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6 あらわになる陰謀
第31話 フィルバートをめぐる冒険 3
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一方、同時刻のタマリス城下街。
夕方からの葬儀に出る予定のリアナだったが、城下街に降りるのは初めてで、詳しく場所を聞いてこなかったことを後悔しはじめていた。護衛の竜騎手は、「このあたりの住宅については、よく存じませんので」とそっけなく答えるのみ。
貴族たちのタウンハウスや、公使、役人たちの邸宅が立ち並ぶ山の手からは、だいぶん距離がある。竜車が入れない狭い路地が多かった。振り返れば竜騎手たちの不満顔を見ることになりそうで、あえてさっさと歩く。
メドロートは、ライダーが葬儀に参列しては遺族のほうが気を遣うだろう、と言っていた。今ごろになって、(彼が正しかったのかもしれない)と思いはじめていた。
家はごく小さく、リアナたちがそこにたどりついたときには、すでにカロスという名前のその兵士の棺は運び出されようとしていたところだった。黒衣の男たちが担ぐ棺の後ろを、家族の近くについて歩いていた一人の男が、リアナの姿を認めて驚いた顔をした。
「殿下」
殿下、と声をかけてきたのは、くすんだ金髪に、金茶の瞳。幼なじみのケヴァンと同じ色合いをした兵士だ。
「どうしてこんな場所におられるんです? 護衛は?」
兵士は、フィルそっくりの質問をすると、背後を抜け目なく観察した。竜騎手たちが控えているのを確認すると、いくらか緊張をほどいた。
竜騎手にして王太子のリアナ。そして〈ハートレス〉の兵士。二人は、短い旅の間に顔見知りになっていた。
「テオバール・ギューデン」
リアナは呼びかけた。「森では、助けてくれてありがとう」
「……仕事ですから」
名を呼ばれた兵士は露骨に目をそらした。テオことテオバール・ギューデンは、廃城での救出作戦でフィルとともにリアナとデイを救った功労者《こうろうしゃ》だ。だからもちろん、顔も名前も覚えている。
「デーグルモールとの戦いで、わたしたちを助けて亡くなった〈ハートレス〉の兵士がいたと聞いて、来たんだけど……」
冷たい態度にくじけそうになる気持ちを奮い立たせて、リアナは切り出した。
「あの……勲章を授ける竜騎手は? 表彰があるはずだと思ったんだけど……」
リアナの記憶が正しければ、その兵士は、王太子を守った功績によって勲章と恩賞の栄誉に預かったはずだった。
「竜騎手が葬式に? ありがたいと拝むべきですかね?」
テオの口調にも表情にも、侮蔑の色が混じっていた。
「まぁ勲章と金はもらっておきます。家族にゃ必要でしょうしね」
ぽっと出の、田舎娘の名ばかり王太子。自分でもそう思っているから、年長者に邪険にされるのはあきらめがついている。でも、テオの口調には、それだけではない反感が感じられた。
「あなたたちは、すべて〈ハートレス〉だと聞いたわ。かつては、同じひとつの隊に所属していた」
棺について歩きながら、リアナは小声で言った。竜騎手たちには離れているよう頼んだが、白竜を連れた身なりのいい少女の姿は目立つ。歓迎されていない空気を感じた。
「王国第二十一連隊。すべて〈ハートレス〉だけで構成された特殊部隊。その連隊長が、フィルだった」
兵士は黙ったままだが、リアナはつづけた。「ヴァデックの撤退戦、ウルムノキアの城攻め、涸れ谷の奇襲など数々の功績をなした。第二十一連隊はオンブリアの長い歴史においてさえもっとも多い犠牲者と、もっとも多い勲章とで名を残し、〈恐れ知らず〉と称えられた」
「へえ。歴史家ってのはいいところばっかり書き残すんですね。吟遊詩人と一緒か」
テオは顔をゆがめて笑った。
「そう思うなら、公文書を残すべきだわ。隊員たちに聞き取り調査をして……」
「そりゃ名案だ。あんたがやってくださいよ。……もっとも、残り少ない隊員だ。早くやっちまわないと証人もいなくなっちまうと思いますけどね」
「残り少ないって……」
「ケイエを出立するときに、元隊員たちを見たでしょう? あれが残り1/3ってとこかな」
交代勤務でしたからね、と何事もないかのように続けたが、リアナは悲鳴のように叫んだ。「たった六人だったじゃないの!」
「そうですよ。そしてこれからも減っていく」
ケヴァンよりは年上だろうが、まだ青年といっていいくらいの兵士は呟いた。「カロスのやつ、耳がよくて危険を察知するのが早かった。逃げ足も速くて。長生きするだろうとよく仲間内でからかわれていたんですが、あっけないもんですね」
