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第6章 ほとんど宗教的なIF
第29話:ほとんど宗教的なIF・5
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しかしそれは弾丸が発射される音ではなかった。
火薬が銃の内部で暴発する音、弾丸は不発。銃口から頭身が弾けて派手に爆発し、彼方の左手が飛び散った。
神威も爆風に巻き込まれて大きく吹き飛ぶ。その後ろにはステージ中央の大穴が待ち構えていた。神威が穴に転落し、汎将が付き従うように穴に転がり込んでいく。
その姿はすぐに闇に飲み込まれて見えなくなった。こんなに口の広い穴なのに彼方の視力でも底が見えない。浅くても数キロくらいはあるのかもしれない。
「づあ!」
突然右肩に閃光が走る。立夏が傷口に生体印刷機を押し当てていた。
「あれ、痛覚あるんだ~。あんまり平然としてるから平気なのかと」
「我慢しているだけだ! いいよ、こんなもの急いで治さなくて。生体印刷機もあと使えるのは一回くらいだろう」
「そう、じゃあ別にいいや~」
彼方の身体は酷い有様だ。
右腕は刃物で切れ味よく切断され、左腕は爆発でグチャグチャ。どちらも筋肉や皮膚が辛うじてくっついているくらいで、骨が剥き出しになっているところもある。
「だが、これで神威を殺した。私の勝ちだ……」
そのとき、戦車がピピピと着信音を出す。
そして戦車近くの岩壁に勝手に映像を映し出した。あの研究所を背景にしてローチカと桜井さんが映っている。
「あれ、この戦車に通信機能あったっけ」
「これは録画の自動再生だ。彼女らは遺言代わりのビデオでここまでの真相と次回作への伏線を語る」
実際、映像の中でローチカが重々しく語る内容は彼方の記憶にあるものと一言一句違わなかった。
彼方たちが会ったローチカと桜井さんは元々の人格を生体印刷でコピーしたクローンであること。この世界にはオリジナルの人間はもうごく僅かしか残っていないこと。生体印刷された生命は数日程度しか生きられないこと。
生き続けるにはクローンからクローンを生体印刷するしかないが、生体印刷素材は彼方を印刷したもので最後だったこと。この映像が流れている頃にはローチカと桜井さんはもう死んでいること。
そして、クローンの寿命を伸ばす秘薬を戦車に積んでいること。
「これがトゥルーエンディングだ。生体印刷はまだ完璧な生命創造技術ではなかった。隣人たちが人間からクローン技術を奪取することに執拗にこだわったのも彼らの寿命の短さのためだ」
「薬ってこれかあ。で、私たちも生体印刷されてる以上は寿命が短いってことだよね」
立夏が戦車の中から小ぶりな薬瓶を持ってくるが、その手が手首から外れて地面にボトリと落ちた。
彼方の両腕が生々しく損傷しているのとは違う。パズルのパーツが外れるようにあっさりと脱落した。
「だからこそ、ここに科学者が研究成果として残した延命薬がある。この薬は遺伝子サイズの生体印刷機であり、細胞分裂の上限回数を定めるテロメアをミクロレベルで複製印刷する。これこそが隣人と人類の闘争を終わらせるキーアイテムであり、主人公の少女がこれを飲んで荒野に歩き出したところでエンディングとなる」
「あは、いかにも手頃な落としどころだね~。それって続編ではどうなるの?」
「誰も知らない。続編が出る前に開発会社が倒産したからだ。KSDの予想外のヒットで調子に乗ってハードウェア開発に乗り出した末の大赤字。資金繰りのさなかにKSDの著作権も売りに出され、結局誰の手に渡ったのかもわからず仕舞いさ」
「へ~。で、その薬飲まないと二人ともすぐ死にそうだけど、飲む?」
「飲むわけがない」
彼方は薬瓶を大穴の中に蹴り飛ばした。
薬瓶はすぐに見えなくなり、深い穴の中からは僅かに小動物が吠えるような風音が聞こえるばかりだ。
「私の目的は隣人の殲滅までだ。神威という裏ボスがいたとはいえ、当初の目的はこれでクリアした。だからこの世界はこれで終わりだ。世界を救う責任を続編まで負うつもりはない」
彼方の足元には既にあの虹色のボタンが出現している。茶色の地面に全く馴染まない、世界を全く意に介さない圧倒的な異物。
神威の汎将と同じ彼方自身の能力、終末器が。
「私の身体はもう死にかけだし、自壊をあえて拒まないのは消極的な自殺ではあるだろう。ファンタジスタ内を一度目、元現実世界を二度目とすれば、これでもう三度目だ。よく言うだろう、歴史は繰り返す。一度目は悲劇として、二度目は喜劇として」
「三度目以降は?」
「シュールギャグ」
彼方は足でボタンを踏みつけた。
周囲の天井と壁が一挙に崩落する。地面も、穴でさえも、何もかもが粒状の砂になってサラサラと流れ出していく。
隣人だとか生体印刷だとか、そんなものはもはや何も関係が無かった。それはこの世界ローカルの事情に過ぎないからだ。世界を貫く終末器は、世界を外側から勝手に終わらせる。内側の事情など何一つ考慮せず。
全てが粒子の波に飲み込まれていく。またしても世界が終わる、あと何度終わるのか?
