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第1章:蒼天の神子
第25話:言霊の種火
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蒼天の霹靂――素戔嗚の霊威。八岐大蛇を滅した神剣天羽々斬の一閃が朱雀大路を割って御所へと迫る。
「彩天」の片手間では、どうにもならない。高階二百五十年の歴史を以てしても、この僅かな時間ではどうにもならない。
師忠は何とかして別案を探る。といっても、残された選択肢などそうはない。「再臨」の権限はまだ使い物にならない。摂政も、一度死者の蘇生まで行ってしまった。これでは次の術式は間に合わないだろう。
そうして、消去法で残った可能性。
――あるいは「神裔」ならば…
だが、師忠は気付いた。気付いてしまった。それこそ、彼らの狙いだ。そうなってしまった時こそ、真なる「敗北」が訪れる。
「なるほど」
これは神話の再現だ。
素戔嗚と天照――「蒼天」と「神裔」。国津神と天津神――陽成院派と朱雀帝派。
そして、天岩戸。主宰神の死と再生。
――つまり、陽成院の目的は「神裔」の無力化…?
そこまで思い至り、師忠の口から感嘆にも似た息が漏れた。
「ふふ、そこまで気付いているのですか…」
冷汗を浮かべながら彼は苦し気な笑みを浮かべる。
二百五十年の歴史を記憶する高階だけが知る、浄御原帝の秘儀。「蒼天」の一閃は、陽成院がその核心の一歩手前まで独力で辿り着いたことを意味していた。そのことに、高階の族長である師忠だけが気付く。
「少し侮り過ぎましたかね?」
師忠は落ち着いた口調で独り言つ。
その様子を見て、満仲はどこか空恐ろしいものを感じた。そして、その原因が師忠の、自身の身に迫る危機への度が過ぎた無頓着さにあることに気付く。
命のやり取りを直に行ってきた満仲は知っている。死を目前として平然としていられる人間などそうはいない。いたとしても、そんな人間は精神に異常をきたした廃人か、死を認識できない程度に感覚がおかしくなった生ける屍か。いずれにせよ壊れた人間だけだ。
死を自覚した人物からは、特有の気配がする。彼はそれを経験的に知っていた。
だが、師忠はどうだ。今の彼からは、死というものが一切感じられない。「蒼天」の一撃を目の前にして、彼はただ自身の誤算を悔しがっているのだ。
「貴方は、一体何なのですか…?」
満仲は物の怪でも見るような目で師忠を睨んだ。
*******************************
――ヤバいヤバいヤバいヤバい!!
浄御原帝の秘儀はおろか、契神術が何かすら今一つ掴めていない海人は、死の気配をmaxにして、迫りくる不可避の破壊に恐れおののく。
しかし、海人はこのまま座して死を待つほど潔い人間ではない。
――考えろ考えろ考えろ!!
空転しそうな脳のギヤを無理にかみ合わせ、打開策を探る。早まる鼓動を抑えて、いつも通りの思考パターンを再構築、まずは今の状況を整理だ。
――この場でまともに術式が使えるのは、恐らく師忠さんと「彩天」だけ。しかし「彩天」は遠方の指揮のために術式を展開中だ。彼が同時にいくつの術式を扱えるのかは知らないが、恐らく残りスロットでの術式発動ではこの攻撃を防ぎきれない。師忠さんも、見る感じ次の術式のリロードが間に合わない感じだ。なら、
「第三勢力は…いや」
――不確定要素を計算に入れるな! そんなものに期待しても、祈る以外の手立てがない。今、自分の手でできることを考えろ!
そう、自分の手で。
海人は、開いた手のひらを眺める。
この世界に飛ばされてまだ三日。しかし見舞われた災難は数知れず、今もこうして危機に瀕している。海人は、まだこの世界で一人歩きできていない。周りの人に頼りきりである。だが、今この瞬間頼れる他人はいない。頼れるのは自分だけだ。そう、考えるべきは――
――今、俺は何ができる?