その顔は穏やかといっていいほどで、いったいどれほどの死を、彼は見たことがあるのだろう、と思わされた。そして、なぜか不思議なほどフィルに似て見えた。血のつながった兄のデイミオンよりも、よほど。
夕方からの葬儀に出る予定のリアナだったが、城下街に降りるのは初めてで、詳しく場所を聞いてこなかったことを後悔しはじめていた。護衛の竜騎手は、「このあたりの住宅については、よく存じませんので」とそっけなく答えるのみ。
貴族たちのタウンハウスや、公使、役人たちの邸宅が立ち並ぶ山の手からは、だいぶん距離がある。竜車が入れない狭い路地が多かった。振り返れば竜騎手たちの不満顔を見ることになりそうで、あえてさっさと歩く。
メドロートは、ライダーが葬儀に参列しては遺族のほうが気を遣うだろう、と言っていた。今ごろになって、(彼が正しかったのかもしれない)と思いはじめていた。
家はごく小さく、リアナたちがそこにたどりついたときには、すでにカロスという名前のその兵士の棺は運び出されようとしていたところだった。黒衣の男たちが担ぐ棺の後ろを、家族の近くについて歩いていた一人の男が、リアナの姿を認めて驚いた顔をした。
「殿下」
殿下、と声をかけてきたのは、くすんだ金髪に、金茶の瞳。幼なじみのケヴァンと同じ色合いをした兵士だ。
「どうしてこんな場所におられるんです? 護衛は?」
兵士は、フィルそっくりの質問をすると、背後を抜け目なく観察した。竜騎手たちが控えているのを確認すると、いくらか緊張をほどいた。
竜騎手にして王太子のリアナ。そして〈ハートレス〉の兵士。二人は、短い旅の間に顔見知りになっていた。
「テオバール・ギューデン」
リアナは呼びかけた。「森では、助けてくれてありがとう」
「……仕事ですから」
名を呼ばれた兵士は露骨に目をそらした。テオことテオバール・ギューデンは、廃城での救出作戦でフィルとともにリアナとデイを救った功労者《こうろうしゃ》だ。だからもちろん、顔も名前も覚えている。
「デーグルモールとの戦いで、わたしたちを助けて亡くなった〈ハートレス〉の兵士がいたと聞いて、来たんだけど……」
冷たい態度にくじけそうになる気持ちを奮い立たせて、リアナは切り出した。
「あの……勲章を授ける竜騎手は? 表彰があるはずだと思ったんだけど……」
リアナの記憶が正しければ、その兵士は、王太子を守った功績によって勲章と恩賞の栄誉に預かったはずだった。
「竜騎手が葬式に? ありがたいと拝むべきですかね?」
テオの口調にも表情にも、侮蔑の色が混じっていた。
「まぁ勲章と金はもらっておきます。家族にゃ必要でしょうしね」
ぽっと出の、田舎娘の名ばかり王太子。自分でもそう思っているから、年長者に邪険にされるのはあきらめがついている。でも、テオの口調には、それだけではない反感が感じられた。
「あなたたちは、すべて〈ハートレス〉だと聞いたわ。かつては、同じひとつの隊に所属していた」
棺について歩きながら、リアナは小声で言った。竜騎手たちには離れているよう頼んだが、白竜を連れた身なりのいい少女の姿は目立つ。歓迎されていない空気を感じた。
「王国第二十一連隊。すべて〈ハートレス〉だけで構成された特殊部隊。その連隊長が、フィルだった」
兵士は黙ったままだが、リアナはつづけた。「ヴァデックの撤退戦、ウルムノキアの城攻め、涸れ谷の奇襲など数々の功績をなした。第二十一連隊はオンブリアの長い歴史においてさえもっとも多い犠牲者と、もっとも多い勲章とで名を残し、〈恐れ知らず〉と称えられた」
「へえ。歴史家ってのはいいところばっかり書き残すんですね。吟遊詩人と一緒か」
テオは顔をゆがめて笑った。
「そう思うなら、公文書を残すべきだわ。隊員たちに聞き取り調査をして……」
「そりゃ名案だ。あんたがやってくださいよ。……もっとも、残り少ない隊員だ。早くやっちまわないと証人もいなくなっちまうと思いますけどね」
「残り少ないって……」
「ケイエを出立するときに、元隊員たちを見たでしょう? あれが残り1/3ってとこかな」
交代勤務でしたからね、と何事もないかのように続けたが、リアナは悲鳴のように叫んだ。「たった六人だったじゃないの!」
「そうですよ。そしてこれからも減っていく」
ケヴァンよりは年上だろうが、まだ青年といっていいくらいの兵士は呟いた。「カロスのやつ、耳がよくて危険を察知するのが早かった。逃げ足も速くて。長生きするだろうとよく仲間内でからかわれていたんですが、あっけないもんですね」
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