花は葉を愛し、葉は花を愛す。ー恋人は00時00分、敵になりましたー

湯川岳

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4.誰のために side:朝陽

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 抱きしめ合う2人の姿を俺は、見ていた。
 伸ばした手がぶらり、と落ちる。
 俺は何をしているのだろう。
 



 俺は葉山家に生まれた。
 祖父は狂ったように俺を強く育てた。何がそうしているのか分からず、ただ言われた通りのまま強くなっていった。
 20歳になると葉の印が出現した。祖父にそれを報告すると大いに喜んでいた。

「今度こそ、当主に。そして願いを叶えるんだ」

 祖父は何の願いを叶えたいのだろう。俺は分からなかった。
 父はその側で何も言わず、それを聞いているような人だった。
 そんな中、ふらり、と入ったカフェで美味しそうにケーキを頬張る暖がいた。
 こんなに見ているだけで、人の心を暖かくしてくれる人がいるなんて知らなかった。
 きっとそれは俺の一目惚れだったんだろう。
 そこから俺たちは時々会う友人かはら恋人になった。

「なぁ、海行こう!」

 夜なのに急に海へ行き、2人で遊んだのはとても楽しかった。

「これ一緒に見よう!」

 映画館で観たホラーは2人で縮こまって楽しかった。

「美味しいケーキ屋ができたんだよ!」

 女性ばかりの店内に2人で入って恥ずかしい思いしながら食べたケーキは楽しかった。

 俺は暖とずっと一緒にいたかった。花吹家の長男がまだ20歳を迎えていないと風の噂で聞いた。その場合、印の戦いは始まらない。3つ出現してから行うのが決まりだったからだ。
 俺は早くこの家を出たかった。父に聞くとあっさり承諾された。ただ、それは期限付きのものだった。

「花吹の印が出現するまでだ。それまでは好きにすればいい」

 それでも良かった。暖と2人だけで会える場所が与えられたのだから。
 しかし運命や宿命というのは本当に恐ろしいものだ。 
 おかしな話かも知れないが、暖が俺の側からいなくなってしまうのではないか、と不安に駆られた。
 暖が時々見せる表情は切なさが含まれていた。
 あの日もそうだった。忘れもしない、暖の誕生日の前日。6月28日。
 暖は俺の顔を見て、また悲しそうな顔をする。まるでこの恋人関係を疑っているようだった。
 俺は部屋に帰り、すぐに暖を抱いた。脱ぐと意外にも引き締まった身体は綺麗で汚したくなる。そんな感情を暖に刻み込む。
 情事が終われば俺たちは互いの肌を確かめあっていた。
 スマホのアラームが鳴る。画面には23時30分。

「やっべ、暖の誕生日になっちゃうな」

 俺は暖にキスを落とし、床に散らばった自分の下着とズボンを履いて準備を始める。
 冷蔵庫にあるケーキを出すと暖はすごく喜んでいた。
 暖がこちらを見ていない間にカバンからそっと青いケースを取り出す。お揃いのブレスレットも柄にもなく用意していた。

 6月29日 00時00分。

「お誕生日おめでとう」

 俺は暖にキスをした。
 急に背中が痛いという。その似たような現象に俺は覚えがあった。心臓は早鐘を打つ。
 暖の背中を見てその既視感は確実のものとなった。
 
 白い椿の花。

 美しい印だが、俺には残酷な花に見えた。それはこの恋が、生活が崩れる始まりを表していたからだ。
 それにこんな形で暖の苗字を知りたくなかった。

 俺ははっ、とする。このままだと暖が殺されるかもしれない。

 そんな不安が脳裏を過ぎる。祖父ならやりかねない。
 わざと酷いことをした。

「オレたちこれで終わりなのか?」

 俺は突き放すことしかできなかった。

「こんなのおかしい!」

 そんなこと俺だって分かっている。俺は怒りと悲しみとこのやり場のない今の感情を込めて扉を殴った。
 さっきまで暖に愛を伝えていた手は傷つけるものへと変わった。
 目頭が暑くなった。どうしたらいいんだ。

「かえ、れ…たの、むから」

 俺は自分の置かれた状況に頭を抱えるしかなかった。



 部屋にはさっきまでいた暖の匂いが残っていた。俺は落ちたケーキをさらにぐちゃぐちゃに殴った。原型を止めなくなるまで。
 気が済むまで殴ったそれは俺の心と同じ形をしていた。
 一緒に食べて笑い合って、そんな時間にしたかった。目の端に入る渡そうと思っていたブレスレットのケース。

 暖の悲しそうな顔が脳裏に蘇る。本当は追いかけてはいけない。頭では分かっているのに俺は傘も差さずに家を出た。歩道橋の所で暖を見つけた。傘を差しながら歌っていた。バースデーソングを。
 俺は足を止めてしまった。
 傷つけて泣かせてしまった暖をどうやって慰めればいいのか、俺には分からなかった。

「暖、ごめん……ごめんな」

 花の印が出たことで父は俺を家に戻らせた。暖と付き合っていたことが何故かばれていた。
 祖父に叱責を受けた。なせ、殺さなかったのかと。
 殺せるわけがないじゃないか。
  愛しているんだから。
  そんな中、暖からメッセージが届いた。

《何しているの?》

  俺は暖の家に向かった。メッセージを見て急いで来たと思われたくなくて、部屋に残った暖の物を持って。情報資料から住所を知り、初めて暖の家に行った。葉山家は無駄に大きい。だが、現当主が住むには珍しい一般家庭と同じ一軒家だった。
 ベランダに、祖父が用意したと思われる刺客が既にいた。俺は気絶させる、と同時にカーテンが開いた。
 それも普通に窓まで開けるものだから暖を蹴り飛ばした。
 きっと刺客が他にも来ているはずだから。
  熱が出ていたなんて俺は知らなかった。吐かせてしまった。今の俺は暖を傷つけることしか出来ていない。

 今日だってそうだ。刺客を追いかけて走って来た。
 なのに、結局殴り合いだ。俺との戦いの中で沢山傷つけた。震える手を苦しい心を隠すために容赦はしなかった。
 早く降参してくれればいいのに、暖は立ち向かって来てしまう。どうすればいいのか分からないでいた。


「暖、僕が側にいる間、守ってあげるからね」

  嫌な奴が現れたと思った。
 円は俺をちらり、と見て笑っていたからだ。2人は何かを話しいると、暖が円堂の背中に腕を回す。俺は暖を奪われてしまった。
 円堂が声に出さず口を動かす。

かわいがるよ。
  
 全身の血液が沸騰しそうだった。   今すぐにでもその男から引き剥がして俺が抱きしめてやりたい。
 だが、俺にはそんな権利がない。
 行き場がなくなった怒りは拳に集中する。爪が食い込んでいく。


  2人が俺を置いて去って行く。
 暖が俺を置いて行く。
 俺は傷ついた拳を見る。
 何のために、誰のために、酷いことをして来たのだろう。
 この手は、本当は暖を抱きしめたくて仕方がないのに。
 俺はその場に座り込んで動けなかった。

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