9 / 14
8.歪んだ幸せ
しおりを挟むアルト様の寝着のボタンを1つ1つ外していく。
肌に描かれた病的なまでの花が咲き誇っていた。思わず手が止まってしまうくらいに。
そんな中、アルト様は考え事をしているようだった。
「アルト様、何か深く考えていますね」
「ああ、ちょっとな……違和感が凄くて」
違和感とは、やはりこの印じゃないだろうか。私が付けたと思われるもの。
きっと、アレンが副団長になって私が嫉妬したからだろう。
「それはそれと関係があるのですか?」
アルト様は自分の体を見て困った顔をする。
「……止めさせた方がいいと思います」
そう言いつつも私は、申し訳ない、なんて思っていなかった。アルト様に残る印が嬉しかった。
「それが出来たら苦労しないっていうかさー……嫌でもないしな」
ーーー嫌でもない。
意識は呪いに奪われてしまっているが意思は働いているのだ。嬉しかった。
「髪、結っていきますね」
熱くなった指先がアルト様の髪を撫でる。優しく櫛を通し、掬い上げる。手で押え結っていく。気持ち良さそうにアルト様は目を閉じていた。
ああ、今日も美しい。
「なぁ、今日、久しぶりに街に行かないか?新しい髪紐が欲しいんだ」
街へ行くともう見慣れた景色が広がっていた。今日も同じように賑やかだ。
ただ、違ったのはアルト様が街のみんなに声を掛けられていた。前まで私たちが歩いていたとしても特に何もなかった住民がアルト様に感謝として食べ物等をプレゼントしていく。
お陰で私の手は荷物でいっぱいになってしまった。
歩く度に私が結った綺麗な黒髪が揺れる。ご機嫌そうに笑うアルト様を見るだけで幸せな気持ちになった。
宝飾店の横には私が過去に何度も立ち寄っている装飾品を出している商人がいた。きっと私はまたここで彼のための髪紐を買うのだろう。
「お、ちょっと見せてくれる?」
「これはアルト様、これも良かったらどうぞ」
私は驚いてしまった。何故ならアルト様は街に行こうと誘えば道端にある店など目にも止めず宝飾店に入って行ってたのだから。
アルト様は出された髪紐を見ていく。緋色に深紅に瑠璃色。すみれ色もあった。
何色を選ぶのかな、と予想してみる。きっと、今つけている深紅を選ぶだろう、そう思った。
しかし、彼が手に取ったのは別の色だった。
「……同じ色だな」
そう笑って私の髪と照らす。
アルト様が選んだのはすみれ色だった。やはり戻り過ぎた影響で歪みが起きているのかもしれない。
「アルト様。ひとつよろしいでしょうか」
「なんだよ、急に」
「どうしてこの色なんですか?貴方に似合う色は沢山ありますよ」
私はその色を選んだ理由を知りたくなった。
「……なんとなくだよ」
答える前に前を向いてしまって表情を見ることが出来なかった。
髪紐を店主から受けるとすぐに付けていた。嬉しいかった。幸せだと思った。
しかし、同時に怖くなった。
ーー貴方は誰?
私の知っているアルト様ではない気がした。髪紐を買ったのなら宝飾店に入らなくてもいいのに入って、私のネックレスを買うとも言い始めた。
私はネックレスを握りしめる。
「このままでいいです」
「いや、でもーーー」
「これでいいんですっ。お願いです。本当に大丈夫ですから」
手放せないでいるのは理由があった。
もしこのやり直せない時間の中で何かあった時、どうにかしてくれるかもしれないとい小さな希望が残っていた。
「……わかった。じゃぁ、これにしよう」
アルト様はブレスレットを手に取り私に付ける。サファイヤが1つ埋め込まれたシンプルなものだった。
「これは……」
アルト様と同じ瞳の色だった。
「これならいいだろ。店主、これくれる?」
私達は店を出た。
帰り道、キラキラと光るサファイヤに釘付けになっていた。まるで初めて出会ったアルト様のような光を放っていた。
この人は私のせいで歪ませてしまったのだろうか。
私の知らないアルト様が今、目の前にいる。見た目も喋り方も笑い方も食べ方もそのままなのに。
私の中の棺に眠るアルト様が消えてしまいそうだった。
怖くてたまらなかった。私はアルト様を消したくなくて側から一度離れてみようと考えた。
私の行動は早かった。騎士団に戻ってからアレンを呼び出し明日からのアルト様の身の回りの世話をお願いした。
なるべく顔を合わせないように新人教育に没頭する。
「ユーリさーん。団長とケンカでもしたんですか?めっちゃ不機嫌なんですよー」
訓練場で新人教育をしているとアレンが泣きそうな顔で私にしがみ付いてくる。
アルト様が不機嫌なことなど早々ない。きっとアレンが変なことでもしているのだろう。
「アレン、君が怒らせたんじゃないのか?」
「絶対に俺じゃないと思いますー。ってか、ユーリさんは新人教育無理だからアルト様の側にいて下さいよ」
アレンの目線の先には訓練場で私のストレスの捌け口になってしまった新人達が倒れていた。
「彼らが強くならなければアルト様が悲しむ」
「キラーラビットが出たぞー!」
遠くで団員の声がする。
キラーラビットは私の中で一番嫌いな魔物だった。
「ユーリさん、顔怖いですよ」
「早く支度をしなさい。行きますよ」
私は拳を握りしめ訓練場を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
もう観念しなよ、呆れた顔の彼に諦めの悪い僕は財布の3万円を机の上に置いた
谷地
BL
お昼寝コース(※2時間)8000円。
就寝コースは、8時間/1万5千円・10時間/2万円・12時間/3万円~お選びいただけます。
お好みのキャストを選んで御予約下さい。はじめてに限り2000円値引きキャンペーン実施中!
液晶の中で光るポップなフォントは安っぽくぴかぴかと光っていた。
完結しました *・゚
2025.5.10 少し修正しました。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました
ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。
落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。
“番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、
やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。
喋れぬΩと、血を信じない宰相。
ただの契約だったはずの絆が、
互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。
だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、
彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。
沈黙が祈りに変わるとき、
血の支配が終わりを告げ、
“番”の意味が書き換えられる。
冷血宰相×沈黙のΩ、
偽りの契約から始まる救済と革命の物語。
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~
倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」
大陸を2つに分けた戦争は終結した。
終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。
一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。
互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。
純愛のお話です。
主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。
全3話完結。
勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される
八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。
蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。
リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。
ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい……
スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)
オメガはオメガらしく生きろなんて耐えられない
子犬一 はぁて
BL
「オメガはオメガらしく生きろ」
家を追われオメガ寮で育ったΩは、見合いの席で名家の年上αに身請けされる。
無骨だが優しく、Ωとしてではなく一人の人間として扱ってくれる彼に初めて恋をした。
しかし幸せな日々は突然終わり、二人は別れることになる。
5年後、雪の夜。彼と再会する。
「もう離さない」
再び抱きしめられたら、僕はもうこの人の傍にいることが自分の幸せなんだと気づいた。
彼は温かい手のひらを持つ人だった。
身分差×年上アルファ×溺愛再会BL短編。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる