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5 王都タマリス
第27話 五公会・二人は政敵? 1
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竜騎手に先導されて、長い廊下を歩いていく。
広い廊下で誰かとすれ違いそうになるたび、さっと両側によけて深々と頭を下げられる。国境沿いから見つけだされた王位継承者。前々王の娘。すでに、そう聞かされているのだろう。
(だけど、自分が何者であるかを、みんな知っているんだろうか)とリアナは疑問に思った。しだいに廊下は狭く、装飾は豪奢になっていき、目の前に大きな扉があらわれた。大人の背の高さほどの竜が五柱並ぶように、紋様が浮き彫りにされている。二人の衛兵が両側を守り、双子のようにぴったりと動きをそろえて、儀礼的な仕草で剣を下ろし、二人を中に導いた。
扉の大きさを考えれば、なかは小さな部屋だった。窓がなく、明かりが少ないので、目が慣れるまでぼんやりとしか見えない。
薄明りのなか、その場にいる全員の視線が自分に注がれているのを、リアナは感じた。
「五公会へようこそ、リアナ殿下」
静かで、よくとおる声だ。他人に命令しなれている者の声だと思った。
明かりを反射してなにかがきらりと光り、動いた。立ち上がった人物の眼鏡だと、遅れて気がつく。昨日は見かけなかったこの老人が、おそらく五公の最後の一人、エンガス卿だろうとリアナは見当をつける。その隣のデイミオンが意味深なアイコンタクトを送って寄こした。〈呼ばい〉など使うまでもなく、「余計なことはするな」と顔に大きく書いてある。端正な顔が今日も無駄遣いされている。
儀礼的な堅苦しい挨拶が五人分続き、それを終えるとエンガス卿が、「王位を辞退したいとのお考えがあると、さきほど、デイミオン卿より伺いましたが」と切りだした。
自分のいないところで、すでに権力者たちは打ちあわせ済み、というわけだ。「殿下」だなどと恭しく呼ばれているが、辺境から連れてこられた得体のしれない小娘など、しょせんはその程度の扱いということだろう。
「はい」リアナは内心を隠してうなずいた。
「王位を望まれないと?」
「はい」
長くしゃべるとボロが出そうな気がして、ついぶっきらぼうな返答になってしまった。
「理由をお尋ねしても?」
「ほかにやるべきことがあるんです。やりたいことも」
そして、デイミオンの方をちらりと見る。「ふさわしい方もほかにおられるでしょうし」
その答えは彼の自尊心を満足させたらしく、笑みが深まった。
「わかりました。殿下のお気持ちを尊重するのがよろしいでしょう」
内心でどう思っているかはわからないが、少なくともエンガス卿の口調は丁寧で、「気持ちを尊重する」という言葉に嘘はなさそうに響いた。
「待たれよ」
それまで黙っていた金髪の若領主、エサルが制止をかけた。
「殿下は竜騎手としての教えもまだ受けていない、成人したばかりのお年だ。周囲の声に流されて、ご自分の意向をお持ちでないのでは?」
暗に、「おまえが譲位を迫ったんだろうが」とデイミオンに言っているのは間違いない。
「心外だな」あてこすられた本人はしらじらしく目を見開いた。「殿下は聡明なお方だ。ご自分の立場をよくわかっておられる」
(よくもまぁ……)これはリアナの内心の声。
「いかがお考えか? リアナ殿下」
エンガス卿の問いに、リアナは一瞬答えに詰まった。まさにその通りですとも言えない。しかたなく、「見ての通りの若輩ですので、年長の方々のご意見を伺いたく思います」と、せいぜいしおらしく聞こえるように言った。
その場にいる年長者、つまりリアナ以外の全員が、お互いに探るようなまなざしを交わした。
「よろしい」
効果的な間を置いて、エンガス卿が告げた。
「このような場合は、五公の総意で決めるのがよかろう。リアナ殿下の王位辞退を認めるか? それとも、われわれがお支えし、王の座に就いていただくべきか? お考えいただきたい」
