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第8章 いまいち燃えない私
第41話:いまいち燃えない私・5
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彼方は二本ある木刀の一つをイツキに向かって放り投げ、同時にローラーブレードを走らせる。
下半身では火花を散らしてドリフトしながら、上半身ではバットを構えるように大きく木刀をバックスイングして振りかぶった。
これはもはや剣技の範疇ではない。生半可な防御なら貫通して撲殺する全力のファーストアタック。もちろん手加減なしの本気だ。
「さあどうする!」
イツキの身体が跳ねた。
うずくまった状態から全身のバネで弾かれるように宙に浮く。彼方のフルスイングを避けながら放り投げられた木刀を空中でキャッチし、そして宙で縦にくるりと回って逆に切りかかってきた。
彼方は鮮やかなカウンターを柄で受け、そのまま木刀を地面に突き刺して力を逃がす。すぐに正面目がけて前蹴りを見舞うが、そこにイツキの姿は既にない。代わりにイツキの木刀が上方に弾き飛ばされた。
「良い判断だが、武器から手を放すのは大きなリスクだ」
彼方は地面に刺した木刀を軸にして、棒高跳びの要領で空中に足を跳ね上げた。
逆立ちした足先でイツキが手放した木刀を受け止める。そして太ももから腰にするりと流して手元に引き寄せる。
身体を直立に戻した頃には、彼方は木刀を両手の指先に握っていた。そのまま間髪入れずに最速で振り抜く。常人なら指先から剣がすっぽ抜けるが、素手でカボチャを粉砕する彼方の握力なら問題ない。リーチを伸ばした切りつけが左右からイツキに迫る。
イツキは慌てずに地面に転がっているオークの棍棒を掴んだ。
円を描くようにくるりと棍棒を回して木刀を弾く。軽いイツキの身体は重い棍棒から遠心力を受けて揺らぐが、それは武器に振り回されたおぼつかない足取りではない。武器の重量を扱いきれないことを前提として、その力を緩やかに誘導しているのだ。重力の助けを借りて木刀の威力を綺麗に相殺する。
「素晴らしい! 私は二刀の捌き方も重量武器の扱い方も教えていない。やはりあなたには才能がある、それも規格外の」
「私はそんなもの要りません!」
更に間合いが詰まり、彼方が最も得意な間合いへ、最近接戦闘へと移行する。
彼方は逆手で木刀を握って力任せに棍棒に叩き付けた。堅い木刀が真っ二つにへし折れ、流石のイツキも背中がのけぞる。
僅かなバランスの崩れで生まれた隙は、彼方が棍棒を蹴り飛ばすには十分だった。そのまま無防備になったイツキ目がけて折れた木刀を振り下ろす。
イツキが小さく息を吸った。そして叫ぶ。
「精霊よ!」
宙に燃える紅色の紋章が浮かぶ。
それは火の粉をまき散らして回転しながらイツキの右手の甲に重なり、人差し指の先端へと輝く光が集まっていく。
光る指先が彼方の木刀に深々と突き刺さった次の瞬間、木刀は芯まで燃え上がった。
炎が持ち手に届く前に彼方は木刀を手放していた。内側から燃やされた木刀は炭化を超えて塵と化し、地面に落ちる前にサラサラと風に溶けた。
「驚いた。エルフが扱えるのは水だけじゃないのか」
「私も今日まで知りませんでした。私たちエルフが使える魔法、それは精霊の助力を請うて遍く自然のマナを活性化する精霊術」
「ありがちな魔法設定は何でもいいが、やはり魔法だか精霊だかに殺傷能力があることはとても喜ばしい。存分に活かしてほしい」
残った木刀の先端でフェンシングのように突いて間合いを計る。
炎の魔法を見たことによって肉弾戦のリスクは一気に跳ね上がった。使用条件のようなものがあるかどうかは不明だが、とりあえず手の平で触られたら身体も燃尽する即死魔法だと思っておいた方がいい。この木刀も掴まれないように素早く刃先を動かして牽制しなければならない。
しかしイツキが既に闘争の世界に入門してしまっていることは彼方にとっては対処を容易にする要因でしかない。イツキから漂う敵意の流れが見えている。
