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番外編「忠実な護衛は静かに想いを募らせる」
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俺の世界には、ずっと、玲奈お嬢様だけしかいなかった。
物心ついた頃には、孤児院の冷たいベッドの上にいた。誰からも愛されず、誰のことも信じず、ただ息をしていただけの毎日。そんな俺を、ある日、公条院家の先代当主が引き取った。
理由など、どうでもよかった。温かい食事と、眠る場所がある。それだけで十分だった。
屋敷の人間は、よそ者である俺を、遠巻きに見ているだけだった。俺も、誰とも関わるつもりはなかった。この心を、誰かに開くつもりなど、毛頭なかった。
そんな俺の前に、ある日、天使が現れた。
それが、玲奈お嬢様だった。
まだ幼いお嬢様は、庭で一人うずくまっていた俺の前に立つと、その紫色の、宝石のような瞳で、じっと俺を見つめた。
そして、手に持っていた一輪の白い薔薇を、俺に差し出した。
『綺麗でしょう? あなたにあげるわ』
太陽のような笑顔だった。
その瞬間、俺の灰色だった世界に、初めて色が生まれた。
この方を、お守りしよう。この方の、ためだけに生きよう。
そう、誓った。
俺は、お嬢様をお守りするために、あらゆる武術を学び、知識を身につけた。いつか、お嬢様の隣に立つにふさわしい男になるために。
だが、成長するにつれて、お嬢様は変わっていった。
傲慢で、わがままで、他人を見下すようになった。俺のことも、ただの便利な道具としか見ていないようだった。
それでも、よかった。お嬢様のそばにいられるのなら。たとえ、その瞳に俺が映ることがなくても。
あの日、俺に薔薇をくれた、優しいお嬢様は、もうどこにもいない。そう、諦めていた。
しかし、あの日を境に、すべてが変わった。
高等科二年に進級する、春。
お嬢様は、まるで別人のように、変わられたのだ。
些細な変化だった。だが、俺にはわかった。
今まで見向きもしなかった本を読むようになり、俺が淹れたハーブティーを、「美味しいわ」と言ってくださるようになった。そして何より、その瞳に、以前のような傲慢な光はなく、戸惑いや、優しさが宿るようになった。
まるで、あの頃の、俺に薔薇をくれた、天使のようなお嬢様が、戻ってきたかのようだった。
いや、それ以上に、今のお嬢様は、魅力的だった。時折見せる、庶民的な、愛らしい表情。破滅を恐れ、必死に未来を変えようとする、その健気さ。
俺は、再び、恋に落ちた。
いや、ずっと燻り続けていた想いが、再び、激しく燃え上がったのだ。
だから、誓った。
今度こそ、この手で、あなた様を、お守りする。
あなた様を傷つけようとする者は、誰であろうと、容赦はしない。
桜井ひかりという女が現れた時、俺はすぐに、その本性を見抜いた。あの女は、お嬢様の座を奪おうとする、害虫だ。
だから、排除した。
一条院蓮という男。お嬢様の婚約者でありながら、その価値を理解できない、愚かな男。
だから、失脚させた。
すべては、お嬢様のため。
お嬢様の、あの優しい笑顔を守るためなら、俺は、どんな罪でも犯せる。
お嬢様の部屋に、写真を飾る。盗聴器を、仕掛ける。すべての行動を、監視する。
これは、異常なことなのかもしれない。
だが、これが、俺の愛の形なのだ。
あの日、白い薔薇をくれた、俺の唯一の光。
俺の女神。
玲奈様。
この命、この魂、すべてを捧げます。
だから、どうか、永遠に、俺のそばにいてください。
あなたの忠実な、騎士として。
そして、いつの日か、あなただけの、男として。
俺の願いは、それだけだ。
物心ついた頃には、孤児院の冷たいベッドの上にいた。誰からも愛されず、誰のことも信じず、ただ息をしていただけの毎日。そんな俺を、ある日、公条院家の先代当主が引き取った。
理由など、どうでもよかった。温かい食事と、眠る場所がある。それだけで十分だった。
屋敷の人間は、よそ者である俺を、遠巻きに見ているだけだった。俺も、誰とも関わるつもりはなかった。この心を、誰かに開くつもりなど、毛頭なかった。
そんな俺の前に、ある日、天使が現れた。
それが、玲奈お嬢様だった。
まだ幼いお嬢様は、庭で一人うずくまっていた俺の前に立つと、その紫色の、宝石のような瞳で、じっと俺を見つめた。
そして、手に持っていた一輪の白い薔薇を、俺に差し出した。
『綺麗でしょう? あなたにあげるわ』
太陽のような笑顔だった。
その瞬間、俺の灰色だった世界に、初めて色が生まれた。
この方を、お守りしよう。この方の、ためだけに生きよう。
そう、誓った。
俺は、お嬢様をお守りするために、あらゆる武術を学び、知識を身につけた。いつか、お嬢様の隣に立つにふさわしい男になるために。
だが、成長するにつれて、お嬢様は変わっていった。
傲慢で、わがままで、他人を見下すようになった。俺のことも、ただの便利な道具としか見ていないようだった。
それでも、よかった。お嬢様のそばにいられるのなら。たとえ、その瞳に俺が映ることがなくても。
あの日、俺に薔薇をくれた、優しいお嬢様は、もうどこにもいない。そう、諦めていた。
しかし、あの日を境に、すべてが変わった。
高等科二年に進級する、春。
お嬢様は、まるで別人のように、変わられたのだ。
些細な変化だった。だが、俺にはわかった。
今まで見向きもしなかった本を読むようになり、俺が淹れたハーブティーを、「美味しいわ」と言ってくださるようになった。そして何より、その瞳に、以前のような傲慢な光はなく、戸惑いや、優しさが宿るようになった。
まるで、あの頃の、俺に薔薇をくれた、天使のようなお嬢様が、戻ってきたかのようだった。
いや、それ以上に、今のお嬢様は、魅力的だった。時折見せる、庶民的な、愛らしい表情。破滅を恐れ、必死に未来を変えようとする、その健気さ。
俺は、再び、恋に落ちた。
いや、ずっと燻り続けていた想いが、再び、激しく燃え上がったのだ。
だから、誓った。
今度こそ、この手で、あなた様を、お守りする。
あなた様を傷つけようとする者は、誰であろうと、容赦はしない。
桜井ひかりという女が現れた時、俺はすぐに、その本性を見抜いた。あの女は、お嬢様の座を奪おうとする、害虫だ。
だから、排除した。
一条院蓮という男。お嬢様の婚約者でありながら、その価値を理解できない、愚かな男。
だから、失脚させた。
すべては、お嬢様のため。
お嬢様の、あの優しい笑顔を守るためなら、俺は、どんな罪でも犯せる。
お嬢様の部屋に、写真を飾る。盗聴器を、仕掛ける。すべての行動を、監視する。
これは、異常なことなのかもしれない。
だが、これが、俺の愛の形なのだ。
あの日、白い薔薇をくれた、俺の唯一の光。
俺の女神。
玲奈様。
この命、この魂、すべてを捧げます。
だから、どうか、永遠に、俺のそばにいてください。
あなたの忠実な、騎士として。
そして、いつの日か、あなただけの、男として。
俺の願いは、それだけだ。
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