そこで、思い出すのは昨日の晩、師忠につけてもらった稽古だ。とはいっても、海人には何が何だか分からなかった。しかし、打開策のヒントがあるとすればそこしかない。彼の語った話をなぞる。
――師忠さんの話すところによると、「再臨」の権限は本来月詠命の霊威の劣化コピーらしい。それがどんなものかは知らないが、どうやら俺に宿っている力はもっと別のもの。言霊に干渉するものらしい。あれ、これなんかどこかで…
つい最近、どこかで言霊というワードを聞いた気がする。そんな不思議な感覚を覚えるが、
――って、今そんなことはどうでもいい!言霊は言葉に宿る霊威、そしてその霊威は世界の法則に時として干渉する、これが師忠さんの説明だった。さらに、その作用は口に発したタイミングで神気の特定の流れを以て発現する。問題は、その「特定の流れ」は自分で設定しなきゃならないってことなんだよなぁ…
以前師忠は、海人に契神術の素養が乏しいことを指摘している。それは、海人が持つ神気では術式記述のための繊細な制御が困難であるという理由だと明かされた。それはつまり、彼の「権限」発動自体も困難であるということを意味する。
――実際、昨日やってもまったく出来なかったし、それっぽい感じもしなかった。ただ、師忠さんの話を信じるなら俺にも能力はあるはず。きっと、まだピースが足りないんだ…!
おそらく、彼が権限を使うのにはまだ何かが足りない。その何か――欠けたピースが何であるか、それは師忠にも分からなかった。しかし師忠は、海人には権限を使うためのすべての要素が揃っている、と言った。なら、その「何か」は海人の中にある。
――何か、ってなんだよ…?
気を抜くと真っ白になりそうな頭を何とか捻り、記憶を辿る。辿るが、分からない。そこで初めて、海人はこの世界に飛ぶ前の記憶がひどく曖昧なものであることに気が付いた。そして、直感的に確信する。
――きっと最後のピースは、その記憶に埋もれている。
しかし、その記憶には靄がかかってその向こう側が見えない。最後のピースも、見えそうな気配がしない。しかし、悠長に構えている暇はなかった。
蒼天の一閃が迫る。ここまで海人が思考に費やした時間は、実際5秒もないだろう。だが、はっきりとした現実として迫りくる死を目前に、ゆっくりと流れる時の中で海人の思考は高速回転した。
――思い出せ、思い出せ、思い出せ!
が、やはり分からない。海人の頬を冷汗が伝う。
――なんでッ!なんで思い出せない!!
弾着まで推定6秒。
防ぐことができなくては、死あるのみだ。
定命の存在に等しく訪れる結末。それが、今目の前にある。
「…死ぬ…?」
受け入れがたい現実。それが、受け入れざるを得ない距離まで迫った時、彼の中で何かが切れた。
――嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
本能としての拒絶、思考の放棄。そして――
*******************************
*******************************
――アンタは、テンパるとすぐにそうなっちゃうんだから、まったく。少しは落ち着いたら?
――そんなこと言ったって、流石にこの規模でやったことは無いんだよ! ていうか××さん? もうちょっとなんというか…手心を…
――甘えんな!この程度で死んでんじゃねえ!
――急に口が悪い! って、ちょっ待っ…ええい、ヤケクソだッ!「解けろ」!
――…あれ?
――できたじゃん。今のよ、今の。大切なのはイメージ、理論は二の次。それを覚えてたら、まあ…アタシの弾除けぐらいにはなれるかな。
――弾除けって…
*******************************
*******************************
流れる、知らない記憶。知らないが、これは自分の体験ではない。それだけは分かる。分かるが、それにしてはあまりにも懐かしい、自分ではない誰かの記憶。
だが、それは映像だけではない、実感を伴った記憶。そう、海人は気付いた。最後のピースに。
――大切なのは…イメージ…!
