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6 あらわになる陰謀
第33話 フィルバートをめぐる冒険 8
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竜車の中で、リアナは黙ってつらつらと考えていた。
メドロートに教わった白竜の竜術の基本。それから、ファニーに教わったオンブリアの地理や歴史。王佐のエサル公との会話で、リアナは自分がかなり真実に近づいていると確信を持ちはじめていた。先ほどテオに頼んだことは、本来ならフィルに頼もうと思っていたことだったが、振りかえってみるとやはり彼が適任ではないかと言う気がしている。
わたしの推測は、たぶん正しい、と思う。
けれど、どうしてもあと一か所だけ、わかっていないことがある。
まだなにかある、とリアナは思った。なにかがひっかかる。
竜車が止まった。考え事をしていたリアナは、狼狽してあたりを見まわした。ハダルクもややけげんそうだ。車の扉がさっと開き、レランが少年じみた顔をのぞかせた。
「道路に倒木があります。念のために迂回したほうがいいかと……」
ハダルクが顔をしかめた。「罠かもしれない。道を変えたくはないが……注意して進め」
しばらく進むと、かつんと乾いた音が天井に響き、また車が止まった。小石でも落ちたのだろうか、と上を見上げる。カーテンを開けて外の様子を確かめようとすると、「窓から離れてください!」と怒鳴られた。慌てて言われたとおりにする。すぐに、ボッ、ボッという音が続いて、カーテンに矢が突き刺さった。思わず片手を顔の前に出してしまい、矢じりに触れた手のひらから血がこぼれる。
「何っ……」
「身体をかがめて!」
ごとんという大きな音と、走り竜のシューッという威嚇音が続いた。リアナはそっと呼びかけてみた。
「ハダルク卿……?」
返事の代わりに、急に窓がバンッと開き、手が入って来た。思わず身を固くする。ハダルクだった。
「……矢を射かけられた。ご無事ですか、殿下?」
「え、ええ」
「止まると危ないので、一人が矢避け、私が御してこのまま突っ走ります。揺れますから口を閉じて、舌を噛まないように!」
「わかったわ!」
応答するのと同時に窓が閉じ、竜車は恐ろしい勢いで走りはじめた。その間も天井には矢の当たる音が降りつづき、リアナは座席の下で身を固くして震えながら到着までの無事を祈った。
外に出てもよい、と声をかけられたのは短い夕立ほどの時間の後だった。ずっと同じ姿勢で固まっていたことと緊張のために、竜車を降りるときによろめいてしまう。
そこは、すでに掬星城の前庭だった。
「〈通信手〉はデイミオン卿に報告を。殿下の安全を確保したのち、私が追って報告に上がる……」
ハダルクは途中で言いかけた言葉を止めた。「いや、その必要はなさそうだ」
こちらに向かってずんずんと近づいてくる人影は、城門から入り口まで並ぶ松明の火で、闇の中にはっきりと浮かび上がった。甲冑こそ着けていないが、昼間と変わらない長衣《ルクヴァ》姿のデイミオンだ。ハダルクが寄っていくので、報告を受けるのだろうと思ったが、彼を無視してそのままリアナのほうに近づいてくる。顔を見るまでもなく、デイミオンは激怒していた。
「なぜ〈呼ばい〉を使わなかった? なんのために訓練したと思っているんだ!」
「――デイミオン」
自分でも、声が出たことが不思議だった。それくらい恐ろしい思いをしたのだが、デイミオンの怒鳴り声を聞いて、なぜだか心の栓がゆるんだようだった。
「手を怪我したな?」
ろくに見もせずに言うあたり、〈呼ばい〉で感じ取っていたのだろう。手を取ってあらためられるので、リアナはされるままになった。
「びっくりしたの」言いわけのように言う。「降りるときにあわてて、矢の先に触っちゃっただけ……」
「猟犬に追われるウサギのように怯えていたくせに。なぜ私を呼ばなかったんだ!」
「若い女性に、そんなふうに怒鳴ってはいけませんよ、閣下……」
ハダルクがやんわりと注意した。
さらにぶつぶつと小言を言われながらも、リアナは不思議と恐怖が消えていき、落ち着きが戻ってきたような気がした。デイミオンが怒っているのが、自分を心配してくれているからなのか、自分の身に何かあると疑われるという例の政治的判断のためかはわからなかったが、今日のところはどちらでもいい。
