天才魔法士がオレを離してくれません

湯川岳

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第1部

14.真実が眠る地下室

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 太陽が真上に上がった頃にオレはやっとベッドから起き上がることができた。

「あー……」

 久しぶりに飲みすぎてしまった。
トリスタンは無事に任務に行けただろうか。ズキズキする頭でそんなことを考える。
 今日が非番の日で本当に良かった。
 二日酔いの頭痛と昨日のトリスタンとの会話から大きくなっていった疑念。
 とてもじゃないがきっと仕事にならなかっただろう。

「……ルシアン」

 オレはまだルシアンを信じていたい。
 ならば自分で確認するしかない、と二日酔いの頭痛と戦いながら服を着替え重い腰を上げた。


 外はそろそろ雪でも降るのではないか、と思うくらい冷え込みが増していた。
 酔いを覚ますには丁度いい。
 非番では初めて来た魔法塔。長い廊下を歩いていれば魔法士達は珍しいものを見るかのようにオレを見ていた。

「テオドールさん、こんにちは。珍しいですね、今日はお休みですか?」

 エリオがにこにこと足早にオレの元に駆け寄ってくる。

「あ、あぁ、まぁな。それよりルシアンいるか?」

「ルシアン様なら今は魔獣討伐の件で第1騎士団に行っておられますよ」

「……そうか」

 また今度来るか、とも考えたがルシアンの研究部屋で待たせて貰えるか聞くとエリオは快諾してくれた。
 ルシアンの研究部屋には久しぶりに入った。最近はルシアンから報告書を持ってきてくれるので行く手間が省けていた。
 ソファに腰を下ろしぐるりを部屋を見渡せばあの日のソファが目に入る。
 かちゃり、とエリオが温かなハーブの香りがする紅茶をテーブルに置く。
 礼を伝え、一口飲むと二日酔いに効いている気がした。、

「……それにしても今日のテオドールさんはくっさいですね」

 エリオが鼻をつまんで露骨に嫌な表情をしてくる。

「昨日、トリスタンと久しぶりに呑みに行って盛り上がったんだ」

「そーいえば、この間トリスタンさん。僕にルシアンさんの魔法のこと沢山聞いてきまたよ」

「魔法塔の知り合いってエリオの事だったのか」

 珍しい組み合わせだな、と思う。2人はあまり面識がないはずだ。

「最近、仲良くなったんですよー。ほら、僕がルシアンさんのお使いで騎士団に行った時!」

 あの時か、とオレは紅茶を啜る。

「トリスタンさんはルシアン様のこと気にされてますけど、僕は一生懸命にテオドールさんのことしてくれてると思いますよ。それに最近、ルシアン様変わられたんですよ」

「……変わった?オレにはいつも通りだったが」

「ルシアン様って自分の研究部屋がもう1つ持っているんですが、それが地下にあるんです。基本ずーっとそこに引きこもってたんですよー。そこすごく薄暗くで僕は苦手なんですけどー」

 オレが魔法塔に来た時は大体、この部屋にいたはずだ。地下にいると聞いた事がなかった。

「それなのに最近は地下に籠っていないんです。テオドールさんのところにもわざわざ自ら行かれますし。何かあったらと心配されているんでしょうね」

ーーーオレの知らないルシアンがいる。

「……エリオ、地下の研究室に案内してくれないか?」

「えー!無理ですよー!普通の魔法士は立ち入り禁止なんですよ。僕は直属の部下だからルシアン様がいる時だけ入れただけなんで」

 僕が怒られちゃいます、と断られてしまう。
 心のどこかで行くな、と言っている自分がいるがルシアンを信じるために行きたい。

「ルシアンからはどこでも入っていいって言われてたんどけどな。オレは」

「ほんとですかー?んー、テオドールさんがそう言うなら、いいのかなー?」

 エリオは最後までうーん、と悩んでいたが「ルシアン様が言ったなら」と案内してくれた。


 地下までの道はワープが出来るように魔法が施されていた。場所から場所へはこの塔内であれば他の魔法士もできるとの事だった。
 暗い廊下を進む。息が白くなるくらい空気が冷たい。

「テオドール様のお陰でルシアン様、最近笑顔も増えたんですよ」

「前まではなかったのか?」

「僕たち下っ端の魔法士達からは氷の麗人なんて言われてました。あ、これはルシアン様に秘密ですよ」

 改めてオレはルシアンのことを何も知らなかったんだな、と思う。
本来のルシアンはどちらなのだろう。

「さぁ、着きましたよ。鍵、お渡ししていいですか?」

 鍵を受け取り、鍵を差し込むとガチャリ、と重たい音がした。
エリオはオレの顔をみてくすり、と笑った。

「ルシアン様はテオドールさんのこと、本当に大好きなんでしょうね」

「……え?」

「この部屋、僕たち本当に入れないんです。前にルシアン様がいない間に入ろうとしたんですね、ワープで塔の外に追い出されちゃったんですー」

 あはは、とエリオは笑う。

「すごく怒られちゃいましたよー。……あれは痛かったなー」

 思い出に浸って楽しそうな様子のエリオは魔法で攻撃されたことを話してくれた。ルシアンはエリオこの性格が憎めないのだろう。
 オレだったら完全に追い出すかもしれない。
 そんなことを帰って行くエリオの後ろ姿を見送りながら思う。

 1人だけになると辺りは静かになって不気味さが勝る。
 オレは、扉に手をかける。
 ルシアンはいつも冷静で穏やかで優しい。エリオの話が本当であればこの部屋にオレが知りたい真実とルシアンの本当の姿を知ることができるのだろう。
 オレは意を決して扉を開けた。
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