リアナ1 王冠の竜騎手と心臓のない英雄

西フロイデ

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間章

竜の出産とデイミオン卿の憂さ晴らし 2

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 今でも覚えているが、その年の冬はよく働いた。飛竜舎のほうで孵化の成功率が高く、十羽近い雛が一時期に孵ったからで、里に数人しかいない飼育人たちは大忙しだったのだ。イニもその例に漏れず、竜舎に泊まりこむ日が多かったが、手伝うリアナは楽しくてあまり苦にはならなかった。
 その頃のことを、彼女は今でも時折思いだす――竜は火を怖がらないので、竜舎の中は冬でも人間の家と変わらないほど暖かい。食べそこなった昼食のパンに差し入れのハムとチーズを挟んで火であぶったものと、湯で薄めたホットワインの夜食。夕飯のシチューの残りを使ったシェパード・パイはおいしくて、いつも競争になったっけ。聞こえてくるのは、酒が入った大人たちのくだらない噂話と笑い声のまじるざわめき。竜たちの満足した調子の低いうなり声。リアナ自身も幼竜の世話に追われ、夜にはぐったりしてしまうことが多かった。手仕事をしているイニの横で、古いが清潔な毛布にくるまって休んでいると、養い親はあれこれと面白い話をしてくれた。彼自身が行ったことのある異国の地の話も大好きだったが、一番はやはり、いにしえの女王オンファレの話だ。妖精の国の美しく賢い女王が、魔法使いの青年に助けられながら国の危機を救うというもので、歳によらず空想家らしいイニの語り口のおかげでケイエの芝居小屋にも負けないほどはらはら、わくわくしたものだ。
 手足は重く疲れているが、心は満足して、安心しきって眠っていられた夜のことは、今でも懐かしい。

 いつもより早く感じた冬が終わり、雛たちの世話にようやくひと息つけるようになったころ、イニはふらりと旅に出ていった。
 優秀な飼育人だが、少し風変りなところのあるこの養い親の、唯一の悪癖といえるのが放浪癖だった。仕事で忙しくしているときには収まっているが、繁忙期の春が終わると同時に風に誘われるらしい。里に定住するまでは放浪の画家だったというのが本人の弁で――短いときでも二、三週間、長ければ季節が変わるまで帰ってこないこともあったが、里人たちにも慣れたことだったし、リアナもおとなしく見送った。小さな時には泣いて泣いて、顔を涙と鼻水だらけにして引きとめたものだったが、冬が来れば十六歳になるのだ。いつまでも親の後を雛のようについて回る歳でもなかった。
 イニが家を出た日のことは、今でもよく思い出す。リアナが鞍袋サドルバッグに数日分の食糧をつめたあと居間に戻ると、簡素な旅じたくをしたイニが、しみじみと広い部屋を見まわしていた。
「おまえがそこらじゅうを這いまわって、目につくものはなんでも口に入れてた頃が懐かしいよ。ほんの昨日のことのようだがな」
 そのとき、自分がなんと返事をしたのかを覚えていない。養い親の、日焼けして皺の多い顔は今でも覚えているのだが。おそらく、たいして気にも留めていなかったのだろう。ただ、あまり親らしい思い出じみた話はしないタイプだったので、少し意外に思ったような気がする。そのころ、リアナはイニにいっぱしの女房面をしがちだったから、この時もパンを消しゴムの替わりに使うのはやめてよねとか、何か口うるさいことを言ったのかもしれない。

 長身をかがめるようにして戸をくぐって出ていった養父は、それきり帰ってきていない。
 季節は秋になりつつあった……。
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