天才魔法士がオレを離してくれません

湯川岳

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第2部

7.一言だけの手紙

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  窓の外から見える景色は白だった。
 魔獣の討伐遠征に来ていたオレたちは山を超え、小さな町に身を寄せていた。

「酷くなる前にここまで来れて良かったな」 

第2部隊隊長のウィングの姿が窓に映る。メガネを掛け知的な雰囲気があり、肩までかかる藍色の紙は中間部分から後ろに縛られていた。、
 オレは渡された温かい紅茶を受け取る。

「いつ帰れるのか見通しが立たないな」

 トリスタンは真剣に地図を見て迂回路を探す。

「目的地にも着いてないからな。とりあえず、少し暖かくなるまではここにいさせてもらおう」

  雪が降らなくなるのはあと2ヶ月程。それから報告にあった谷にある魔獣討伐に向かうとしても1ヶ月程かかる。それから帰還となると1年近くかかることになる。
 オレはため息をつくしか出来なかった。

「そーいえば、テオドール。ルシアン様と喧嘩したそうだな」

 リュークが言っていた、とトリスタンが言ってくる。

「なんで喧嘩したんだ?いつも仲が良さそうだったじゃないか」

 テーブルに置かれた菓子をウィングが口に入れる。
 話してみろよ、とトリスタンが優しく促してくれる。
 オレはポツリポツリと話した。


「うーん、ウィング体調どう思います?」

「そうだな~、難しいことだが、お互い悪いような気もするが……」

 オレは紅茶を啜る。

「いやいや、ウィング隊長。絶対、テオドールが悪いですよ!見たでしょ?酔っ払ってリュークに抱きついてるの」

「確かに、私だったらルシアン様と同じ気持ちになってしまうかもな」

 遠征中、一人で考える時間が多くそれはオレも思っていたことだ。

「だから言ったよな?婚約者としてしっかりしろって」

「オレなりに、しているつもりだった……」

 紅茶の中に映るオレは情けない顔をしていた。

「トリスタン、言い過ぎるのも良くないよ。テオドール、手紙を書くのはどうだい?長い遠征になるだろ?」

 わかった、と言ってオレは自室に帰った。しかし、何を書いていいか分からず紙が減るばかりだった。
 色々考えるのがいけないのだろうか。
 オレは一言だけ書いた。

 部屋がノックされ、入って来たのはリュークだった。

「どうした?リューク。何か用か?」

 オレは手紙を暖炉に入れる。しかし、最後に書いた1枚だけは入れることが出来なかった。入れるかどうか迷っているとリュークがその手紙を手に取った。

「だめですよ。ルシアン様にでしょ?」

「でも、送ったってしょうがない。もう3ヶ月も経った。オレのこと飽きてたりしてな……ごめん、女々しいな」

 リュークの前だと不思議なくらい自分のことを話せる。何故なのか分からない。

「そんなことないです。僕、ずっとテオドール隊長に謝りたかった。ごめんなさい。僕が近付きすぎたから」

「いや、それは違うだろ」

「違わないんです!」

 リュークが初めて大きい声を出し、オレは驚いてしまった。リュークは目を逸らし、顔を赤くする。

「僕、実は好きな人がいるんです。ずっと好きで、剣を頑張って磨いたんです。振り向いて欲しくて」

 やはり、ルシアンと似ている。どうしてここまで似ているのだろう。彼らは面白いくらい似ている。

「その人、お、男なんです。だからっ、そのっ、2人のことずっと応援してて」

 リュークが惹かれている相手が男だと知り、オレがなぜ彼にだけはさらけ出せるのか。
 同じだからだ。
 先が見えない道を進んでいるような孤独。それでも惹かれた相手。
 その相手以外、もう見えない。
 リュークもまたそれを感じ取り、オレの側にいることが多かったのだろう。

「ごめんな、ずっと考えてたのか?」

「手助けしたかっただけなのにっ。2人に何かあってしまったらって思うと、申し訳なくてっ」

「だから、大丈夫だって」

 リュークはすみません、と泣き続けた。


夜も更けた頃になるとやっと泣き止んだリュークの目は腫れていた。

「リューク、お前はお前でがんばれよ」

 ルシアンみたいにならないように純粋なまま人を好きになって欲しい。
 オレは切にそう願いながら頭をぽんぽんと撫でた。

 部屋がノックされる。入って来たのはウィングだった。

「まだここにいたのか。リューク、そろそろ部屋に戻ろう」

「……ウィング隊長」

 リュークは驚いた顔でウィングを見上げる。

「うわ。どうしてそんな顔になっているんだ」

 ウィングが優しく顔にかかった髪を払う。

「テオドール、私達は部屋に戻るよ。すまなかったね」

 どうして別の隊なのに、とオレが言う前にウィングはリュークを連れて出ていった。

「あー……そういうこと?」

 オレは苦笑した。

 静寂に包まれた部屋は暖炉の炎が、薪を食べる音がするのみだった。
 手紙を送るか送らないか。炎がゆらゆらとオレの心の中を表すかのようだった。

 「手紙、出してみようかな」

 一言しか書いていないけれど。
 オレが今、一番ルシアンに伝えたいことだから。


 
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