ほっとして涙がでるほどに、彼女は安堵していた。
メドロートに教わった白竜の竜術の基本。それから、ファニーに教わったオンブリアの地理や歴史。王佐のエサル公との会話で、リアナは自分がかなり真実に近づいていると確信を持ちはじめていた。先ほどテオに頼んだことは、本来ならフィルに頼もうと思っていたことだったが、振りかえってみるとやはり彼が適任ではないかと言う気がしている。
わたしの推測は、たぶん正しい、と思う。
けれど、どうしてもあと一か所だけ、わかっていないことがある。
まだなにかある、とリアナは思った。なにかがひっかかる。
竜車が止まった。考え事をしていたリアナは、狼狽してあたりを見まわした。ハダルクもややけげんそうだ。車の扉がさっと開き、レランが少年じみた顔をのぞかせた。
「道路に倒木があります。念のために迂回したほうがいいかと……」
ハダルクが顔をしかめた。「罠かもしれない。道を変えたくはないが……注意して進め」
しばらく進むと、かつんと乾いた音が天井に響き、また車が止まった。小石でも落ちたのだろうか、と上を見上げる。カーテンを開けて外の様子を確かめようとすると、「窓から離れてください!」と怒鳴られた。慌てて言われたとおりにする。すぐに、ボッ、ボッという音が続いて、カーテンに矢が突き刺さった。思わず片手を顔の前に出してしまい、矢じりに触れた手のひらから血がこぼれる。
「何っ……」
「身体をかがめて!」
ごとんという大きな音と、走り竜のシューッという威嚇音が続いた。リアナはそっと呼びかけてみた。
「ハダルク卿……?」
返事の代わりに、急に窓がバンッと開き、手が入って来た。思わず身を固くする。ハダルクだった。
「……矢を射かけられた。ご無事ですか、殿下?」
「え、ええ」
「止まると危ないので、一人が矢避け、私が御してこのまま突っ走ります。揺れますから口を閉じて、舌を噛まないように!」
「わかったわ!」
応答するのと同時に窓が閉じ、竜車は恐ろしい勢いで走りはじめた。その間も天井には矢の当たる音が降りつづき、リアナは座席の下で身を固くして震えながら到着までの無事を祈った。
外に出てもよい、と声をかけられたのは短い夕立ほどの時間の後だった。ずっと同じ姿勢で固まっていたことと緊張のために、竜車を降りるときによろめいてしまう。
そこは、すでに掬星城の前庭だった。
「〈通信手〉はデイミオン卿に報告を。殿下の安全を確保したのち、私が追って報告に上がる……」
ハダルクは途中で言いかけた言葉を止めた。「いや、その必要はなさそうだ」
こちらに向かってずんずんと近づいてくる人影は、城門から入り口まで並ぶ松明の火で、闇の中にはっきりと浮かび上がった。甲冑こそ着けていないが、昼間と変わらない長衣《ルクヴァ》姿のデイミオンだ。ハダルクが寄っていくので、報告を受けるのだろうと思ったが、彼を無視してそのままリアナのほうに近づいてくる。顔を見るまでもなく、デイミオンは激怒していた。
「なぜ〈呼ばい〉を使わなかった? なんのために訓練したと思っているんだ!」
「――デイミオン」
自分でも、声が出たことが不思議だった。それくらい恐ろしい思いをしたのだが、デイミオンの怒鳴り声を聞いて、なぜだか心の栓がゆるんだようだった。
「手を怪我したな?」
ろくに見もせずに言うあたり、〈呼ばい〉で感じ取っていたのだろう。手を取ってあらためられるので、リアナはされるままになった。
「びっくりしたの」言いわけのように言う。「降りるときにあわてて、矢の先に触っちゃっただけ……」
「猟犬に追われるウサギのように怯えていたくせに。なぜ私を呼ばなかったんだ!」
「若い女性に、そんなふうに怒鳴ってはいけませんよ、閣下……」
ハダルクがやんわりと注意した。
さらにぶつぶつと小言を言われながらも、リアナは不思議と恐怖が消えていき、落ち着きが戻ってきたような気がした。デイミオンが怒っているのが、自分を心配してくれているからなのか、自分の身に何かあると疑われるという例の政治的判断のためかはわからなかったが、今日のところはどちらでもいい。
ほっとして涙がでるほどに、彼女は安堵していた。
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