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四、連環
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「製本の締切時間はとっくに過ぎているよ。」
と言われて、しかし、まだ問いの解答さえ書けてなくて、必死になって解答欄を埋めようと頭を絞るが何も出てこなくて、時間はただ過ぎて行くばかりで、同期入社の皆は全員書けているようなのに、私だけができてなくて、明日、皆の前で課題の発表があるのだが、「私はできてません。」と言わざるを得ないのか、その時が、どんなに恥辱に塗れる瞬間なのか、想像するだに恐ろしくて、逃げたい気持ちでいっぱいだがどうすることもできなくて焦るばかりで、しかし、一文字も解答欄の空白を埋めることができない。
と言う夢にうなされた。
追い詰められて逃げ場がなく、終局の時間が迫ってくる。
恐ろしくて、怖くて、ただ涙が零れるばかり、にやにやしながら銃口を突き付けて撃ち抜く瞬間が楽しくて仕方ないかのように下命を待っている、その顔を見上げながら、一時の玩具のように弄ばれる自分の命を惨めで悔しくて憎しんで、でも、どうすることもできないのだから、ただ、じっとして、その時を待つばかり、
(ああ、終わるのか)
海面すれすれを超低空飛行でしのいできたが、いよいよ、燃料が切れて海面に叩きつけられて、機体が粉々に粉砕されて終わりの時を迎えるのだ。
その時は迫っている。
朝、目が覚める。
目覚まし時計の無機質な電子音に、固定化された生活の流れを遂行するよう強いられて、着替えてシャワーを浴びて、時間がないので食事を取らずに、鞄を手にして家を出る。
駅に立つ。
数分おきに絶え間なく進入してくる通勤時間帯の列車に詰め込まれて、もう余地はないのに押し込まれて、激しい敵意と抑圧された攻撃性にはちきれそうな車内に、意識を薄くして目的の駅までやり過ごそうと苦闘する。
今日が最後だ、
今日こそ最後だ、
と言い聞かせて、苦しそうにやっと開いた列車のドアから、
溢れ出る乗客の流れに身を任せる。そのとき、
視界の隅に見覚えのある人物の影が映ったように感じた。
《見送った子か?》
振り返る余裕もなく、それぞれの職場に向かう会社員の流圧で押し流されて、改札を抜けて、横断歩道を渡って、オフィスビルの林立する中を右に左に曲がって職場のあるビルに入り、ゲートに社員証をタッチして通過すると、到着したエレベータに数人と同時に入り、更に数人が入ってきて身動きしにくくなるくらいまで人が入ったところで、扉が閉まって上昇を開始して、十五階に着いたところで人を掻き分け外に出て、廊下を右に進んで、再び社員証をカードリーダにタッチしてドアを開けて職場のあるフロアに入り、窓際の自席に座り、ノートPCを開いて電源を入れる。
未読メールに目を通し、コミュニケーションツールを開いてチーム内でやり取りされているメッセージを確認し、スケジューラで今日の予定を確認した後、缶コーヒーを買いに席を立った。
フロアの隅にある自販機コーナーで椅子に座り缶コーヒーを飲んでいると、隣席の同僚がやってきて、自販機でペットボトルのお茶を購入して、自席に戻って行った。普段はリモートで作業していて出社するのは週に一回か二回なので、隣の席だがほとんど会話をしたことがない。そもそも、この職場に来たのは三カ月前で、今月いっぱいで契約を切られることになっている。
あと、ここに出社するのも、あと一回を残すのみだ。
自席に戻って、窓の外を眺めた。
あまりいい現場ではなかった。契約を切られて次の現場も決まっていないので不安だが、ここを辞められるのは、まあ、悪くはないなと思いなおして窓から見える隣のビルを見ていた。特に思い出のない職場なので、窓から見える景色にも何の思い入れもないが、高層ビルが林立する界隈なので、十五階のフロアからだと隣接するビルに視界を遮られて遠くまで見通しが利かない。
このビルの林の先には江戸城の石垣が見えるはずだが、欠片も見えない。
ふと、隣のビルの同じ階の窓からこちらを見ている視線に気づいた。
顔も姿も明瞭でないが、私を鋭利な視線で刺していた。
《見送った子か?》
顔も姿も明瞭でないが、直感がそう呟いていた。
彼も、いずれ、仙境の駅を訪れ、
山中に分け入るのだろうか?
