死に戻り騎士は壊れた愛を抱き締める 〜呪いは質が悪くて苦労しました〜

湯川岳

文字の大きさ
10 / 12

9.死にかけました

しおりを挟む

 村を出て道を走り抜ける。月が道を照らし、森の中はとても走りやすかった。
 オレの頭の中はユーリが支払った対価だ。小さい願い事をしたこともあるかもしれないがユーリのことだ。
 普通の状態だったら、対価を支払ってまで使わないはずだ。 
 寧ろ大事に取っておきそうなくらい。
 そんなユーリが使ったっていうことはのっぴきならない理由があったのだろう。
 あの時見た自室で絶命していたオレの姿が頭に浮かぶ。
 

 それはきっとオレの死、だ。

 そうなると、あいつはオレを殺しては自害をして戻って来ていることになる。
 散りばめられた記憶に入ろんなユーリがいた。
 壊れた、とユーリは自分のことをそう言っていた。
 対価を支払ったのは1回や2回ではないのだろう。もっとたくさん。

「あいつは馬鹿だ」

 馬がいきなり止まった。先へ行くのを嫌がった。

「魔物、か?」

 目を凝らして見るともっとたちが悪いものだった。

「最悪だ!」

 剣を構えるとそれは俺目掛けて攻撃を仕掛けてきた。
 ぶつかり合い剣が火花を散らす。

「ユーリ!!」

 赤い禍々しい瞳で黒いモヤが尋常じゃないほど出したユーリが立っていた。
 馬を降りて体制を整えると凄まじい速さで襲いかかってくる。
 剣で受け止め、魔法を繰り出すが避けられてしまう。逆にその隙を付いて攻撃を仕掛けられ至る所に傷を作ってしまう。
 ユーリからの剣を避けたが、蹴りが飛んできた。それを受け止め草の中に吹き飛ばされ、地面に転げ倒れる。

「……まだキラーラビットの方が可愛げあるぞっ!」

 休む間もなく振り下ろされた剣を自分の剣で受け止める。
 息が上がり、上手く息を吸えず肺が痛い。元々強いのもあるが、呪いの力も相まって気を抜けば一瞬で殺されそうだった。
 力で押し負けそうになり、ユーリの剣先がオレの首筋に傷を作る。
 オレは一か八かの賭けにでた。
 迷っている暇はなかった。

「…………好きだ、ユーリ」

 ぴたり、とユーリが動きを止めた。
 オレはその隙に下から蹴り上げユーリの下から抜け出す。
 ユーリから逃げ近くにあった岩の影に身を寄せる。今のユーリにはどうしたって勝てない。
 息を殺し、近付いて来る足音に耳を済ませる。鼓膜に心臓があるかと思うくらい音がうるさかった。

 足音が遠ざかる音がした。

 顔を上げ、岩から顔を出すとユーリが目の前にいた。最初から分かっていたのだろう。まるで獲物を遊びながら狩っているようだった。
 体制を整える間もなく首を掴まれる。
 片手で持ち上げられ、ぎちぎちと締め上げられていく。

「くそっ、なんでだよっ」

 オレが今死んだらきっとユーリも死ぬ。今度はもう戻れなくなってしまう。本当の死が訪れる。
 それはオレが嫌だった。
 ユーリの死を見たくない。生きて欲しい、と思った。オレも生きて、ユーリの横で笑い合いたい。

「ユーリ、お前、呪いに負けんなよっ!」

 オレはユーリと夜を共にする度に思っていたことがある。意思はあるんじゃないかって。じゃなければあんなに優しく抱ける訳がない。だからこそ、オレは傷つけたくなくてユーリが目が覚める前に部屋に必ず帰していた。
 守りたかったのだ。
 だが、今のユーリからは「愛」など感じられぬ程、殺意と恐怖しか感じ取れない。

