柔らかく穏やかな陽の光の下で

斐川 帙

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三、受精

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無数の微粒子が無秩序に彷徨さまよい続ける空間に密度のむらができて濃淡が生じた中に形が発現し始める。

形を成さない形があちこちから浮かび上がって、浮いては消えて溶けてなくなり、浮いては流れて溶けてなくなり、
微粒子の水溶液の粘性は高まって、所々、だまになって、堅くなっていき、それは、つまり、
重力の均質性が破綻して、塊があちこちに生まれて、それらが引き合って、斑点状にあちこちで更に大きい塊に成長して、いよいよ、粗い粒子のざらざらした空間になっていく。

ざらざらした空間は、触感をごつごつに変えて、やがて、収斂しゅうれんして、残った一つが形を成した。
産まれたのだ。

昼光を浴びて、草原に腰を下ろした。
川岸のよしの群生に入って行って、指にり傷を負って、血を滲ませて、背丈を遥かに超えるよしの群生を掻き分けながら、無理矢理、先に進む。

柔らかい存在は、もういない。

広大な草原に出る。
しかし、下草が異様に繁茂し、蔓草つるくさが収拾不可能なほどに絡まって足を取られ、灌木かんぼくが生えて、複雑に伸び切った枝が行く手をさえぎる。
蜘蛛くもの巣がねばつき、亜米利加白火取アメリカシロヒトリ幼虫けむし蝟集いしゅうして葉を食い尽くし、山蚯蚓やまみみずがのたうち、笄蛭こうがいびるが黒光りするぬめった体をくねらせて幹をう。

遠くの繁みの中から穴熊が覗いている。
子供が三頭、かたわらに身を寄せている。

曇って来た。
薄暗くなって、気温も穏やかになって来た。
風が吹いてきた。
雨粒が落ちてきた。
木の陰に逃れて雨をしのぐ。
雨脚は強まるばかりだ。
ついに豪雨となった。
足元はぬかるみ、草の葉に付いた露で衣服がびしょ濡れになる。

生まれた子は、荒れた原野を去って行った。
見送りながら、雨に打たれる。

ぬかるんだ泥濘でいねいでズボンのすそは汚れ、靴は泥だらけになっていた。

《私も、ここを去ろう。》

歩くたびに一歩は泥に埋まる。
激しく絡まる草むらを掻き分けて、掻き分けるごとに袖に不快な草の実が付着して、どこまでも深い草むらで、どこまでもしつこい藪で、ひらけるところを知らない。

いつしか、掻き分けて進むだけの機械となった。
そして、街に戻った。

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