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【番外編】2.父親
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私は過去に目の前にいる男に、当主の座をかけて争い負けた。
彼は何を考えているのか見当がつかない。それは今も変わらない。
なぜか旅行に行こうと誘われ、私は富士山が良く見える場所にいた。
「晴、お前食いすぎだろ」
前当主である晴は、歩き食べが止まらない。
「なんだ、朝春も食べたいのか?」
差し出される食いかけに私は眉を顰める。
「いらん!」
私はスマホを取り出し、富士山の写真を朝陽に送る。
朝陽から「楽しんで」と返事が返ってきた。私は嬉しかった。
今まで、朝陽には辛い目に合わせてしまった。私の父の暴力や暴言に耐える朝陽を見ているだけなのが辛かった。助けに入るにも酷いことしか言えず、家に帰宅したとしても私たちの間には会話もなかった。
どう接していいのか、分からなかったのもある。妻がまだ生きていればこんなことはなかったかもしれない。
早くに病気で母を亡くし、祖父や私にはキツく指導され、今思うと本当に可哀想だった。私は父親として失格だ。
「旅行中なんだから湿気た顔するなよー」
私はお土産で可愛い手乗り人形の前で足を止めた。丸くて可愛いものが好きだ。妻の好きな趣味が私の趣味になった。
そのことを知っているのは大智と、このやっかいな晴だけだ。
私のスマホには丸くて可愛らしい顔が付いたキャラクターが付いている。
この間の鍋の帰りに貰ったものだった。
「買えばいいじゃん」
晴はそう軽く言うが私には買えなかった。
宿泊施設に着き、夕食を食べて二人で温泉に入り、部屋で晩酌をしていた。
「あのじじいはどうなった?」
「あの後から調子悪くなって、施設に入った。朝陽のために外に出したようなもんだけどな」
「父親ちゃんとやってるじゃん」
カチン、と私のグラスに晴のグラスが当てられる。
私は笑って、グラスの中の酒を煽った。
「ほら、これ」
晴が渡してきたのは私が買うか迷っていた手乗りサイズの人形だった。
私はそれを受け取る。
「子供だって親のこと知りたいと思うよ。今度教えてあげたら?」
「無理だ」
カシャッとスマホのカメラの音がした。晴が私を撮っていた。
「おい、それはなんの真似だ」
「はい、送信」
「誰に送った」
私のスマホが振動する。朝陽からの着信だった。
にやつく晴を他所に電話に出る。
「もしもし、どうした?」
『その、知ってるから』
「何を」
『可愛いものがすきだって、こと』
横でひらひらと晴が手を振っていた。私は頭を抱える。とても恥ずかしかった。
『そういうの俺、知りたいかも』
「そうか」
その後も少しぎこちない会話を済ませ、私は晴に酒の瓶を渡す。
「まだ付き合ってもらうぞ」
「おっ、いいねぇ」
私は次の日、二日酔いになり晴に笑われた。殴ってやろかと思ったが、まあまあ楽しい旅行だった。
私のお土産袋の中には沢山の手乗り人形とは別に朝陽と晴の息子、暖に渡す用の可愛い手乗り人形が入っていた。
彼は何を考えているのか見当がつかない。それは今も変わらない。
なぜか旅行に行こうと誘われ、私は富士山が良く見える場所にいた。
「晴、お前食いすぎだろ」
前当主である晴は、歩き食べが止まらない。
「なんだ、朝春も食べたいのか?」
差し出される食いかけに私は眉を顰める。
「いらん!」
私はスマホを取り出し、富士山の写真を朝陽に送る。
朝陽から「楽しんで」と返事が返ってきた。私は嬉しかった。
今まで、朝陽には辛い目に合わせてしまった。私の父の暴力や暴言に耐える朝陽を見ているだけなのが辛かった。助けに入るにも酷いことしか言えず、家に帰宅したとしても私たちの間には会話もなかった。
どう接していいのか、分からなかったのもある。妻がまだ生きていればこんなことはなかったかもしれない。
早くに病気で母を亡くし、祖父や私にはキツく指導され、今思うと本当に可哀想だった。私は父親として失格だ。
「旅行中なんだから湿気た顔するなよー」
私はお土産で可愛い手乗り人形の前で足を止めた。丸くて可愛いものが好きだ。妻の好きな趣味が私の趣味になった。
そのことを知っているのは大智と、このやっかいな晴だけだ。
私のスマホには丸くて可愛らしい顔が付いたキャラクターが付いている。
この間の鍋の帰りに貰ったものだった。
「買えばいいじゃん」
晴はそう軽く言うが私には買えなかった。
宿泊施設に着き、夕食を食べて二人で温泉に入り、部屋で晩酌をしていた。
「あのじじいはどうなった?」
「あの後から調子悪くなって、施設に入った。朝陽のために外に出したようなもんだけどな」
「父親ちゃんとやってるじゃん」
カチン、と私のグラスに晴のグラスが当てられる。
私は笑って、グラスの中の酒を煽った。
「ほら、これ」
晴が渡してきたのは私が買うか迷っていた手乗りサイズの人形だった。
私はそれを受け取る。
「子供だって親のこと知りたいと思うよ。今度教えてあげたら?」
「無理だ」
カシャッとスマホのカメラの音がした。晴が私を撮っていた。
「おい、それはなんの真似だ」
「はい、送信」
「誰に送った」
私のスマホが振動する。朝陽からの着信だった。
にやつく晴を他所に電話に出る。
「もしもし、どうした?」
『その、知ってるから』
「何を」
『可愛いものがすきだって、こと』
横でひらひらと晴が手を振っていた。私は頭を抱える。とても恥ずかしかった。
『そういうの俺、知りたいかも』
「そうか」
その後も少しぎこちない会話を済ませ、私は晴に酒の瓶を渡す。
「まだ付き合ってもらうぞ」
「おっ、いいねぇ」
私は次の日、二日酔いになり晴に笑われた。殴ってやろかと思ったが、まあまあ楽しい旅行だった。
私のお土産袋の中には沢山の手乗り人形とは別に朝陽と晴の息子、暖に渡す用の可愛い手乗り人形が入っていた。
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