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第1部
16.雪解けの予感
しおりを挟むあれから3ヶ月くらいたっただろうか。
外は雪がしんしんと降り積もり、外を歩くのもままならなくなった。
自分の家には帰らず騎士団の寄宿舎に泊まることが多くなっていた。
「……今日も寒いな」
執務室の暖炉がパチパチと音を立てて薪が燃える。
あの日、ルシアンは何も言わずオレの涙をずっと拭いていてくれた。
それっきり会っていない。仕事でもエリオが来るようになり、オレも魔法塔には近寄らなくなった。
何かを察しているのはエリオは何も聞いてこない。もちろんトリスタンもだ。
それが今は無性にありがたかった。
執務室の扉がノックされる。返事をすると深刻な表情をしたトリスタンが入ってくる。
「やばいぞテオドール。大量の魔獣がこっちに向かってきているらしい。もうすぐ吹雪もやって来そうなのに」
「まだ招集の連絡は来ていないが……先にどこかの部隊が行くのか?」
毎年、寒くなると餌を求めて魔獣が降りてきてしまうことはあったが大量というのはいささかおかしい。
魔獣達の環境に何か別の個体がやってたとしか考えられない。
トリスタンの顔を見れば同じことを思っているようだった。
「……ドラゴンかもな」
縄張りから溢れた個体が来てしまったのだろう。
「やっかいだな、テオドールどうする?」
「その内、招集命令が来るだろうから用意しとけって皆に伝えておいてくれ」
わかった、とトリスタンが部屋を出ていく。ドラゴン相手はきっと魔法士も呼ばれる。久しぶりにルシアンの顔も見ることになるんだろうな、とため息をつく。
しかし、今はそんなこと言っていられない状況だ。
『ーーっ!?』
扉の外が騒がしい。隊員達が士気を上げているのかと思ったが違うようだった。
扉を開けてみると屈強な隊員達に誰か囲まれていた。イザーク・フォン・レニオダス殿下だ。
キラキラと輝く黄金の髪に瞳。黒い軍服に身を包み、次期国王としての威厳がそこにあった。
その横で笑顔を絶やさない女性がいた。ルシアンの婚約者のイザベラだった。
彼女はなぜ、王太子と共にいるのだろう。
「……別の幸せ」
ルシアンが言っていたな、と記憶を辿る。
イザークどイザベラがオレを見ていることに気づく。
オレは慌てて2人に挨拶をしに行く。
「魔獣の話は聞いているだろう?テオドール隊長。少し話そう。急いでいるからね、君の執務室はどこだい?」
オレは執務室に案内をする。トリスタンが慌てて紅茶等を用意してくれる。
執務室の部屋は異様な空気に包まれていた。魔獣のことならば直接騎士団に顔を出さなくてもいいはずだ。、
「すまないがトリスタン・フェルナンド副隊長。大事な話があるんだ。外へ出ててくれるとありがたい」
イザークはトリスタンを外に出し、防音結界を張る。
「さて、テオドール隊長。先に謝らせてもらう。今回の件、申し訳なかった」
イザークとイザベラが頭を下げる。
「や、やめてください。なんのことですか!」
「君の身体の異変のことだよ。もう元に戻っていることはルシアンから聞いているけどね」
「もしかして、貴方がルシアンに禁書を?」
ルシアンの独断で禁書を持っているなんてことは有り得ないことは分かっていた。それがまさか王太子とは微塵も思わなかった。
「10年程前にね、彼に渡したんだ。君のことを振り向かせたくて頑張っていたから。そして僕もイザベラが欲しかった。愛していたからね」
「そうですか」
「興味ないの?どうしてルシアンがここまでしたのか」
興味を持ったところでオレたちはあの日に全てなくなった。2人を繋いでいた親友、という肩書きすらも。
「興味はありますが、今さら知ったところで……」
「困ったなぁ、どーしようかイザベラ」
イザークは片手で額を抑える。嘘くさい演技だった。イザベラはそんなイザークの姿にため息を付く。
「10年前の契約のお話された方が早いですよ」
「やっぱりそうかー。ルシアン、自分で離せば良かったのに。僕が話さなければならなくなったじゃないか」
「……失礼ながら、今は多くの魔獣が迫って来ています。そんな優長にしていられないのでは?」
真実は確かに知りたくもある。執務室の鍵がかかったところには禁書とルシアンに関する未だに出せていない報告書が閉まってある。
しかし、今はそれどころではない。街に魔獣が入ってしまえば民が血を流す。
窓の外がカッと赤くなる。同時に地響きが建物を揺らす。
「ルシアンが自分が行くって言うからさ、行かせたんだよ。第1部隊も一緒にいるんじゃないのかな」
「では尚更、オレ達も向かわなくては」
「行ってもいいけど、何も知らなかったら後悔するよ?」
真っ直ぐオレを射抜く王太子の瞳。
王の風格が出てきているのか思わずたじろいでしまう。
「テオドール様、少しだけでいいので聞いて下さい。お願いします。ルシアン様のためでもあるのです」
「……分かりました。少しだけなら聞きましょう」
イザークは10年前の契約のこと、イザベラとは婚約破棄になっていること、このままだと新しい婚約者が宛てがわれること。
全てを聞いて、ルシアンが10年前よりもっと前からオレのことが好きだったと知る。
ルシアンが惹かれるような、何かをした記憶はなかった。
それなのに長い間ずっと、あの冷たい研究室で1人黙々と実験を繰り返していたのか。
オレを振り向かしたいだけのために、家族になりたいがために。
ーーー頭おかしいんじゃないか?
王太子もそうだ。みんな頭がおかしい。
ただもっと頭がおかしいのは、オレかもしれない。
ルシアンのことをそれでも好きなのだから。話を聞いて本人の口から色々ことを聞きたくなった。
「オレも魔獣討伐に向かいます」
今すぐルシアンのところに行きたい。
「そうだね、行っておいで。ルシアンを救ってくれ。あいつのことだからわざと攻撃でも当たって死のうとするかもしれないしね」
「……冗談を」
「僕とルシアンは似た者同士だ。やっと愛している人がこっちを向いてくれたのに、傷付け、嘘がバレたら僕だったら死ぬね」
ルシアンならやりかねない、と思った。
先程から大きな魔法の光が窓から見えない。
ーー嫌な予感が胸を過ぎる。
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