放置された日記

斐川 帙

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二〇〇六年七月十一日(火) 早川の若君と二朗広宗

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 昨日は早川の若君、広匡と、二朗広宗が私の館にやってきた。既に鎧、直垂ひたたれの姿である。一応、惣領家の子息なので、上座を譲ろうとしたが、俺が、今回の大将ということで、遠慮された。そして、今度の戦は、望地の婿殿の指図に従うので、何なりと申されよなどと言ってきた。なぜだか、不思議だが、俺は、信頼されているようだ。合戦経験の浅い俺が、どうして、一軍の将を任されるのか、ちょっと、変な気もするが(惣領家の子孫だから?)、まあ、せっかくだから、その気になってみた。
 軍議は、簡単に終わった。作戦はかねてからの予定通り、朝の暗いうちに出発して、巳の刻ほどに三崎に到着、館を包囲して、火をかけるということだ。逃げてくる人間は、老若男女区別なく捕らえ、いちいち、確かめる。抵抗するものは、その場で斬って構わない。残酷だが、これも合戦だ。非情に徹しようと覚悟を決めた。
 俺は、多少の馳走を出して、両者を振る舞い、用意した部屋に眠ってもらった。広村も来ていたが、彼もすぐに眠った。明日は朝早いのだ。庭先、そして屋敷の外を埋め尽くす、約六百の兵も思い思いのところで眠りについていた。
 昨日の夢はここまで。
 今日の仕事は、まあまあだ。普通に経理事務をこなした。今日も定時に帰った。早く帰ってもすることがないので、町田の駅前をぶらぶらして時間をつぶした。結構、この街も人が多いなとうんざりしながら、人混みをすりぬけ、ドトールに入って、アイスコーヒーを飲んで、しばらく、ぼおっとしていた。
 ふと気づいたら、隣に雪姫が座っていた。実にかわいらしい格好の服を着て、俺の横にちょこんと座っている。見ると、緑色のジュースを飲んでいる。キウィのジュースらしい。俺は、驚いて、しばらくじっと見つめていたよ。なんで、ここにいるの?みたいな不審の目で。
 すっかり、俺、雪姫の事嫌っていたみたいだ。なんか、嫌な感情しか湧いてこない。昔、いろいろと、女の子にいやがられた記憶が蘇ってくるのか、あんまり、いい気持ちがしないんだ。だから、何の用だよみたいな目で雪姫を見ていた。彼女は、俺の事をじっと見ていた。でも、悲しそうに目を伏せて、そのうち、泣き出すんだ。参ったよ。俺は、雪姫の手を取って、外で待ってろと合図すると、レジで勘定を払って、外の雪姫のもとに行った。雪姫は、俺のすぐ後ろにくっついて、ずっと押し黙っている。時々、うしろを振り返るんだけど、やっぱり、黙ってうつむいている。で、つかず離れず俺のすぐ後ろを歩いてくる。何がしたいのか、困惑した。あんまりかわいそうになったんで、結局、雪姫の手をとって、手をつないで歩く事にした。雪姫は、こころなしか、気を取り直したようにも見えた。
 そんな感じで、電車乗って、家に帰った。雪姫とは、駅に着いたときに別れた。別れ際かな、雪姫は、俺に抱きついてきて、終始、無言なんだけど、そうして、乗客の人混みの中に消えていった。後ろ姿の雪姫は、機嫌なおした感じに見えたけど、大丈夫だったかな。
 広村と言い、雪姫といい、夢の中の人物が目の前に現れるのは、絶対、あり得ない事なんだけど、今の自分には、そんなこと、どうでもいいと感じている。それより、悲しげだった雪姫が、機嫌直してくれたかなということが、今、一番、気にかかる事だったりする。今度、夢で会ったときは、もう少し、優しくしてやるかと。
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