乙女ゲームの悪役令嬢に転生!破滅回避のため空気を目指したのに、勘違いでモブキャラ護衛の重すぎる愛に捕まりました

久遠翠

文字の大きさ
14 / 15

番外編「忠実な護衛は静かに想いを募らせる」

しおりを挟む
 俺の世界には、ずっと、玲奈お嬢様だけしかいなかった。
 物心ついた頃には、孤児院の冷たいベッドの上にいた。誰からも愛されず、誰のことも信じず、ただ息をしていただけの毎日。そんな俺を、ある日、公条院家の先代当主が引き取った。
 理由など、どうでもよかった。温かい食事と、眠る場所がある。それだけで十分だった。
 屋敷の人間は、よそ者である俺を、遠巻きに見ているだけだった。俺も、誰とも関わるつもりはなかった。この心を、誰かに開くつもりなど、毛頭なかった。
 そんな俺の前に、ある日、天使が現れた。
 それが、玲奈お嬢様だった。
 まだ幼いお嬢様は、庭で一人うずくまっていた俺の前に立つと、その紫色の、宝石のような瞳で、じっと俺を見つめた。
 そして、手に持っていた一輪の白い薔薇を、俺に差し出した。
『綺麗でしょう? あなたにあげるわ』
 太陽のような笑顔だった。
 その瞬間、俺の灰色だった世界に、初めて色が生まれた。
 この方を、お守りしよう。この方の、ためだけに生きよう。
 そう、誓った。
 俺は、お嬢様をお守りするために、あらゆる武術を学び、知識を身につけた。いつか、お嬢様の隣に立つにふさわしい男になるために。
 だが、成長するにつれて、お嬢様は変わっていった。
 傲慢で、わがままで、他人を見下すようになった。俺のことも、ただの便利な道具としか見ていないようだった。
 それでも、よかった。お嬢様のそばにいられるのなら。たとえ、その瞳に俺が映ることがなくても。
 あの日、俺に薔薇をくれた、優しいお嬢様は、もうどこにもいない。そう、諦めていた。
 しかし、あの日を境に、すべてが変わった。
 高等科二年に進級する、春。
 お嬢様は、まるで別人のように、変わられたのだ。
 些細な変化だった。だが、俺にはわかった。
 今まで見向きもしなかった本を読むようになり、俺が淹れたハーブティーを、「美味しいわ」と言ってくださるようになった。そして何より、その瞳に、以前のような傲慢な光はなく、戸惑いや、優しさが宿るようになった。
 まるで、あの頃の、俺に薔薇をくれた、天使のようなお嬢様が、戻ってきたかのようだった。
 いや、それ以上に、今のお嬢様は、魅力的だった。時折見せる、庶民的な、愛らしい表情。破滅を恐れ、必死に未来を変えようとする、その健気さ。
 俺は、再び、恋に落ちた。
 いや、ずっと燻り続けていた想いが、再び、激しく燃え上がったのだ。
 だから、誓った。
 今度こそ、この手で、あなた様を、お守りする。
 あなた様を傷つけようとする者は、誰であろうと、容赦はしない。
 桜井ひかりという女が現れた時、俺はすぐに、その本性を見抜いた。あの女は、お嬢様の座を奪おうとする、害虫だ。
 だから、排除した。
 一条院蓮という男。お嬢様の婚約者でありながら、その価値を理解できない、愚かな男。
 だから、失脚させた。
 すべては、お嬢様のため。
 お嬢様の、あの優しい笑顔を守るためなら、俺は、どんな罪でも犯せる。
 お嬢様の部屋に、写真を飾る。盗聴器を、仕掛ける。すべての行動を、監視する。
 これは、異常なことなのかもしれない。
 だが、これが、俺の愛の形なのだ。
 あの日、白い薔薇をくれた、俺の唯一の光。
 俺の女神。
 玲奈様。
 この命、この魂、すべてを捧げます。
 だから、どうか、永遠に、俺のそばにいてください。
 あなたの忠実な、騎士として。
 そして、いつの日か、あなただけの、男として。
 俺の願いは、それだけだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼氏がヤンデレてることに気付いたのでデッドエンド回避します

恋愛
ヤンデレ乙女ゲー主人公に転生した女の子が好かれたいやら殺されたくないやらでわたわたする話。基本ほのぼのしてます。食べてばっかり。 なろうに別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたものなので今と芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただけると嬉しいです。 一部加筆修正しています。 2025/9/9完結しました。ありがとうございました。

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

悪役令嬢は追放エンドを所望する~嫌がらせのつもりが国を救ってしまいました~

万里戸千波
恋愛
前世の記憶を取り戻した悪役令嬢が、追放されようとがんばりますがからまわってしまうお話です!

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

冷遇されている令嬢に転生したけど図太く生きていたら聖女に成り上がりました

富士山のぼり
恋愛
何処にでもいる普通のOLである私は事故にあって異世界に転生した。 転生先は入り婿の駄目な父親と後妻である母とその娘にいびられている令嬢だった。 でも現代日本育ちの図太い神経で平然と生きていたらいつの間にか聖女と呼ばれるようになっていた。 別にそんな事望んでなかったんだけど……。 「そんな口の利き方を私にしていいと思っている訳? 後悔するわよ。」 「下らない事はいい加減にしなさい。後悔する事になるのはあなたよ。」 強気で物事にあまり動じない系女子の異世界転生話。 ※小説家になろうの方にも掲載しています。あちらが修正版です。

処理中です...