天才魔法士がオレを離してくれません

湯川岳

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第2部

5.後悔とその狭間で

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「どうして信じてくれないんだよ!」
 
ルシアンは、はっとするも眉間に皺を寄せ唇を噛む。
離れていくオレたちはお互いが見えなくなるほど黒い闇に覆われた。

  目を覚ますとど、ど、ど、と心臓の音が耳の血液を通って大きく聞こえる。
 時計を確認し、テントから外に出て目張りの部下と交代をする。

 オレはルシアンと喧嘩してしまったことを後悔をしていた。
 魔獣討伐の遠征がここまで長引くとは思っていなかった。あれから約3ヶ月程は過ぎただろう。まだ時間はかかりそうな気がした。
 
「……雪?」

 曇天の雲からひらひらと白くて冷たい雪が舞う。
 手のひらに落ちた雪は溶けて水になった。

「あいつ、ちゃんと……ご飯食べてるかな」

 オレはあの日、ルシアンをまた傷つけたのだろう。 
 そう、きっとあの日から始まっていたのだろう。
 リュークがこの国の騎士団に入った日から。



 王家主催の武道大会が終わり、イザークの結婚式が目前となった頃。
 雨が降りそうな空だった。
 オレはトリスタンと新人の部下達と共に汗を流していた。
 休憩をすると汗を拭きながらトリスタンがやって来た。

「なぁ、テオ知ってるか?新しい騎士が入っくるらしいぞ」

「こんな時期に?珍しいな」

「それがさ、リュークらしいんだよ」

「え!?それ、本当か!?」

 どこの部隊に入るのだろうか。オレは嬉しかった。

「なんでも、御前試合の後からシリトン隊長と移籍したいと連絡をしていたらしい」

  シリトン・ビースト。オレの憧れの人だ。その人が認めるということは、リュークはやはり強いのだろう。
 オレはわくわくして、早くリュークに会いたかった。
 しかし、トリスタンはそんなオレを見て困った顔をした。

「あんまその顔。ルシアン様の前で出すなよ。お前は婚約者がいるっていうこと、少しは肝に銘じた方がいい」

「ちゃんと分かってるよ。なんだよ、別に仲良くしたいだけだろ」

「まぁ、お前の気持ちも分からなくもないが。俺はルシアン様に同情するよ」

 トリスタンは肩を竦めた。

「まぁ、分かってるならいいんーー!?」

 オレはトリスタンを蹴り、遠くから飛んできたそれを剣で受け止める。
 土埃が晴れると目の前にリュークがいた。
 改めて思う。学生の頃のルシアンの面影に似ている。それに何かに一生懸命で、それを目指すための意欲を宿した切れ長の瞳。そして色は違うが長いさらり、とした髪。
 何より、学生の頃のルシアンは可愛くて美しかった。リュークも可愛くて美しい。
 オレは昔のルシアンを重ねてしまう。

「ようこそ、騎士団へ」

 オレが手を差し出すと、リュークはその手を取り笑った。

「テオドール、少しいいか」

 リュークの後ろにシリトンがいた。
 分厚い固い筋肉に覆われた佇まいは隊長としての風格があった。オレとは比べものにならない強靭な筋肉。少し羨ましく思う。
 トリスタン達から離れた場所に移動し、シリトンと向かい合う。

「リュークを第3部隊に入れようと思っている。イザーク様もそれがいいと許可を出してくれている。今後のためにな」

 ーーー今後のため。
 それはきっとオレが子供を身篭った時、ということだろう。オレはこの仕事が好きだ。シリトンのようになりたくて入った騎士団だ。体調、という夢も叶えた。
 だからこそ、どうすればいいのか迷っている。

「……そうですね、ありがとうございます」

「頼んだぞ。あいつ、お前に憧れているそそうだ。良かったな」

 シリトンはオレの頭をわしゃわしゃと撫でる。

「あんなちっこかったやつが今度は憧れの存在になったなんてな!誇らしいぞ!」

  オレは騎士団の父とも言われるシリトンにそう言われて嬉しかった。
 シリトンは自分の隊舎へ帰って行った。

 ポツポツと雨が降り出す。
 隊員達が中に入っていく音がする。オレは上の階の渡り廊下を見ていた。
 ルシアンがこちらを見ていたからだ。
 視線は交わっていない。

見ていたのはリュークだった。

 オレはルシアンの元に走った。


「……ルシアン!」

 ちょうど渡り廊下を渡りきったと思われるルシアンがオレを見る。

「どうしたの?そんなに急いで」

「あのさ、大丈夫だから」

 オレはルシアンに近づく。誰もいない廊下で2人きりだった。

「オレはお前しか、見てないからな」

「彼はテオの隊に?」

「……そうだ。大事なオレの隊員になった」

「大事な、ね。俺はテオに今、どう思われてるのかな。嫉妬で狂った男に見える?」

 ルシアンは汗と雨で濡れた俺の頬に触れる。指先はひどく冷たかった。
 オレはルシアンの手を握る。

「……見えなくもない」

 オレはルシアンの手にキスを落とした。

「それくらいオレが好きなんだろ?信じてくれよ、大丈夫だから」

「でも、可愛いんでしょ?」

 少し、拗ねた様だった。

「可愛い。昔のルシアンに似ているから」

 ルシアンはオレにキスをする。

「過去を見ないで、俺だけを見て」

「……見てるよ。だからこうやって気にしてここまで走って来ただろ」

 奥の方から人の声が聞こえてくる。
 オレはルシアンから離れた。

「オレ、戻るな。じゃぁな」

 それからイザークの結婚式までの間、お互い警備や業務で多忙が続き会えない日々が続いていた。
 会ったとしてもルシアンの横顔や後ろ姿だった。

 真夜中でもいいから会いに行けば良かった。

そう後悔する日が来るとはオレは思ってもみなかった。
 
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