空気の変化を感づいたのか、小林は、怪訝そうな顔をしたが、それ以上は何も言わず、「じゃあ、宮本さん、お願いします。」と言って、ドアの所まで先導すると、ドアを開けて、宮本が出るのを待って、女性とともにお辞儀をして別れた。宮本は、思いもかけない出来事にどうにも落ち着かなくて、自然と苦笑がうかぶのを必死にこらえながら、ひとまず、電車で幕張のオフィスに戻った。戻ったときは、既に午後一時を回っていた。基盤を探す前に、オフィスの近くで昼食をとることにして、荷物を席に置くと、再び、ビルの外に出た。
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