複雑な術式の記述や、「神気」とやらの設定なんて要らない。彼が「権限」を行使するのには、確固たる結果のイメージ、そして、「神気」が流れている、という感覚さえ得られれば良いのだ。
その感覚、それは身に覚えがあるもので――
――なんだ、この感覚だったのか。
かすかに、感じる流れ。知らない記憶の中で感じた、知っている感覚。
感覚が掴めたなら、あと必要なものはただ一つ。
――結果を、望む最善の結果を確固たるイメージにするんだ!
迫る一閃。弾着間際。直撃すれば、御所もろとも海人たちは塵芥に帰す。だが、それは確定未来ではない。彼の「イメージ」次第で大きく変わる。
――師忠さんの話なら、契神術なんて方向性を与えられた神気の束でしかない。なら、一番簡単なのは――
イメージする。ただ、ひたすらにイメージする。自分を襲う破壊の極光が、ただの光の粒となって消失する様を。そして、イメージが出来たら後はトリガーを引くだけだ。
弾着まで残り3秒。海人は、「再臨」の神子は、遂にその口を開いた。
「――解けろ」
轟音にかき消されてしまいそうな、何ということのない一言。しかし、その彼の最初の「一言」は確かな言霊を宿す。そして波紋は世界法則に干渉し、確かな影響をこの世界に与えた。
弾着――眩い光が御所を覆う。
しかし、海人たちに死は訪れない。眩い光は、何も破壊をもたらさない。逃れられない必殺の一撃は、海人の「一言」によって「言葉通り」、なんて事のない光の粒へと解けた。
「…やっ…た?」
かき消された一閃の余波として、一陣の風が吹き抜ける。晴れ渡る空から、眩しい陽光が海人を照らしていた。その陽光が、視界に滲んで、
「…ぅ」
眩暈、そして、抑えがたい脱力感。そして眠気。
海人は身をふらつかせ、膝をついた。
師忠が、海人を見て優し気に微笑む。それも、いつものような胡散臭い、演技のような笑みではない。本心から、いつくしむような、懐かしむような微笑。
「――」
師忠が、静かに何かを口にする。しかし、海人には届かない。この世界で初めて「権限」を発動した彼は、力を使い果たし沈むように意識を手放した。
「彩天」の片手間では、どうにもならない。高階二百五十年の歴史を以てしても、この僅かな時間ではどうにもならない。
師忠は何とかして別案を探る。といっても、残された選択肢などそうはない。「再臨」の権限はまだ使い物にならない。摂政も、一度死者の蘇生まで行ってしまった。これでは次の術式は間に合わないだろう。
そうして、消去法で残った可能性。
――あるいは「神裔」ならば…
だが、師忠は気付いた。気付いてしまった。それこそ、彼らの狙いだ。そうなってしまった時こそ、真なる「敗北」が訪れる。
「なるほど」
これは神話の再現だ。
素戔嗚と天照――「蒼天」と「神裔」。国津神と天津神――陽成院派と朱雀帝派。
そして、天岩戸。主宰神の死と再生。
――つまり、陽成院の目的は「神裔」の無力化…?
そこまで思い至り、師忠の口から感嘆にも似た息が漏れた。
「ふふ、そこまで気付いているのですか…」
冷汗を浮かべながら彼は苦し気な笑みを浮かべる。
二百五十年の歴史を記憶する高階だけが知る、浄御原帝の秘儀。「蒼天」の一閃は、陽成院がその核心の一歩手前まで独力で辿り着いたことを意味していた。そのことに、高階の族長である師忠だけが気付く。
「少し侮り過ぎましたかね?」
師忠は落ち着いた口調で独り言つ。
その様子を見て、満仲はどこか空恐ろしいものを感じた。そして、その原因が師忠の、自身の身に迫る危機への度が過ぎた無頓着さにあることに気付く。
命のやり取りを直に行ってきた満仲は知っている。死を目前として平然としていられる人間などそうはいない。いたとしても、そんな人間は精神に異常をきたした廃人か、死を認識できない程度に感覚がおかしくなった生ける屍か。いずれにせよ壊れた人間だけだ。
死を自覚した人物からは、特有の気配がする。彼はそれを経験的に知っていた。
だが、師忠はどうだ。今の彼からは、死というものが一切感じられない。「蒼天」の一撃を目の前にして、彼はただ自身の誤算を悔しがっているのだ。
「貴方は、一体何なのですか…?」
満仲は物の怪でも見るような目で師忠を睨んだ。
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――ヤバいヤバいヤバいヤバい!!
