リアナ1 王冠の竜騎手と心臓のない英雄

西フロイデ

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6 あらわになる陰謀

第34話 まだなにかある 2

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 真っ青になって領地に帰ると言いだしたエサル公を抑えて引きとどめ、リアナは彼と自分の権限けんげんで五公会を招集しょうしゅうするように頼んだ。
 この時点で、自分の乗った竜車が襲われてから五日後のことである。テオが計画どおりに動いてくれていれば、会に必要なものが明日届く。ぎりぎりのタイミングだ。

 エサルは南部フロンテラの領主だから、当然国境付近の情勢に詳しい。人間の国家アエディクラが侵攻してくるかもしれないという危機感は彼も抱いており、だからこそ〈隠れ里〉襲撃に関してのリアナの仮説をすんなり受け入れたのだろう。

 リアナは、襲撃の隠れた目的は「竜」と「子どもたち」の獲得だと考えている。
 それ以外の仮説は、すでにファニーやエサルとの会話のなかで検証し、否定されたからだ。たとえば、第一の仮説は「王太子であるリアナを殺し、その証拠ごと里を焼き滅ぼした」というものだが、この説はリアナのがあまりに低いためにボツになった。簡単に言ってしまえば、オンブリアの領主貴族たちにとってはリアナが死んだ結果、デイミオンが王になるほうがよほど脅威となるのだ。

 里を襲ったのは、戦争兵器となりうる竜と、その力を制御する能力を持った子どもを収奪しゅうだつすること。
 里を焼き払ったのは、その事実を知られないようにするためだ。
(これが正しければ、アエディクラが背後にいるにしても、宣戦布告の線は薄い)
 竜を連れ去ったのに、飼育人を連れていかなかったのは、おそらく彼らにはすでに竜の飼育のノウハウがあるから。あるいは、あまり考えたくないが、デーグルモールたちも竜の世話をしているはずだ。
 あるいは、もし半死者デーグルモールたちだけの犯行だったとしたら。……いや、デイミオンは彼らが使えるマスケット銃を持っていたと言っていた。やはり人間の支援があったと考えるべきで……。

 自室に戻ってからも、リアナは机の前で考え続けていた。この考えに抜けはないように思える。
(もう、ほとんど答えにたどり着いているはずだわ)

 

 ♢♦♢

 夢を見ていた。里を出てから、もう何度同じ夢を見たかわからない。その場にはいなかったはずなのに、家を焼く炎が見える。煙。逃げまどう里人たち。炎を背景にえる巨大な黒竜。軍装の男たちが追ってきて、後ろから里人たちを切りつけ、突き刺し、引き倒す。
 アアアアーッと、人間とも獣ともつかない異様な悲鳴が響く。

 炎のなかにリアナはいた。よろめきながら逃げようとする里人がぶつかってくる。だれかに足首をつかまれて動けない。目を血走らせた兵士たちが、もう目前に迫っている。必死で子どもたちを探す。恐ろしくてたまらない。でも、どうしても知らなくては。子どもたちが――
「リアナ」

 リアナは悲鳴をあげ続けた。

「殿下! リアナ様!」
 悪夢は唐突に終わった。誰かに身体を揺さぶられている――誰だっけ? ああ、この黒髪――侍女のミヤミだ。悪夢から解放されたリアナより、よほどほっとした顔をしている。その顔になぜか一瞬、フィルの顔が重なって見えた。最近は護衛の任務もほかの兵士と交代で務めていることが多く、話す機会もあまりない。心配してくれる侍女の顔に彼を重ねるなんて、自分は知らないうちにフィルを恋しく思っているのだろうか?
「……ミヤミ」
「ここにいます」侍女は、母親が子どもにするように、そっと額をくっつけた。「あなたのそばに」
 そういえば、最近は彼女がずっと自室についてくれているのだった、と思いだす。そう頼んだ覚えはないが、悪夢を見てうなされることが多いから、気をきかせてくれたのだろうか。
(それとも……あなたなの、フィル?)

 リアナは目を閉じ、また開いた。
「思いだしたわ……エリシャ、ロッタ、ケヴァン、レラン」
「死者の名をですか?」額をまだ合わせたまま、侍女が呟いた。「殿下はもう忘れてください。わたしたちが石に刻みますから。あなたの代わりに」
(わたしたち?――……)
 侍女は謎めいたことを言った。だが、それに気を取られている時間はリアナにはなかった。瞬間に思いついた考えのほうが、より重要だった。

『里人たちの死体は、ひどく損傷しているものもあったけど――ほとんどは単に刺殺されていた』
 自分自身がエサルに言った言葉が、いまになってよみがえってくる。
「殿下――?」ミヤミがいぶかしげに声をかける。

「アエディクラが欲しがるのは、ライダーになれる生きた子どものはず。デーグルモールが子どもたちをさらって食べたとしても、死体は食い荒らされていたはずよ。……でも、

 かすかな違和感の正体はこれだったのだ。リアナはほとんど、しゃべりながら考えていた。すべてのピースがひとつにはまっていくような、おそろしい感覚が背筋を這いあがってきて、目の前の侍女にしがみつかずにはいられなかった。



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