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終章 戴冠式
第39話 戴冠式、そしてわたしは…… 1
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掬星城の廊下という廊下には、びっしりと人が立ちならんでいた。
竜騎手に近衛兵、事務官たちが、廊下の広くなったところに集まり、使用人たちは戸口や回廊の隅に控えていた。各領地からやってきた領主貴族とその一族たちは、それぞれの紋章の入った旗の近くに集まり、王の後継者が即位宣言の場に向かうのをじっとうかがっていた。儀式用の剣を掲げた三十人の近衛兵を先導に立て、デイミオンとリアナは足早に式典場へと向かった。
リアナが歩くそばから、足もとには花が投げられ、あちこちの戸口や階段からは、名前を呼ぶ歓喜の声がそれに続く。すでに、ケイエでの彼女の活躍が広まっているものとみえた。デーグルモールの出現については緘口令を敷いているが、民衆を火事から救った王太子というのは格好の宣伝材料になるのだろう。
リアナ・ゼンデンは王として迎えいれられようとしている。
自分がそれを望んでいるかはわからないが。
「あの兵士の家族は見つかった?」歩きながら、リアナが問う。
「いや」デイミオンは小声で答える。
そのあとは念話に切りかえた。聴かれたくない内容なのだろう。
〔ケイエ付近に、やつらが使っていたと思われる廃屋を発見した。が、同胞の痕跡はなかった〕
リアナはうなずく。おおかた、予想されていたことではあった。
〔本拠地については、まだぜんぜん情報はないのよね?〕
デイミオンは、顔に笑みを貼りつけたままかすかに首を振る。
〔何十年も探してきて見つからないのだから、すぐにとは行くまい。……だが、あの兵士の情報は貴重だった〕
〔その貴重な情報のために一人の兵士が死に、ケイエは四分の一が燃えたのよ〕
〔……あまり自分を責めるな〕
見下ろしてくる青い目に諭される。リアナは小さくため息をついた。ケイエではみっともないところを見せてしまったから、仕方がないところではあるのだけれど。
「ケイエの復興予算についてだけど、今年度の予算審議に間に合うかな?」
「特別費として計上させている。審議会を通す必要はない」
「せっかくこれだけの貴族たちが集まっているんだから、今日、見舞金を募ったらどうかしら?」
「それはいいが――おい、顔をしかめたままにするな。領主たちが不振がっているぞ」
顔を近づけてささやかれ、耳が赤くなるのを感じた。
「……こ……」
「こ?」
「こんなときに笑えないわ。あなたと違って慣れてないもの。……それに、王になる準備だってまだ出来てない。国内は問題が山積みだし……デーグルモールのこともあるし……」
「今は忘れろ」デイミオンは、ふいに作りものではない本物の笑みを浮かべた。「準備のいかんはともかく、おまえが王になることに異論のあるものはいないだろう」
「あなたがそんなこと言うなんて、驚きだわ。いつもの皮肉屋はどこにいったの?」
「もう疑ってはいない。おまえは王にふさわしい」
それは、そっけないが、確信のこもった口調だった。
この青年の皮肉抜きの言葉にも、笑顔にも、まだ慣れていない。リアナは赤くなった顔を隠すようにうつむいた。濃紺の長衣に星のように勲章をきらめかせたデイミオンは、直視できないほどにハンサムだった。
竜騎手に近衛兵、事務官たちが、廊下の広くなったところに集まり、使用人たちは戸口や回廊の隅に控えていた。各領地からやってきた領主貴族とその一族たちは、それぞれの紋章の入った旗の近くに集まり、王の後継者が即位宣言の場に向かうのをじっとうかがっていた。儀式用の剣を掲げた三十人の近衛兵を先導に立て、デイミオンとリアナは足早に式典場へと向かった。
リアナが歩くそばから、足もとには花が投げられ、あちこちの戸口や階段からは、名前を呼ぶ歓喜の声がそれに続く。すでに、ケイエでの彼女の活躍が広まっているものとみえた。デーグルモールの出現については緘口令を敷いているが、民衆を火事から救った王太子というのは格好の宣伝材料になるのだろう。
リアナ・ゼンデンは王として迎えいれられようとしている。
自分がそれを望んでいるかはわからないが。
「あの兵士の家族は見つかった?」歩きながら、リアナが問う。
「いや」デイミオンは小声で答える。
そのあとは念話に切りかえた。聴かれたくない内容なのだろう。
〔ケイエ付近に、やつらが使っていたと思われる廃屋を発見した。が、同胞の痕跡はなかった〕
リアナはうなずく。おおかた、予想されていたことではあった。
〔本拠地については、まだぜんぜん情報はないのよね?〕
デイミオンは、顔に笑みを貼りつけたままかすかに首を振る。
〔何十年も探してきて見つからないのだから、すぐにとは行くまい。……だが、あの兵士の情報は貴重だった〕
〔その貴重な情報のために一人の兵士が死に、ケイエは四分の一が燃えたのよ〕
〔……あまり自分を責めるな〕
見下ろしてくる青い目に諭される。リアナは小さくため息をついた。ケイエではみっともないところを見せてしまったから、仕方がないところではあるのだけれど。
「ケイエの復興予算についてだけど、今年度の予算審議に間に合うかな?」
「特別費として計上させている。審議会を通す必要はない」
「せっかくこれだけの貴族たちが集まっているんだから、今日、見舞金を募ったらどうかしら?」
「それはいいが――おい、顔をしかめたままにするな。領主たちが不振がっているぞ」
顔を近づけてささやかれ、耳が赤くなるのを感じた。
「……こ……」
「こ?」
「こんなときに笑えないわ。あなたと違って慣れてないもの。……それに、王になる準備だってまだ出来てない。国内は問題が山積みだし……デーグルモールのこともあるし……」
「今は忘れろ」デイミオンは、ふいに作りものではない本物の笑みを浮かべた。「準備のいかんはともかく、おまえが王になることに異論のあるものはいないだろう」
「あなたがそんなこと言うなんて、驚きだわ。いつもの皮肉屋はどこにいったの?」
「もう疑ってはいない。おまえは王にふさわしい」
それは、そっけないが、確信のこもった口調だった。
この青年の皮肉抜きの言葉にも、笑顔にも、まだ慣れていない。リアナは赤くなった顔を隠すようにうつむいた。濃紺の長衣に星のように勲章をきらめかせたデイミオンは、直視できないほどにハンサムだった。
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