浄御原帝の秘儀はおろか、契神術が何かすら今一つ掴めていない海人は、死の気配をmaxにして、迫りくる不可避の破壊に恐れおののく。
しかし、海人はこのまま座して死を待つほど潔い人間ではない。
――考えろ考えろ考えろ!!
空転しそうな脳のギヤを無理にかみ合わせ、打開策を探る。早まる鼓動を抑えて、いつも通りの思考パターンを再構築、まずは今の状況を整理だ。
――この場でまともに術式が使えるのは、恐らく師忠さんと「彩天」だけ。しかし「彩天」は遠方の指揮のために術式を展開中だ。彼が同時にいくつの術式を扱えるのかは知らないが、恐らく残りスロットでの術式発動ではこの攻撃を防ぎきれない。師忠さんも、見る感じ次の術式のリロードが間に合わない感じだ。なら、
「第三勢力は…いや」
――不確定要素を計算に入れるな! そんなものに期待しても、祈る以外の手立てがない。今、自分の手でできることを考えろ!
そう、自分の手で。
海人は、開いた手のひらを眺める。
この世界に飛ばされてまだ三日。しかし見舞われた災難は数知れず、今もこうして危機に瀕している。海人は、まだこの世界で一人歩きできていない。周りの人に頼りきりである。だが、今この瞬間頼れる他人はいない。頼れるのは自分だけだ。そう、考えるべきは――
――今、俺は何ができる?
そこで、思い出すのは昨日の晩、師忠につけてもらった稽古だ。とはいっても、海人には何が何だか分からなかった。しかし、打開策のヒントがあるとすればそこしかない。彼の語った話をなぞる。
――師忠さんの話すところによると、「再臨」の権限は本来月詠命の霊威の劣化コピーらしい。それがどんなものかは知らないが、どうやら俺に宿っている力はもっと別のもの。言霊に干渉するものらしい。あれ、これなんかどこかで…
つい最近、どこかで言霊というワードを聞いた気がする。そんな不思議な感覚を覚えるが、
――って、今そんなことはどうでもいい!言霊は言葉に宿る霊威、そしてその霊威は世界の法則に時として干渉する、これが師忠さんの説明だった。さらに、その作用は口に発したタイミングで神気の特定の流れを以て発現する。問題は、その「特定の流れ」は自分で設定しなきゃならないってことなんだよなぁ…
以前師忠は、海人に契神術の素養が乏しいことを指摘している。それは、海人が持つ神気では術式記述のための繊細な制御が困難であるという理由だと明かされた。それはつまり、彼の「権限」発動自体も困難であるということを意味する。
――実際、昨日やってもまったく出来なかったし、それっぽい感じもしなかった。ただ、師忠さんの話を信じるなら俺にも能力はあるはず。きっと、まだピースが足りないんだ…!
おそらく、彼が権限を使うのにはまだ何かが足りない。その何か――欠けたピースが何であるか、それは師忠にも分からなかった。しかし師忠は、海人には権限を使うためのすべての要素が揃っている、と言った。なら、その「何か」は海人の中にある。
――何か、ってなんだよ…?
気を抜くと真っ白になりそうな頭を何とか捻り、記憶を辿る。辿るが、分からない。そこで初めて、海人はこの世界に飛ぶ前の記憶がひどく曖昧なものであることに気が付いた。そして、直感的に確信する。
――きっと最後のピースは、その記憶に埋もれている。
しかし、その記憶には靄がかかってその向こう側が見えない。最後のピースも、見えそうな気配がしない。しかし、悠長に構えている暇はなかった。
蒼天の一閃が迫る。ここまで海人が思考に費やした時間は、実際5秒もないだろう。だが、はっきりとした現実として迫りくる死を目前に、ゆっくりと流れる時の中で海人の思考は高速回転した。
――思い出せ、思い出せ、思い出せ!