火薬が銃の内部で暴発する音、弾丸は不発。銃口から頭身が弾けて派手に爆発し、彼方の左手が飛び散った。
神威も爆風に巻き込まれて大きく吹き飛ぶ。その後ろにはステージ中央の大穴が待ち構えていた。神威が穴に転落し、汎将が付き従うように穴に転がり込んでいく。
その姿はすぐに闇に飲み込まれて見えなくなった。こんなに口の広い穴なのに彼方の視力でも底が見えない。浅くても数キロくらいはあるのかもしれない。
「づあ!」
突然右肩に閃光が走る。立夏が傷口に生体印刷機を押し当てていた。
「あれ、痛覚あるんだ~。あんまり平然としてるから平気なのかと」
「我慢しているだけだ! いいよ、こんなもの急いで治さなくて。生体印刷機もあと使えるのは一回くらいだろう」
「そう、じゃあ別にいいや~」
彼方の身体は酷い有様だ。
右腕は刃物で切れ味よく切断され、左腕は爆発でグチャグチャ。どちらも筋肉や皮膚が辛うじてくっついているくらいで、骨が剥き出しになっているところもある。
「だが、これで神威を殺した。私の勝ちだ……」
そのとき、戦車がピピピと着信音を出す。
そして戦車近くの岩壁に勝手に映像を映し出した。あの研究所を背景にしてローチカと桜井さんが映っている。
「あれ、この戦車に通信機能あったっけ」
「これは録画の自動再生だ。彼女らは遺言代わりのビデオでここまでの真相と次回作への伏線を語る」
実際、映像の中でローチカが重々しく語る内容は彼方の記憶にあるものと一言一句違わなかった。
彼方たちが会ったローチカと桜井さんは元々の人格を生体印刷でコピーしたクローンであること。この世界にはオリジナルの人間はもうごく僅かしか残っていないこと。生体印刷された生命は数日程度しか生きられないこと。
生き続けるにはクローンからクローンを生体印刷するしかないが、生体印刷素材は彼方を印刷したもので最後だったこと。この映像が流れている頃にはローチカと桜井さんはもう死んでいること。
そして、クローンの寿命を伸ばす秘薬を戦車に積んでいること。
「これがトゥルーエンディングだ。生体印刷はまだ完璧な生命創造技術ではなかった。隣人たちが人間からクローン技術を奪取することに執拗にこだわったのも彼らの寿命の短さのためだ」
「薬ってこれかあ。で、私たちも生体印刷されてる以上は寿命が短いってことだよね」
立夏が戦車の中から小ぶりな薬瓶を持ってくるが、その手が手首から外れて地面にボトリと落ちた。
彼方の両腕が生々しく損傷しているのとは違う。パズルのパーツが外れるようにあっさりと脱落した。
「だからこそ、ここに科学者が研究成果として残した延命薬がある。この薬は遺伝子サイズの生体印刷機であり、細胞分裂の上限回数を定めるテロメアをミクロレベルで複製印刷する。これこそが隣人と人類の闘争を終わらせるキーアイテムであり、主人公の少女がこれを飲んで荒野に歩き出したところでエンディングとなる」
「あは、いかにも手頃な落としどころだね~。それって続編ではどうなるの?」
「誰も知らない。続編が出る前に開発会社が倒産したからだ。KSDの予想外のヒットで調子に乗ってハードウェア開発に乗り出した末の大赤字。資金繰りのさなかにKSDの著作権も売りに出され、結局誰の手に渡ったのかもわからず仕舞いさ」
「へ~。で、その薬飲まないと二人ともすぐ死にそうだけど、飲む?」
「飲むわけがない」
彼方は薬瓶を大穴の中に蹴り飛ばした。
薬瓶はすぐに見えなくなり、深い穴の中からは僅かに小動物が吠えるような風音が聞こえるばかりだ。
「私の目的は隣人の殲滅までだ。神威という裏ボスがいたとはいえ、当初の目的はこれでクリアした。だからこの世界はこれで終わりだ。世界を救う責任を続編まで負うつもりはない」
彼方の足元には既にあの虹色のボタンが出現している。茶色の地面に全く馴染まない、世界を全く意に介さない圧倒的な異物。
神威の汎将と同じ彼方自身の能力、終末器が。
「私の身体はもう死にかけだし、自壊をあえて拒まないのは消極的な自殺ではあるだろう。ファンタジスタ内を一度目、元現実世界を二度目とすれば、これでもう三度目だ。よく言うだろう、歴史は繰り返す。一度目は悲劇として、二度目は喜劇として」
「三度目以降は?」
「シュールギャグ」
彼方は足でボタンを踏みつけた。
周囲の天井と壁が一挙に崩落する。地面も、穴でさえも、何もかもが粒状の砂になってサラサラと流れ出していく。
隣人だとか生体印刷だとか、そんなものはもはや何も関係が無かった。それはこの世界ローカルの事情に過ぎないからだ。世界を貫く終末器は、世界を外側から勝手に終わらせる。内側の事情など何一つ考慮せず。
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