天才魔法士がオレを離してくれません

湯川岳

文字の大きさ
26 / 36
第2部

6.祝福と悲劇、そして怒り

しおりを挟む

美しいスタンドグラスが輝くチャペル。
 光のような髪を輝かせるイザークの横に美しい純白のドレスをきたイザベラがいた。
 まるで絵本から出てきたような2人にオレは思わず見惚れてしまう。
 オレは騎士団としてではなく、ルシアンの婚約者として参列していた。
 久しぶりに見たルシアンは少し疲れたような顔をしていた。
 それでもルシアンは、しっかりとイザーク達の姿を見つめていた。
 夫婦として、誓いの口付けをする。
 幸せそうな姿にオレは思わず笑みが零れた。

 夜になるとオレは騎士団として城の警備に入った。結婚式を挙げた2人の舞踏会。他国の貴族も一同に揃うからだ。
 騎士団員は紺色に金の刺繍を施した礼装を身にまとっていた。
 ペアとなったオレとリュークは談笑をしている貴族達に目を配らせる。
 微かに聞こえてくるオレに対しての悪意を持った声も聞こえてくる。

「あの人が誘惑された方?」

「誘惑なんてとんでもない。ただの実験材料でしょ」

「でも、ルシアン様は彼を愛しているそうよ。ほら、グランディール家の……」

  オレはイザークと共にいるルシアンを見る。他国の貴族と話をしている様だった。ルシアンの後ろには令嬢達がいる。
 声を掛けられれば貼り付けたにこやかな笑顔で応対していた。
 思わずため息をついてしまう。
 
「テオドールさん、外に行きましょう。こここにはトリスタンさん達もいます」

 リュークが耳元でコソッと伝えてくる。反対側にいたトリスタンがこちらを見ていた。外に出ろ、と合図を送られる。
 分かった、と合図で返事を返した。

 
  外は虫の音が聞こえるくらい静寂に包まれていた。道は光の魔法が美しく彩っていた。

「大丈夫ですか?なんでみんな知らないくせに」

「……何も知らないから言うんだよ」

 そう、何も知らないからだ。
 本当のルシアンの姿も、最初は研究などと様々なことはあったもののオレたちが愛し合ってるということも。
 彼らは知らない。
 知らないから好き放題言える。

「辛く、ないですか?」

 リュークが心配そうにオレの顔を覗く。
 分かってはいた。ルシアンが取り巻く環境はそれほど大きいことも。

「……辛いよ」
 
 初めて口に出した。リュークだったからかもしれない。

「あ~、みーつけたーぞー」

 フラフラと千鳥足の他国の貴族が2人やって来た。オレは今にも倒れそうな男の方を倒れないように支えた。

「おまえ~、テオドール・サリバンだっけ~?ここ、女になってんのかー?」

 オレの股間を弄られる。思わず引き離すと男は倒れてしまった。

「いってぇなぁ~」

「すみません、大丈夫ですか?」

  男はオレにプッと唾を吐く。頬に付着した唾がドロリと垂れる。気持ち悪かった。オレは殴りたい衝動を抑える。

「男だったじゃねぇか、さわんじゃねぇ~。他はどうなんだよ~」

 男の手が伸びてくる。

「隊長に触るな!」

 長い黒紫の髪がオレの前を遮る。

「リューク、どうやら彼らは酔いすぎて気が大きくなっているらしい。一夜を地下で過ごしますか?大歓迎ですよ?」

 にこやかに伝えると慌てた様子で男たちは暗闇に消えて行った。
 オレは悔しかった。
 ルシアンまで馬鹿にされたようだった。
何も出来ない自分が初めて惨めに思えた。
 隊長としての威厳が今ここで自分を立たせていた。

「テオドール隊長」

 リュークがオレの頬を拭いてくれる。

「泣きそうな顔してますよ」

 オレは深く膝を曲げしゃがみ込み、リュークから見えないように顔を隠す。

「やっぱ分かる?」

「分かりますよ。悔しいですよね」

「ああ……悔しいな……」

 ぐい、と引き寄せられる。オレはリューク腕の中にいた。

「僕、昔のルシアン様に似ているんですよね?」

「なんで知って」

「酔ってる時に聞きました」

 オレは笑ってしまう。リュークもくすっと笑う。

「ルシアン様じゃないですけど、安心して泣いていいんですよ」

鼻の奥がつんとする。1度出てしまった涙は止めることができなかった。
 ポタポタと地面にシミを作っていく。
 リュークの優しさがじくじくと傷付いた傷が少しだけ癒されていく気がした。

