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第2部
6.祝福と悲劇、そして怒り
しおりを挟む美しいスタンドグラスが輝くチャペル。
光のような髪を輝かせるイザークの横に美しい純白のドレスをきたイザベラがいた。
まるで絵本から出てきたような2人にオレは思わず見惚れてしまう。
オレは騎士団としてではなく、ルシアンの婚約者として参列していた。
久しぶりに見たルシアンは少し疲れたような顔をしていた。
それでもルシアンは、しっかりとイザーク達の姿を見つめていた。
夫婦として、誓いの口付けをする。
幸せそうな姿にオレは思わず笑みが零れた。
夜になるとオレは騎士団として城の警備に入った。結婚式を挙げた2人の舞踏会。他国の貴族も一同に揃うからだ。
騎士団員は紺色に金の刺繍を施した礼装を身にまとっていた。
ペアとなったオレとリュークは談笑をしている貴族達に目を配らせる。
微かに聞こえてくるオレに対しての悪意を持った声も聞こえてくる。
「あの人が誘惑された方?」
「誘惑なんてとんでもない。ただの実験材料でしょ」
「でも、ルシアン様は彼を愛しているそうよ。ほら、グランディール家の……」
オレはイザークと共にいるルシアンを見る。他国の貴族と話をしている様だった。ルシアンの後ろには令嬢達がいる。
声を掛けられれば貼り付けたにこやかな笑顔で応対していた。
思わずため息をついてしまう。
「テオドールさん、外に行きましょう。こここにはトリスタンさん達もいます」
リュークが耳元でコソッと伝えてくる。反対側にいたトリスタンがこちらを見ていた。外に出ろ、と合図を送られる。
分かった、と合図で返事を返した。
外は虫の音が聞こえるくらい静寂に包まれていた。道は光の魔法が美しく彩っていた。
「大丈夫ですか?なんでみんな知らないくせに」
「……何も知らないから言うんだよ」
そう、何も知らないからだ。
本当のルシアンの姿も、最初は研究などと様々なことはあったもののオレたちが愛し合ってるということも。
彼らは知らない。
知らないから好き放題言える。
「辛く、ないですか?」
リュークが心配そうにオレの顔を覗く。
分かってはいた。ルシアンが取り巻く環境はそれほど大きいことも。
「……辛いよ」
初めて口に出した。リュークだったからかもしれない。
「あ~、みーつけたーぞー」
フラフラと千鳥足の他国の貴族が2人やって来た。オレは今にも倒れそうな男の方を倒れないように支えた。
「おまえ~、テオドール・サリバンだっけ~?ここ、女になってんのかー?」
オレの股間を弄られる。思わず引き離すと男は倒れてしまった。
「いってぇなぁ~」
「すみません、大丈夫ですか?」
男はオレにプッと唾を吐く。頬に付着した唾がドロリと垂れる。気持ち悪かった。オレは殴りたい衝動を抑える。
「男だったじゃねぇか、さわんじゃねぇ~。他はどうなんだよ~」
男の手が伸びてくる。
「隊長に触るな!」
長い黒紫の髪がオレの前を遮る。
「リューク、どうやら彼らは酔いすぎて気が大きくなっているらしい。一夜を地下で過ごしますか?大歓迎ですよ?」
にこやかに伝えると慌てた様子で男たちは暗闇に消えて行った。
オレは悔しかった。
ルシアンまで馬鹿にされたようだった。
何も出来ない自分が初めて惨めに思えた。
隊長としての威厳が今ここで自分を立たせていた。
「テオドール隊長」
リュークがオレの頬を拭いてくれる。
「泣きそうな顔してますよ」
オレは深く膝を曲げしゃがみ込み、リュークから見えないように顔を隠す。
「やっぱ分かる?」
「分かりますよ。悔しいですよね」
「ああ……悔しいな……」
ぐい、と引き寄せられる。オレはリューク腕の中にいた。
「僕、昔のルシアン様に似ているんですよね?」
「なんで知って」
「酔ってる時に聞きました」
オレは笑ってしまう。リュークもくすっと笑う。
「ルシアン様じゃないですけど、安心して泣いていいんですよ」
鼻の奥がつんとする。1度出てしまった涙は止めることができなかった。
ポタポタと地面にシミを作っていく。
リュークの優しさがじくじくと傷付いた傷が少しだけ癒されていく気がした。
「……テオ?」
ルシアンの声が聞こえた。顔を上げるとイザークといたはずのルシアンがいた。
「ルシアン……なんで」
「なんでってなに?俺がテオの所に来てはいけないの?」
辺りを冷たい魔力が覆う。ルシアンが怒っていた。
「違う、イザーク殿下の側にいなくていいのか?」
「ねぇ、なんで泣いてるの?そいつに泣かされたの?」
「ちがっ」
ルシアンが魔法を使いリュークの首元を絞め持ち上げる。
リュークが苦しそうに顔を顰める。
「やめろ!」
「答えて、なんで泣いてるの?」
「それはっ」
オレは言えなかった。
自分に向けられる好奇や嫌悪の眼差し。先程のような卑猥な対応にこれからの自分の未来への不安。
それに何よりルシアンが酷くいわれることが嫌だった。なんて。
喉元まで来ているのにオレは言えなかった。
「彼には言えるのに、俺には言えないの?何それ。さっきも恋人同士みたいだった」
オレはルシアンを蹴り飛ばす。
リュークの首を絞めあげていた魔力が消える。
「……ふざけんなよ」
オレの握り締められた拳からポタポタと血が垂れていく。
「どうして信じてくれないんだよ!」
ルシアンは、はっとするも眉間に皺を寄せ唇を噛む。
「オレを好きだって言う割に何も信じてくれないじゃないか!」
オレはリュークの腕を掴んでその場から離れる。
ルシアンはオレを呼び止めることも追いかけることもしなかった。
お互いに空いてしまった穴は開いたまま、オレは魔獣遠征に長いこと行くことになった。
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