死に戻り騎士は壊れた愛を抱き締める 〜呪いは質が悪くて苦労しました〜

湯川岳

文字の大きさ
8 / 12

7.苦しいです

しおりを挟む

 ユーリと出かけたあの日から何かが変わった。
 朝はアレンが来るようになった。
 朝食も昼食も夕食もアレンと団員と食べている。ユーリがいない。
 いや、正確には側にいない。

「ユーリは?」

 アレンは苛立っているオレに少し怯えた様子だった。

「えっと、新人の教育をしています」

「……あっそ」

 こんなに苛立つのはきっと意識し始めているらだ。
 ユーリはオレに飽きてしまったのかもしれない。
 もしそうなら1年後は別の奴が死ぬだけだ。オレじゃない。
 嫉妬で狂った獣に抱かれるのもオレじゃない。

「団長、魔物が!」

「……わかった、すぐ行く」

 良かったじゃないか。
 そう思うのに、どこか胸が苦しくなった。



  今回の魔物はキラーラビットだった。可愛いくせに素早くて攻撃能力が高い。
 剣では難しく魔法で倒していく。
 魔法部隊が主に攻撃をしてくれるため、彼らを守らなくてはならなかった。
 剣で防ぎ切れない傷が刻まれていく。どうにかして避けてはいるが後ろの魔法部隊の方に行ってしまう。

「あー!くそっ!めんどくさい!」

 ちまちま倒して行くのに苛立ったオレは魔法に切り替えキラーラビットを倒していった。

「団長、もっと早く魔法で倒してくれれば良かったのに」

「お前たちの練習にならないだろーが」

  疲れた、とアレンの横に腰を下ろす。ユーリは魔法部隊と話をしていた。賑やかな声が聞こえてくる。

「……なんだよ、それ」

 アレンの肩に頭を置く。

「団長?大丈夫ですか」

「疲れたんだよ、肩貸して」

  はぁ、とため息を付いた瞬間。急な頭痛に襲われる。あまりの痛さにアレンの腕を掴む。
 アレンが呼ぶ声は聞こえるがどんどん遠くなっていった。
 目の前が真っ暗になった。

「どうしてまたっ……なんでっ」

  ユーリの悲痛な声が聞こえた。血溜まりに倒れているのはオレだった。しかし、前世のオレとは場所が違った。
 オレの自室だった。
 ユーリはオレを刺した剣を自分の首筋に当てる。

「ユーリ、やめろ!」

 オレの声は届いていないようだった。

「……貴方に会いたい」

 首筋から花を散らすよう吹き出した血はオレの血と混じり合う。
 その瞬間、倒れているオレたちの血が光り輝いた。
 とても眩しく目を開けていられなかった。
「くっ……!!」


  目が覚めると自室にいた。
 窓の外には綺麗な満月が憐れむようにオレを照らしていた。
 体を確認すると服は寝具に変わっていた。キラーラビットから受けた細かい傷も治っていた。

「……起きられましたか?」

 部屋の奥から足音が聞こえる。
 月の光の下に現れたのはユーリだった。
 オレはどうしようもないくらい心臓が鳴っていた。
 恐怖とかではない。緊張でもない。
 好意の高鳴りだった。

「ユーリ、どうして離れた」

「貴方をお慕いしているからです」

 嬉しかった。
 しかし、ユーリはオレを見ていない。オレを見ているのにオレじゃない何かを見ていた。
 心が急速に冷えていく。

「じゃぁ、オレにキスしてみろよ」

「できません」

 オレは知ってしまった。
 どうしてユーリが壊れてしまったのか。

「それがいけないのか?それがお前を縛り付けているのか?」

 オレはユーリのネックレスに手を伸ばし、引きちぎる。
 ユーリの瞳が大きく見開かれる。

「か、返してっ」

 「なぜ?」

「お願いだから、お願いします」

 ユーリは壊れたように土下座をし懇願する。
 悔しかった。ユーリはオレを見ているはずなのにオレを見ていない。

「お前は!」

 ネックレスを投げようとしたが投げれなかった。

「……お前は、何を見ているんだ。オレを見ているはずなのに……見てない。誰を見ているんだ」

「お願いします。返して下さい、お願いします」

「ふざけるな!お前っ……くそっ」

 オレはユーリの目の前にネックレスを落とす。
 ユーリはネックレスを大事そうに胸に抱える。

「なんか言えよ。教えてくれよ。オレ、分からないんだよ」

 全部分からない。知らないユーリに知らない記憶。
 あったはずの記憶はピースを失くしたパズルのようだった。
 殺されたはずなのに。憎しみは持てなかった。

 オレはユーリの涙で濡れた頬に触れようとしたが触られないように腕で払われてしまった。

「……なぁ、お願いだよ。教えてくれよ」

 赤い禍々しい瞳と黒いモヤがぶわ、と出てくる。

「なんだ、そっちのお前が教えてくれるのか?」

 あんなに大事そうに持っていたネックレスを投げ捨てオレをベッドに押し倒す。

「ユーリ、誰を見ている?オレを見てよ」

 脱がされていく寝具。背中に差し入れられた手は背骨をなぞるように下へ向かった。

「ユーリ、オレを見て」

 赤い禍々しい瞳の中には、オレの姿が映っていた。

 


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【短編】【完結】王子様の婚約者は狼

天田れおぽん
BL
 サティ王子はクルクルした天然パーマな茶髪が可愛い18歳。婚約者のレアンは狼獣人で、子供の頃は子犬のように愛くるしかったのに、18歳となった今はマッチョでかっこよくなっちゃった。 「レアンのこと大好きだから守りたい。キミは信じてくれないかもしれないけれど……」  レアン(すでにオレは、貴方しか見ていませんが?)  ちょっと小柄なカワイイ系王子サティと、美しく無口なゴツイ系婚約者レアンの恋物語。 o♡o。+。o♡o。+。o♡o。+。o♡o。+。o♡o。 ノベルバにも掲載中☆ボイスノベルがあります。

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

出戻り王子が幸せになるまで

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
初恋の相手と政略結婚した主人公セフィラだが、相手には愛人ながら本命がいたことを知る。追及した結果、離縁されることになり、母国に出戻ることに。けれど、バツイチになったせいか父王に厄介払いされ、後宮から追い出されてしまう。王都の下町で暮らし始めるが、ふと訪れた先の母校で幼馴染であるフレンシスと再会。事情を話すと、突然求婚される。 一途な幼馴染×強がり出戻り王子のお話です。 ※他サイトにも掲載しております。

君さえ笑ってくれれば最高

大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。 (クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け) 異世界BLです。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

【8話完結】どんな姿でも、あなたを愛している。

キノア9g
BL
かつて世界を救った英雄は、なぜその輝きを失ったのか。そして、ただ一人、彼を探し続けた王子の、ひたむきな愛が、その閉ざされた心に光を灯す。 声は届かず、触れることもできない。意識だけが深い闇に囚われ、絶望に沈む英雄の前に現れたのは、かつて彼が命を救った幼い王子だった。成長した王子は、すべてを捨て、十五年もの歳月をかけて英雄を探し続けていたのだ。 「あなたを死なせないことしか、できなかった……非力な私を……許してください……」 ひたすらに寄り添い続ける王子の深い愛情が、英雄の心を少しずつ、しかし確かに温めていく。それは、常識では測れない、静かで確かな繋がりだった。 失われた時間、そして失われた光。これは、英雄が再びこの世界で、愛する人と共に未来を紡ぐ物語。 全8話

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

処理中です...