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3.壊れていくもの
しおりを挟む「ーーい、おい、ユーリ」
体を揺すられ、目を覚ますと幼い顔をしたアルト様がいた。まだ髪も肩にかかるぐらいの長さだった。
目の前が滲んでアルト様の顔が見えない。
「ア、ア、ルト様……アルト様っ」
私はアルト様の頬を撫で抱きしめる。
温かい。戻って来れた。
「お前、頭打ったのか?大丈夫か?」
アルト様が私の頭を撫でてくれる。
どうやら訓練場で私と訓練場していたらしい。
優しい指先が頭を撫でる。とても心地よかった。
「おーい、大丈夫か?」
両頬を捕まれ顔を私の顔を上げる。
アルト様の瞳に入隊したばかりの頃の私が映っていた。
ああ、本当に帰って来た。
また大好きなアルト様の側にいられる。
そう思った。
しかし、そんな幸せは長くない。
目の前が赤く染まっていく。
「ああああ、いやだっ!!」
血の生温かさが手に伝わって来た。
もう何があったか分かってしまった。
「ああ……あああっ、どうしてっ、そんなっ」
視界が戻るとやはりアルト様が絶命した。
私はまた冷たくなっていくアルト様を抱き締め、首筋に迷わず刃を這わせた。
3回目も4回目も何がいけなかったのか、いつの間にか殺してしまっていた。
5回目は最初の時から6年前に戻っていた。どうやら戻れる年月が短くなっていた。
私は騎士団には入ったがなるべくアルト様には近寄らないようにした。
「おい、ユーリ。なんでお前はオレを避けるんだよ!」
しかし、それはアルト様によって壊されてしまう。
「オレ、もうすぐ20歳だぞ。団長になるんだぞ!お前は副団長になるんだろ!」
そうだ。過去に彼と約束したこと。だけれど近付いてしまえば貴方は死んでしまう。
「私は!アルト様の横には行きません!副団長にもなりません!」
傷付いた顔をしたアルト様は私の元を去っていった。
「……アルト様。ごめんなさい」
これで、アルト様を助けられる。
良かったんだ、これで。
お互いの存在は認知しつつも会話も顔を合わせず1年が経っていた。
「本日からシューベルト領騎士団、団長に 就任したアルト・シューベルトだ。まだオレは未熟者だ。間違えることもあるかもしれない。ただ、オレはお前たちを死なせない!よろしく頼む!」
アルト様は団長になった。
横には私の前任の副団長がいた。楽しそうに話していた。
「……アルト様の横は私のものだ」
嫉妬で頭がおかしくなりそうだった。
しかし、これでいいんだ。
私はアルト様を思いながらその夜、眠りについた。
顔に、手に生温かいものが伝わった。
目を覚ますとアルト様が絶命していた。
「……なぜ?アルト様とは離れていたはず。どうしてっ!!」
ーーーまさか、私が嫉妬したから?
アルト様の服は乱れていた。
「だれか、たすけて」
もういやだ。でもアルト様がいない世界はいやだ。
彼の笑顔が見たい。
「どうして、どうして……何がっ」
もう心が正常に保てない。
ただ、貴方に会いに戻ってもいいですか?
貴方に会いたい。
アルト様の体を抱き締める。
「アルト様、好き、好きなんです。ごめんなさい。好きになって」
私はアルト様の冷たくなった唇にキスを落とす。
もう慣れたように首筋に刃を当てる。
「アルト様、愛しています」
私の視界は光に包まれた。
6回目は私が副団長になった頃だった。
淡々と仕事をこなす毎日だった。5年くらいは経っていた。耐えられなくなって自分の胸を貫いたはずなのにアルト様の胸を貫いていた。またダメだった。
7回目は副団長になり、2年が経った頃だった。私はもう笑えなくなっていた。
アルト様を毎日起こし、魔物を倒す。
それでも髪紐は必ずプレゼントした。
私の気持ちは心に留めたまま。しかし、またダメだった。
私は8回目の朝を迎えていた。
最初の時から3年前に戻って来ていた。
「ユーリ、ユーリってば」
アルト様の声にはっ、とする。
鏡に映るアルト様が私を見上げている。
髪に櫛を通す。さらり、とした黒くて綺麗な髪が私の手の中に集まって行く。
「どうされました?」
この時間はいつも私にとって唯一の癒しだった。
「いや、なんかぼーっとしてるなって」
「考え事をしていました。すみません」
そう、今までの流れを思い出していた。あと2回しか戻れないのだ。どうすればアルト様と長くいられるか考える。
嫉妬し過ぎてもいけない、愛を伝えてもいけない。そして、私から触れるのは問題ない。ただ、アルト様が私の肌に触られなければ平気。
それだけは分かった。
ならば離れてしまえばいいのでは?
しかし、私はアルト様から離れたくない。
どうしたらいい。
どうしたら、長く側にいられる?
側にいてはいけないのかもしれない。
アルト様の黒髪から手を離せばさらり、とすり抜けて行った。
「……ユーリ?どうしーー」
「アルト様、私、騎士団を辞めようと思います」
もう、これしかない。
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