どちらが自分の得になるかを、と、言わずともその目が暗に語っていた。
広い廊下で誰かとすれ違いそうになるたび、さっと両側によけて深々と頭を下げられる。国境沿いから見つけだされた王位継承者。前々王の娘。すでに、そう聞かされているのだろう。
(だけど、自分が何者であるかを、みんな知っているんだろうか)とリアナは疑問に思った。しだいに廊下は狭く、装飾は豪奢になっていき、目の前に大きな扉があらわれた。大人の背の高さほどの竜が五柱並ぶように、紋様が浮き彫りにされている。二人の衛兵が両側を守り、双子のようにぴったりと動きをそろえて、儀礼的な仕草で剣を下ろし、二人を中に導いた。
扉の大きさを考えれば、なかは小さな部屋だった。窓がなく、明かりが少ないので、目が慣れるまでぼんやりとしか見えない。
薄明りのなか、その場にいる全員の視線が自分に注がれているのを、リアナは感じた。
「五公会へようこそ、リアナ殿下」
静かで、よくとおる声だ。他人に命令しなれている者の声だと思った。
明かりを反射してなにかがきらりと光り、動いた。立ち上がった人物の眼鏡だと、遅れて気がつく。昨日は見かけなかったこの老人が、おそらく五公の最後の一人、エンガス卿だろうとリアナは見当をつける。その隣のデイミオンが意味深なアイコンタクトを送って寄こした。〈呼ばい〉など使うまでもなく、「余計なことはするな」と顔に大きく書いてある。端正な顔が今日も無駄遣いされている。
儀礼的な堅苦しい挨拶が五人分続き、それを終えるとエンガス卿が、「王位を辞退したいとのお考えがあると、さきほど、デイミオン卿より伺いましたが」と切りだした。
自分のいないところで、すでに権力者たちは打ちあわせ済み、というわけだ。「殿下」だなどと恭しく呼ばれているが、辺境から連れてこられた得体のしれない小娘など、しょせんはその程度の扱いということだろう。
「はい」リアナは内心を隠してうなずいた。
「王位を望まれないと?」
「はい」
長くしゃべるとボロが出そうな気がして、ついぶっきらぼうな返答になってしまった。
「理由をお尋ねしても?」
「ほかにやるべきことがあるんです。やりたいことも」
そして、デイミオンの方をちらりと見る。「ふさわしい方もほかにおられるでしょうし」
その答えは彼の自尊心を満足させたらしく、笑みが深まった。
「わかりました。殿下のお気持ちを尊重するのがよろしいでしょう」
内心でどう思っているかはわからないが、少なくともエンガス卿の口調は丁寧で、「気持ちを尊重する」という言葉に嘘はなさそうに響いた。
「待たれよ」
それまで黙っていた金髪の若領主、エサルが制止をかけた。
「殿下は竜騎手としての教えもまだ受けていない、成人したばかりのお年だ。周囲の声に流されて、ご自分の意向をお持ちでないのでは?」
暗に、「おまえが譲位を迫ったんだろうが」とデイミオンに言っているのは間違いない。
「心外だな」あてこすられた本人はしらじらしく目を見開いた。「殿下は聡明なお方だ。ご自分の立場をよくわかっておられる」
(よくもまぁ……)これはリアナの内心の声。
「いかがお考えか? リアナ殿下」
エンガス卿の問いに、リアナは一瞬答えに詰まった。まさにその通りですとも言えない。しかたなく、「見ての通りの若輩ですので、年長の方々のご意見を伺いたく思います」と、せいぜいしおらしく聞こえるように言った。
その場にいる年長者、つまりリアナ以外の全員が、お互いに探るようなまなざしを交わした。
「よろしい」
効果的な間を置いて、エンガス卿が告げた。
「このような場合は、五公の総意で決めるのがよかろう。リアナ殿下の王位辞退を認めるか? それとも、われわれがお支えし、王の座に就いていただくべきか? お考えいただきたい」
どちらが自分の得になるかを、と、言わずともその目が暗に語っていた。
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