が、やはり分からない。海人の頬を冷汗が伝う。
――なんでッ!なんで思い出せない!!
弾着まで推定6秒。
防ぐことができなくては、死あるのみだ。
定命の存在に等しく訪れる結末。それが、今目の前にある。
「…死ぬ…?」
受け入れがたい現実。それが、受け入れざるを得ない距離まで迫った時、彼の中で何かが切れた。
――嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
本能としての拒絶、思考の放棄。そして――
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――アンタは、テンパるとすぐにそうなっちゃうんだから、まったく。少しは落ち着いたら?
――そんなこと言ったって、流石にこの規模でやったことは無いんだよ! ていうか××さん? もうちょっとなんというか…手心を…
――甘えんな!この程度で死んでんじゃねえ!
――急に口が悪い! って、ちょっ待っ…ええい、ヤケクソだッ!「解けろ」!
――…あれ?
――できたじゃん。今のよ、今の。大切なのはイメージ、理論は二の次。それを覚えてたら、まあ…アタシの弾除けぐらいにはなれるかな。
――弾除けって…
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流れる、知らない記憶。知らないが、これは自分の体験ではない。それだけは分かる。分かるが、それにしてはあまりにも懐かしい、自分ではない誰かの記憶。
だが、それは映像だけではない、実感を伴った記憶。そう、海人は気付いた。最後のピースに。
――大切なのは…イメージ…!
複雑な術式の記述や、「神気」とやらの設定なんて要らない。彼が「権限」を行使するのには、確固たる結果のイメージ、そして、「神気」が流れている、という感覚さえ得られれば良いのだ。
その感覚、それは身に覚えがあるもので――
――なんだ、この感覚だったのか。
かすかに、感じる流れ。知らない記憶の中で感じた、知っている感覚。
感覚が掴めたなら、あと必要なものはただ一つ。
――結果を、望む最善の結果を確固たるイメージにするんだ!
迫る一閃。弾着間際。直撃すれば、御所もろとも海人たちは塵芥に帰す。だが、それは確定未来ではない。彼の「イメージ」次第で大きく変わる。
――師忠さんの話なら、契神術なんて方向性を与えられた神気の束でしかない。なら、一番簡単なのは――
イメージする。ただ、ひたすらにイメージする。自分を襲う破壊の極光が、ただの光の粒となって消失する様を。そして、イメージが出来たら後はトリガーを引くだけだ。
弾着まで残り3秒。海人は、「再臨」の神子は、遂にその口を開いた。
「――解けろ」
轟音にかき消されてしまいそうな、何ということのない一言。しかし、その彼の最初の「一言」は確かな言霊を宿す。そして波紋は世界法則に干渉し、確かな影響をこの世界に与えた。
弾着――眩い光が御所を覆う。
しかし、海人たちに死は訪れない。眩い光は、何も破壊をもたらさない。逃れられない必殺の一撃は、海人の「一言」によって「言葉通り」、なんて事のない光の粒へと解けた。
「…やっ…た?」
かき消された一閃の余波として、一陣の風が吹き抜ける。晴れ渡る空から、眩しい陽光が海人を照らしていた。その陽光が、視界に滲んで、
「…ぅ」
眩暈、そして、抑えがたい脱力感。そして眠気。
海人は身をふらつかせ、膝をついた。
師忠が、海人を見て優し気に微笑む。それも、いつものような胡散臭い、演技のような笑みではない。本心から、いつくしむような、懐かしむような微笑。
「――」
師忠が、静かに何かを口にする。しかし、海人には届かない。この世界で初めて「権限」を発動した彼は、力を使い果たし沈むように意識を手放した。
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