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リャナンシーさんとスコップケーキ
⑦
しおりを挟む「ど、どなたですか…ぐす」
「こんにちは!心配になって見に来ちゃいました、ってどうしたんですか?」
泣き顔を隠す余裕もないままに扉を開いてみると、そこに立っていたのは魔女っ子さんとカラスさんだったのでした。
あれから魔女っ子さんもリャナンシーさんがうまく出来ているか心配だったので、少しだけお手伝いしようとここまでやってきたのです。
突然現れた救世主の姿に、リャナンシーさんはおいおい泣きながら縋りついてお願いしました。
「ああ!助けてください魔女っ子さん!もう私どうしたらいいのか…」
自分よりも大きな体をしているリャナンシーさんに全力で縋られて、魔女っ子さんはあわや潰れそうになっていましたが、何も言わぬままこっそり魔法を使って支えてあげました。
リャナンシーさんを落ち着かせないと、何があったのかすらわかりませんから、とにかく宥めようとしているのです。
「ええ、私にできることなら手伝うわ。だから何があったのか教えてちょうだいな」
リャナンシーさんはぽろぽろと涙をこぼしながらも、キッチンの中へと魔女っ子さんたちを案内しました。
「あらまぁ、これは…」
「すっごくこげちゃってるねぇ」
魔女っ子さんが言葉を選んでいるというのに、カラスさんはストレートに事実を口にしてしまい、リャナンシーさんがしゅんと俯いてしまいました。
カラスさんはマジョッコサンに、もう!と頭を小突かれましたが、何が悪かったのかわからず首を傾げているのでした。
「こんなに黒焦げじゃ、ケーキは食べられません。
せめてタイマーをつけておけばよかったのに、うぅ…」
もうおしまいだと泣いているリャナンシーさんに、魔女っ子さんはまあまあと宥めながらも首を傾げて言いました。
「まあ落ち着いて下さいな。
…案外なんとかなるかもしれませんよ」
そう言うと魔女っ子さんはキッチンからナイフを拝借して、黒焦げのケーキへと刃をすっといれていきました。
「これをこうすれば、っと」
真っ黒に焦げてしまった表面だけを薄く削ぎ落としていけば、中から綺麗な黄金色をした生地が露わになっていきました。
一回り小さくはなっていましたが、先ほどの有様よりは随分と良くなっています。
「ちょっと焼きすぎたくらいなら、こうすれば食べられますからね。
とはいっても予定していたようなホールケーキには使えませんけど」
「じゃあ、やっぱり…」
「いえ、大丈夫ですよ!
ホールケーキではなくても、素敵な飾り方は他にもたくさんありますからね」
リャナンシーさんは魔女っ子さんに大きめの硝子の器があれば持ってくるよう頼まれて、収納棚から2人用のグラタン皿を取り出して渡しました。
「いつもはグラタンを入れる物ですが、これでいいでしょうか?」
「これから作るケーキには、それがぴったりです!」
魔女っ子さんは手に持ったナイフを使って、スポンジケーキを器の大きさに合わせてカットしていきました。
この時切り落とした部分も使わないと勿体ないですので、間違えて捨ててしまわないよう別に避けておきます。
「それじゃリャナンシーさんは生クリームを泡立てていってくださいな。
練習の時よりゆるくても大丈夫ですからね」
魔女っ子さんに指示されて、リャナンシーさんが生クリームをがしゃがしゃと泡立て始めました。
ホールケーキの飾りに使うのであればクリームが緩いとだらりと垂れてきてしまうのですが、今回は器の中に入れていくだけですので泡立てるのにも大して時間はかかりません。
すぐにボウルの中の生クリームはふんわりと泡立ってきましたが、ここでやめてもいいのか判断しかねてリャナンシーさんは泡立て器を持った手を一度止めました。
そして結局魔女っ子さんに確認してもらおうと、抱えたボウルを持ったまま声をかけにいきました。
「魔女っ子さん、これくらいでしょうか?」
「うん、いい感じですね」
魔女っ子さんにお墨付きをもらったので、リャナンシーさんは自信を持って調理をすすめていきました。
用意した硝子の器にカットしておいたスポンジケーキを詰めていき、余った隙間には切り落とした部分のケーキをぎうぎうと詰め込んでいきます。
一面に敷き詰め終えたら、今度はその上へ生クリームを乗せていき満遍なく塗り広げていきました。
次に用意しておいたベリーをパラパラと置いていき、またスポンジケーキを重ねていきました。
最後に生クリームを上から注ぐようにして掛けてから、いい感じの見た目になるよう考えつつベリーを散りばめて、彩りのミントをちょこんと載せれば出来上がりです。
「これで“スコップケーキ”の完成です。
ほら、これはこれで可愛らしいでしょう」
「わあ、あのケーキがこんなに素敵になるなんて!」
出来上がったケーキを前にして、リャナンシーさんは大喜びして言いました。
あとはご主人様が帰ってくるのを待つだけです。
魔女っ子さんは元気になったリャナンシーさんを嬉しそうに見てから、用事は終わったと家に帰ることにしました。
「それじゃあ私たちはお暇しますね。
ご主人様がどう反応したのか、またお話にきてください」
「それじゃあねぇ、ばいばーい」
そう言うと魔女っ子さんとカラスさんは止める間も無く帰っていってしまいました。
魔女っ子さんたちは玄関から出ていくと箒に飛び乗って去ってしまい、慌てて追いかけたというのにすでに2人の後ろ姿は遠いものになってしまっていました。
しっかりとお礼をする間も無かったリャナンシーさんは、せめてもの思いでどんどん小さくなっていく後ろ姿へ、いつまでも大きく手を振っているのでした。
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