天才魔法士がオレを離してくれません

湯川岳

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第1部

15.取り戻したもの、なくしたもの ※

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 中に入るとパッと光が点ると同時に背後の扉が静かに閉じた。
  扉に触れるとこの部屋全体を外と違う魔法がかかっているようだった。
  防音魔法の類かもしれない。
  オレはゆっくりと部屋を見渡した。
  埃臭い室内は上の研究部屋よりも専門的な文献が多いように感じた。
  特段変わった部分はなかったが、綺麗に整頓されていた。エリオの言う通り暫く来ていないのか本棚に埃が溜まっている。

  オレは1冊の本の前で止まる。古びた本の見た目をしているのにどこか他の本とは違う気がした。
  惹かれるようにその本を取る。

「……これは」

  外に持ち出せないはずの禁書だった。なぜ、こんなところにあるのだろう。心臓の音がうるさく早鐘を打っている。
 ページを捲っていくとあるページで手が止まる。
【男性生殖器を女性生殖器に変える方法】
 静寂な部屋には本を捲る音が響く。
 どうやら本の中ではある程度は完成しているが完全ではないらしい。

「……あれは?」

 ふと、本を取った奥になにかあるのに気付いた。
 どうやら何かが隠されているらしい。他の本を取ると長方形の箱が姿を表す。魔法もかかっていないようだった。

「……ごめん、ルシアン」

  箱を開けると膨大な研究結果のようだった。

ーー魔獣の生殖器は見た目が変化するだけだった。

  殴り書かれた文字が目に入る。
 オレは1枚1枚読んでいく。
 実験資料は9年前から存在していた。最初は中々上手くいかなかったようだったが5年目頃には既に出来上がりを見せていた。
 数ヶ月前の資料では完全に出来上がり、生殖器が変わった魔獣は魔力を流し続け妊娠と出産を無事に成功させ、男性生殖器に戻しても問題はなかったと書かれていた。

 オレは震えが止まらなかった。なぜ、ルシアンはこの魔法に何年も費やしたのだろう。地下に潜って黙々と実験するくらい。     そもそも禁書はどこから?
  ルシアンを唆した奴がいる?
 思考がまとまらない。

 はっ、と人の気配を背後に感じる。
 扉が開く音はしなかった。


ーー誰かいる。

  感じたことがない、冷たくて凍てつくような魔力が全身にまとわりついてくる。
 はっ、はっ、と呼吸がしにくい。
 エリオが言っていた魔法塔内であればワープできるという言葉を思い出す。
 ここはルシアンしか入れない場所。
 考えている暇はなかった。
 携行していた剣を一瞬で抜き、背後にいる人物に襲いかかる。

「……っ」

「人の秘密を許可なく覗くのは、どうかと思うよ?」

 剣と魔法がぶつかり合う隙間から見えたのは、冷笑を浮かべたルシアンだった。
 いつもオレに向けられていた好意の眼差しは姿を消し、その瞳は悲しみに怒り、虚無が現れていた。

「なんでだよ、ルシアン。俺、信じてた」

「……嘘つきだね、テオは」

  ルシアンはゆっくりゆっくりと距離を詰めてくる。
 背後が壁で逃げ場がなくなるとルシアンはオレの顔横に手を置き逃げ場をなくす。

「気づいてたからここまで来たんでしょ?……信じていたのならここへは来ない」

 オレは言葉を失う。
 悲しみで満たされた心はふつふつと沸騰を始める。

「なんでお前が怒るんだよ!信じてお前を頼ったのに!ふざけんなよ!」

 ルシアンの胸ぐらに掴みかかる。

「ふざけんなよ!オレは、お前のこと少しだけ……」

「俺に絆され始めてたの?」

  はっ、と頭上でルシアンが鼻を鳴らす。
 こんな男知らない。
  オレは長年騙されていたのだと思うと目頭が熱くなる。

「……お前にとってオレはちょうどいい研究材料だったのか?」

 あの甘い言葉もあの時間も全部嘘だったのだろうか。

「そうだったら何かあるの?」

  小首を傾げ薄ら笑いながら当然というような表情のルシアンに鈍器で頭に殴られたような感覚だった。
 オレは力いっぱいルシアンの頬に拳を入れる。

「……どせ」

「なに、聞こえない」

「オレを戻せ!!……あの資料にもあった!戻せるんだろ!?」

「……いいよ、戻してあげる」

  ルシアンは口の中が切れたのか血を吐き出すとオレの両手を拘束し頭上に押さえつける。

「な、離せ!」

「また殴られるのは痛いから嫌だよ。じっとしてて」

 服をたくし上げ、下腹部に青い魔法がぽわっと浮かび、ゆっくりと中に入っていく。

「はっ……ぐっ」

  重たく苦しい魔力が下腹部に広がる。あの甘くてドロリ、とした魔力は微塵も感じなかった。
 徐々に光が消え、25年連れ添った相棒の感覚がする。
 同時に心のどこかで喪失感に襲われる。

「うわっ!」

 ルシアンに腕を捕まれテーブルの上に乱暴にうつ伏せにさせられる。
 まだ身動きが取りにくく顔をテーブルに打つ。
 背後から覆いかぶされ、ルシアンに首筋を舐めなれる。

「あっ……はぁっ、くっ」

 服がたくし上げられ、背骨を伝うように舌先に舐め取られる。
 ぞくぞくと甘い刺激を記憶してしまった腰が震えてしまう。

「やめろ、ルシアン!」

 ズボンと下着が下ろされ、ルシアンにそこを優しく扱かれる。

「んっ……やめ、はっ、んんっ」

  ルシアンは手を止めることはなく、何も言わず首筋や頬にキスを落とす。
 今与えられるものは全て優しくて今まで通りの愛がある。
 オレはどちらが本当のルシアンなのかもう分からなくなっていた。

「ああっ……だめだ、ルシアン、やめっあああっ」

  ルシアンの手の中で達してしまう。
  戻ってから初の射精だったが、しっかりと熱い粘液が溢れる。
 ルシアンはその溢れたものを窄みに塗りつけ、指を入れていく。

「ルシアン、やめ、ろっ」

  逃がさまいと押さえつけられ、中で指が何かを探すかのように動いていく。

「息、ちゃんと吐いて」

  ルシアンに顎を掴まれる。違和感がすごかったが息を吐くと楽になっていく。

「ーーあっ」

 ある一点をルシアンの指が掠めると腰が思わず跳ねてしまう。
 初めて味わう感覚だった。オレの反応をみたルシアンはそこを集中して優しく刺激していく。

「あ、あっ、ああっ……」

 違和感から甘美な刺激に変化する。
 このままで本当にいいのだろうか。また同じように流されてしまいそうになる。
 全てを許して受け入れてしまいたくなる。

「んっ、ルシア、ン……それ以上、したら本当に嫌いになる」

 ーーーお前が分からない。

 オレはこの1ヶ月でルシアンのことを好きになってしまっていたんだと気付かされる。目頭が熱くなり、頬に涙が伝うのが分かった。

  中で動いていたルシアンの指が止まり、ゆっくり引き抜かれた。

「……テオ、泣いてるの?」

 冷たい指先が頬を伝う涙を拭う。ルシアンの優しさがオレの感情を、ぐちゃぐちゃに掻き回す。ルシアンはそれ以上何も言わなかった。
  静かになった空間はオレの泣き声だけが響いていた。

 
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