「……テオ?」

 ルシアンの声が聞こえた。顔を上げるとイザークといたはずのルシアンがいた。

「ルシアン……なんで」

「なんでってなに?俺がテオの所に来てはいけないの?」

 辺りを冷たい魔力が覆う。ルシアンが怒っていた。

「違う、イザーク殿下の側にいなくていいのか?」

「ねぇ、なんで泣いてるの?そいつに泣かされたの?」

「ちがっ」

 ルシアンが魔法を使いリュークの首元を絞め持ち上げる。
 リュークが苦しそうに顔を顰める。

「やめろ!」

「答えて、なんで泣いてるの?」

「それはっ」

 オレは言えなかった。
 自分に向けられる好奇や嫌悪の眼差し。先程のような卑猥な対応にこれからの自分の未来への不安。
 それに何よりルシアンが酷くいわれることが嫌だった。なんて。
 喉元まで来ているのにオレは言えなかった。

「彼には言えるのに、俺には言えないの?何それ。さっきも恋人同士みたいだった」

 オレはルシアンを蹴り飛ばす。
 リュークの首を絞めあげていた魔力が消える。

「……ふざけんなよ」

 オレの握り締められた拳からポタポタと血が垂れていく。

「どうして信じてくれないんだよ!」

 ルシアンは、はっとするも眉間に皺を寄せ唇を噛む。

「オレを好きだって言う割に何も信じてくれないじゃないか!」

 オレはリュークの腕を掴んでその場から離れる。
 ルシアンはオレを呼び止めることも追いかけることもしなかった。
 お互いに空いてしまった穴は開いたまま、オレは魔獣遠征に長いこと行くことになった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

身代わり閨係は王太子殿下に寵愛される

雨宮里玖
BL
僕なんかが好きになっちゃいけない相手なんだから……。 伯爵令息の身代わりになって王太子殿下の閨《ねや》の練習相手になることになった平民のラルス。伯爵令息から服を借りて貴族になりきり、連れて行かれたのは王太子殿下の寝所だ。 侍女に「閨事をしたからといって殿下に恋心を抱きませんように」と注意を受け、ラルスは寝所で王太子殿下を待つ——。 アルファの王太子×厩係の平民オメガ

傷跡傭兵の強制結婚-実子かどうかはどうでもいいので義理の息子を溺愛します-

同軸
BL
前の世界で凄惨な死を迎えた傭兵であった自分、シラー・イーグルズアイは神の使徒として異世界に転移してしまう。 現地の法令の元、有力貴族であるロアイト公爵との結婚を強引にも取り付けられ急な結婚生活が始まるが、傷んだ食事を出されたり冷遇されたりと歓迎されていない様子。でも誰も殺そうとしてこないし良いか。 義理の息子が成人するまではしっかり面倒をみてその後に家を出ようと画策するが、ロアイト公爵の様子がどうにもおかしくなってきて……?

ぼくが風になるまえに――

まめ
BL
「フロル、君との婚約を解消したいっ! 俺が真に愛する人は、たったひとりなんだっ!」 学園祭の夜、愛する婚約者ダレンに、突然別れを告げられた少年フロル。 ――ああ、来るべき時が来た。講堂での婚約解消宣言!異世界テンプレ来ちゃったよ。 精霊の血をひく一族に生まれ、やがては故郷の風と消える宿命を抱えたフロルの前世は、ラノベ好きのおとなしい青年だった。 「ダレンが急に変わったのは、魅了魔法ってやつのせいじゃないかな?」 異世界チートはできないけど、好きだった人の目を覚ますくらいはできたらいいな。 切なさと希望が交錯する、ただフロルがかわいそかわいいだけのお話。ハピエンです。 ダレン×フロル どうぞよろしくお願いいたします。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!

永川さき
BL
 魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。  ただ、その食事風景は特殊なもので……。  元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師  まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。  他サイトにも掲載しています。

【完結】スパダリを目指していたらスパダリに食われた話

紫蘇
BL
給湯室で女の子が話していた。 理想の彼氏はスパダリよ! スパダリ、というやつになったらモテるらしいと分かった俺、安田陽向(ヒナタ)は、スパダリになるべく会社でも有名なスパダリ…長船政景(マサカゲ)課長に弟子入りするのであった。 受:安田陽向 天性の人たらしで、誰からも好かれる人間。 社会人になってからは友人と遊ぶことも減り、独り身の寂しさを噛み締めている。 社内システム開発課という変人どもの集まりの中で唯一まともに一般人と会話できる貴重な存在。 ただ、孤独を脱したいからスパダリになろうという思考はやはり変人のそれである。 攻:長船政景 35歳、大人の雰囲気を漂わせる男前。 いわゆるスパダリ、中身は拗らせ変態。 妹の美咲がモデルをしており、交友関係にキラキラしたものが垣間見える。 サブキャラ 長船美咲:27歳、長船政景の年の離れた妹。 抜群のスタイルを生かし、ランウェイで長らく活躍しているモデル。 兄の恋を応援するつもりがまさかこんなことになるとは。 高田寿也:28歳、美咲の彼氏。 そろそろ美咲と結婚したいなと思っているが、義理の兄がコレになるのかと思うと悩ましい。 義理の兄の恋愛事情に巻き込まれ、事件にだけはならないでくれと祈る日々が始まる…。

処理中です...