 
  オレは地面に叩き付けられた。

「……ぐはっ」

 頭に背中に重たい痛みが襲う。上手く息が出来なかった。
 目の前が霞んで行く。

「……ユー、リ」

 あ、落ちる。
 オレの視界暗くなった。

 ああ、まただ。怒涛に流れてくる記憶は無数で目が回りそうになる。

「お慕いしています。アルト様」
 笑顔のユーリが微笑んでいる。

「近寄らないで、アルト様」
 怖がるユーリ。

「アルト様、愛しています」
 首筋に剣を当てて泣き笑うユーリ。

「ああああ!!どうしてっ!もういやだっ」
 ユーリが徐々に壊れて行く。

「だれか、たすけて」

「アルト様、好き、好きなんです。ごめんなさい。好きになって」
 オレの亡骸を震える体で抱きしめるユーリがいた。

 オレと誰かが見ていた記憶が一気に流れていく。
 ポケットの中が光っていた。光を失ったはずの魔法石だった。

「お前がオレに記憶を見させていたのか」

 一番、ユーリを助けたいと思っていたのは この魔法石かもしれない。

「ユーリを助けよう」

 真っ暗だった景色が光り輝く白に変わった。

 目を開けるとオレを泣きながら抱きしめるユーリがいた。

「もう、戻れないのにっ。好きになってごめんなさい。愛してしまって……ごめんなさいっ」

 呪いが消えた?

 だが、首筋にはまだモヤが残っていた。
 一時的に解除されたのかもしれない。

「ユー、リ」

 掠れた声でユーリを呼んでみた。
ばっ、とオレの顔をユーリが見た。初めて目が合った気がした。
 背中に腕を回すとユーリはオレの心臓音を聞くかのように頭を胸に付ける。

「アルト様っ!……良かった、良かっ、た。ごめん、なさいっ」

 オレはユーリの背中を優しく叩いた。
 ユーリは声を殺して泣いていた。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【短編】【完結】王子様の婚約者は狼

天田れおぽん
BL
 サティ王子はクルクルした天然パーマな茶髪が可愛い18歳。婚約者のレアンは狼獣人で、子供の頃は子犬のように愛くるしかったのに、18歳となった今はマッチョでかっこよくなっちゃった。 「レアンのこと大好きだから守りたい。キミは信じてくれないかもしれないけれど……」  レアン(すでにオレは、貴方しか見ていませんが?)  ちょっと小柄なカワイイ系王子サティと、美しく無口なゴツイ系婚約者レアンの恋物語。 o♡o。+。o♡o。+。o♡o。+。o♡o。+。o♡o。 ノベルバにも掲載中☆ボイスノベルがあります。

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

出戻り王子が幸せになるまで

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
初恋の相手と政略結婚した主人公セフィラだが、相手には愛人ながら本命がいたことを知る。追及した結果、離縁されることになり、母国に出戻ることに。けれど、バツイチになったせいか父王に厄介払いされ、後宮から追い出されてしまう。王都の下町で暮らし始めるが、ふと訪れた先の母校で幼馴染であるフレンシスと再会。事情を話すと、突然求婚される。 一途な幼馴染×強がり出戻り王子のお話です。 ※他サイトにも掲載しております。

君さえ笑ってくれれば最高

大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。 (クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け) 異世界BLです。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

【8話完結】どんな姿でも、あなたを愛している。

キノア9g
BL
かつて世界を救った英雄は、なぜその輝きを失ったのか。そして、ただ一人、彼を探し続けた王子の、ひたむきな愛が、その閉ざされた心に光を灯す。 声は届かず、触れることもできない。意識だけが深い闇に囚われ、絶望に沈む英雄の前に現れたのは、かつて彼が命を救った幼い王子だった。成長した王子は、すべてを捨て、十五年もの歳月をかけて英雄を探し続けていたのだ。 「あなたを死なせないことしか、できなかった……非力な私を……許してください……」 ひたすらに寄り添い続ける王子の深い愛情が、英雄の心を少しずつ、しかし確かに温めていく。それは、常識では測れない、静かで確かな繋がりだった。 失われた時間、そして失われた光。これは、英雄が再びこの世界で、愛する人と共に未来を紡ぐ物語。 全8話

雪を溶かすように

春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。 和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。 溺愛・甘々です。 *物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています

処理中です...