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1 〈隠れ里〉のリアナ
第6話 里長と、管理官のつぶやき
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「リア」ウルカの渋い声が聞こえたが、構わず続ける。
「竜に乗るのに、すごく役立つと思うんです。遠いところまで行っても、タマリスから見てどちらかわかるから……」
「ほう」
男は目をきらめかせた。「リア……と言ったね? 王都の方角がわかると?」
「はい。磁石も地図もなくても、天気が良くても悪くても、関係なく、わかります」
「どのように、わかるのかね?」
「それは、えーと」すこし考える。「糸みたいな感じです。お腹のこのあたり……」と指さし、「このあたりから糸が出て、タマリスのほうとつながってるんです。いつも、ちょっとだけ引っ張られてるんです。慣れてしまって、気がつかないときもあるんですけど……」
そういって指を動かし、タマリスのほうを指さそうとした。朝、ケヴァンの前でやったことと同じだ。いつもなら、簡単なことだった。それこそ、お腹についた糸は休む間もなくいつでも彼女を引っ張っているからだ。糸の引きは強いときも弱いときもあって、ときには何日も、糸の存在をほとんど感じないこともあった。けれども、普段なら、ちょっと意識を向ければすぐにわかるはずの方角だ。だが。
「……あれ?」リアナは首をひねった。
――引っ張られる感覚が、ない。
思いつくかぎり、人生ではじめて、糸のつながりを感じなかった。
「わからなくなっちゃった……」
リアナは間抜けな顔でウルカを見た。ウルカは、呆れたような、ほっとしたようなため息をついた。「そらみろ」
「でも、どうして?」
せっかく、ウルカに認めてもらうチャンスだったのに。しかも、お役人の前で。恥ずかしさと怒りで耳が熱くなる。
「……失礼しました。カイレニ様」
ウルカが管理官に向かって言う。「ライダーに憧れるあまり、夢見がちなことを言う癖のある娘なのです。子どもの言うことです、ご放念ください」
「今日かね?」
ウルカを一顧だにせず、カイレニと呼ばれた役人が立ちあがった。リアナに一歩近づく。
「え?」
「タマリスとのつながりを感じなかったのは、今日が初めてなのか、と聞いたのだ」
男はリアナの肩をつかみ、妙に平板な声で問う。わずかに恐怖をおぼえながら、うなずいた。「はじめてです」
「カイレニ様……?」
役人はリアナから離れ、何ごとかぶつぶつと呟きながら部屋のなかを歩きはじめた。
「もし、〈呼ばい〉なら?……陛下の容態は、予断を許さぬと……だが、フロンテラで? あまりにも異例だ……」
役人の様子が怖くなったリアナは、ウルカの袖を引いた。「あの……やっぱり、いけなかった?」
「済んだことは仕方がない」
ウルカは小さな声で言った。「これはおまえの、というよりは、イニと私の責任だ。……だが今夜は、もう帰りなさい。明日のことは、ちゃんと考えておくから」
「……ごめんなさい」
自分なりによく考えての行動ではあったが、ウルカに心配(と、おそらくは迷惑)をかけてしまったのは間違いなさそうだ。部屋を出る前に、リアナはしおらしく謝った。
が、ウルカは呆れたように首を振る。年少の子どもたちを叱るときと同じ目つきで、
「うちのバカ息子に通じるからといって、私も同じようにおまえに甘いと思ったら、大間違いだからな」と言った。
(でも結局、怒らなかった)
同じくらい甘いんじゃないかなぁ、と思い、少し元気が出て、リアナは笑顔で館を出た。
「竜に乗るのに、すごく役立つと思うんです。遠いところまで行っても、タマリスから見てどちらかわかるから……」
「ほう」
男は目をきらめかせた。「リア……と言ったね? 王都の方角がわかると?」
「はい。磁石も地図もなくても、天気が良くても悪くても、関係なく、わかります」
「どのように、わかるのかね?」
「それは、えーと」すこし考える。「糸みたいな感じです。お腹のこのあたり……」と指さし、「このあたりから糸が出て、タマリスのほうとつながってるんです。いつも、ちょっとだけ引っ張られてるんです。慣れてしまって、気がつかないときもあるんですけど……」
そういって指を動かし、タマリスのほうを指さそうとした。朝、ケヴァンの前でやったことと同じだ。いつもなら、簡単なことだった。それこそ、お腹についた糸は休む間もなくいつでも彼女を引っ張っているからだ。糸の引きは強いときも弱いときもあって、ときには何日も、糸の存在をほとんど感じないこともあった。けれども、普段なら、ちょっと意識を向ければすぐにわかるはずの方角だ。だが。
「……あれ?」リアナは首をひねった。
――引っ張られる感覚が、ない。
思いつくかぎり、人生ではじめて、糸のつながりを感じなかった。
「わからなくなっちゃった……」
リアナは間抜けな顔でウルカを見た。ウルカは、呆れたような、ほっとしたようなため息をついた。「そらみろ」
「でも、どうして?」
せっかく、ウルカに認めてもらうチャンスだったのに。しかも、お役人の前で。恥ずかしさと怒りで耳が熱くなる。
「……失礼しました。カイレニ様」
ウルカが管理官に向かって言う。「ライダーに憧れるあまり、夢見がちなことを言う癖のある娘なのです。子どもの言うことです、ご放念ください」
「今日かね?」
ウルカを一顧だにせず、カイレニと呼ばれた役人が立ちあがった。リアナに一歩近づく。
「え?」
「タマリスとのつながりを感じなかったのは、今日が初めてなのか、と聞いたのだ」
男はリアナの肩をつかみ、妙に平板な声で問う。わずかに恐怖をおぼえながら、うなずいた。「はじめてです」
「カイレニ様……?」
役人はリアナから離れ、何ごとかぶつぶつと呟きながら部屋のなかを歩きはじめた。
「もし、〈呼ばい〉なら?……陛下の容態は、予断を許さぬと……だが、フロンテラで? あまりにも異例だ……」
役人の様子が怖くなったリアナは、ウルカの袖を引いた。「あの……やっぱり、いけなかった?」
「済んだことは仕方がない」
ウルカは小さな声で言った。「これはおまえの、というよりは、イニと私の責任だ。……だが今夜は、もう帰りなさい。明日のことは、ちゃんと考えておくから」
「……ごめんなさい」
自分なりによく考えての行動ではあったが、ウルカに心配(と、おそらくは迷惑)をかけてしまったのは間違いなさそうだ。部屋を出る前に、リアナはしおらしく謝った。
が、ウルカは呆れたように首を振る。年少の子どもたちを叱るときと同じ目つきで、
「うちのバカ息子に通じるからといって、私も同じようにおまえに甘いと思ったら、大間違いだからな」と言った。
(でも結局、怒らなかった)
同じくらい甘いんじゃないかなぁ、と思い、少し元気が出て、リアナは笑顔で館を出た。
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