と言われて、しかし、まだ問いの解答さえ書けてなくて、必死になって解答欄を埋めようと頭を絞るが何も出てこなくて、時間はただ過ぎて行くばかりで、同期入社の皆は全員書けているようなのに、私だけができてなくて、明日、皆の前で課題の発表があるのだが、「私はできてません。」と言わざるを得ないのか、その時が、どんなに恥辱に塗れる瞬間なのか、想像するだに恐ろしくて、逃げたい気持ちでいっぱいだがどうすることもできなくて焦るばかりで、しかし、一文字も解答欄の空白を埋めることができない。
と言う夢にうなされた。
追い詰められて逃げ場がなく、終局の時間が迫ってくる。
恐ろしくて、怖くて、ただ涙が零れるばかり、にやにやしながら銃口を突き付けて撃ち抜く瞬間が楽しくて仕方ないかのように下命を待っている、その顔を見上げながら、一時の玩具のように弄ばれる自分の命を惨めで悔しくて憎しんで、でも、どうすることもできないのだから、ただ、じっとして、その時を待つばかり、
(ああ、終わるのか)
海面すれすれを超低空飛行でしのいできたが、いよいよ、燃料が切れて海面に叩きつけられて、機体が粉々に粉砕されて終わりの時を迎えるのだ。
その時は迫っている。
朝、目が覚める。
目覚まし時計の無機質な電子音に、固定化された生活の流れを遂行するよう強いられて、着替えてシャワーを浴びて、時間がないので食事を取らずに、鞄を手にして家を出る。
駅に立つ。
数分おきに絶え間なく進入してくる通勤時間帯の列車に詰め込まれて、もう余地はないのに押し込まれて、激しい敵意と抑圧された攻撃性にはちきれそうな車内に、意識を薄くして目的の駅までやり過ごそうと苦闘する。
今日が最後だ、
今日こそ最後だ、
と言い聞かせて、苦しそうにやっと開いた列車のドアから、
溢れ出る乗客の流れに身を任せる。そのとき、
視界の隅に見覚えのある人物の影が映ったように感じた。
《見送った子か?》
振り返る余裕もなく、それぞれの職場に向かう会社員の流圧で押し流されて、改札を抜けて、横断歩道を渡って、オフィスビルの林立する中を右に左に曲がって職場のあるビルに入り、ゲートに社員証をタッチして通過すると、到着したエレベータに数人と同時に入り、更に数人が入ってきて身動きしにくくなるくらいまで人が入ったところで、扉が閉まって上昇を開始して、十五階に着いたところで人を掻き分け外に出て、廊下を右に進んで、再び社員証をカードリーダにタッチしてドアを開けて職場のあるフロアに入り、窓際の自席に座り、ノートPCを開いて電源を入れる。
未読メールに目を通し、コミュニケーションツールを開いてチーム内でやり取りされているメッセージを確認し、スケジューラで今日の予定を確認した後、缶コーヒーを買いに席を立った。
フロアの隅にある自販機コーナーで椅子に座り缶コーヒーを飲んでいると、隣席の同僚がやってきて、自販機でペットボトルのお茶を購入して、自席に戻って行った。普段はリモートで作業していて出社するのは週に一回か二回なので、隣の席だがほとんど会話をしたことがない。そもそも、この職場に来たのは三カ月前で、今月いっぱいで契約を切られることになっている。
あと、ここに出社するのも、あと一回を残すのみだ。
自席に戻って、窓の外を眺めた。
あまりいい現場ではなかった。契約を切られて次の現場も決まっていないので不安だが、ここを辞められるのは、まあ、悪くはないなと思いなおして窓から見える隣のビルを見ていた。特に思い出のない職場なので、窓から見える景色にも何の思い入れもないが、高層ビルが林立する界隈なので、十五階のフロアからだと隣接するビルに視界を遮られて遠くまで見通しが利かない。
このビルの林の先には江戸城の石垣が見えるはずだが、欠片も見えない。
ふと、隣のビルの同じ階の窓からこちらを見ている視線に気づいた。
顔も姿も明瞭でないが、私を鋭利な視線で刺していた。
《見送った子か?》
顔も姿も明瞭でないが、直感がそう呟いていた。
彼も、いずれ、仙境の駅を訪れ、
山中に分け入るのだろうか?
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