どのように魔法を使うのかはわからなくても、どのタイミングでどの角度から叩こうとしているのかは手に取るようにわかる。いかに戦闘技能があれど読み合いにかけてはまだ初心者だ。
木刀を正中で振り下ろすように見せかけて、左腕を打ち付けて強引に軌道を押し曲げる。更に手首を返して横薙ぎに振るった一撃をイツキは地を這うように伏せて避けた。
地面に付いた手に今度は茶色い紋章が浮かぶ。
「!」
地面が盛り上がり、石弾がいくつも飛んでくる。
彼方の動体視力ならば撃ち落とすことは容易いが、この手の攪乱系の手札を持っている敵は厄介だ。
実際、防御に回した木刀がすぐに裏側から赤く光った。攪乱の隙に接近したイツキが火の魔法を発動し、またしても木刀が燃やされる。
「ここの貧相なドロップアイテムで手に負える相手ではないな。私も私の武器を使おう」
彼方はポケットから細長いボックスを取り出した。
これはビクトリノックスのマルチツールを桜井さんが戦闘用に魔改造したものだ。筆箱程度のサイズだが、中には大量の武器が詰まっている。
僅かに飛び出たトリガーを親指で弾くと、すぐにバネが解除されて小型のバタフライナイフが顔を出した。手首のスナップを効かせて振るった一閃をイツキは当然飛んで避けるが、これは囮だ。
ツール裏面に仕込まれたミニガンをイツキに差し向ける。弾丸は一発限り、至近距離で打っても貫通しない威力だが骨くらいは折れる。戦局を変えるには十分だ。
いくら簡易武器とはいえ火薬仕込みの銃弾、その速度はとても視認できるものではない。水の魔法では流せない、火の魔法でも燃やせない、土の魔法でも弾けない。
「さあ、これはどうする?」
下半身では火花を散らしてドリフトしながら、上半身ではバットを構えるように大きく木刀をバックスイングして振りかぶった。
これはもはや剣技の範疇ではない。生半可な防御なら貫通して撲殺する全力のファーストアタック。もちろん手加減なしの本気だ。
「さあどうする!」
イツキの身体が跳ねた。
うずくまった状態から全身のバネで弾かれるように宙に浮く。彼方のフルスイングを避けながら放り投げられた木刀を空中でキャッチし、そして宙で縦にくるりと回って逆に切りかかってきた。
彼方は鮮やかなカウンターを柄で受け、そのまま木刀を地面に突き刺して力を逃がす。すぐに正面目がけて前蹴りを見舞うが、そこにイツキの姿は既にない。代わりにイツキの木刀が上方に弾き飛ばされた。
「良い判断だが、武器から手を放すのは大きなリスクだ」
彼方は地面に刺した木刀を軸にして、棒高跳びの要領で空中に足を跳ね上げた。
逆立ちした足先でイツキが手放した木刀を受け止める。そして太ももから腰にするりと流して手元に引き寄せる。
身体を直立に戻した頃には、彼方は木刀を両手の指先に握っていた。そのまま間髪入れずに最速で振り抜く。常人なら指先から剣がすっぽ抜けるが、素手でカボチャを粉砕する彼方の握力なら問題ない。リーチを伸ばした切りつけが左右からイツキに迫る。
イツキは慌てずに地面に転がっているオークの棍棒を掴んだ。
円を描くようにくるりと棍棒を回して木刀を弾く。軽いイツキの身体は重い棍棒から遠心力を受けて揺らぐが、それは武器に振り回されたおぼつかない足取りではない。武器の重量を扱いきれないことを前提として、その力を緩やかに誘導しているのだ。重力の助けを借りて木刀の威力を綺麗に相殺する。
「素晴らしい! 私は二刀の捌き方も重量武器の扱い方も教えていない。やはりあなたには才能がある、それも規格外の」
「私はそんなもの要りません!」
更に間合いが詰まり、彼方が最も得意な間合いへ、最近接戦闘へと移行する。
彼方は逆手で木刀を握って力任せに棍棒に叩き付けた。堅い木刀が真っ二つにへし折れ、流石のイツキも背中がのけぞる。
僅かなバランスの崩れで生まれた隙は、彼方が棍棒を蹴り飛ばすには十分だった。そのまま無防備になったイツキ目がけて折れた木刀を振り下ろす。
イツキが小さく息を吸った。そして叫ぶ。
「精霊よ!」
宙に燃える紅色の紋章が浮かぶ。
それは火の粉をまき散らして回転しながらイツキの右手の甲に重なり、人差し指の先端へと輝く光が集まっていく。
光る指先が彼方の木刀に深々と突き刺さった次の瞬間、木刀は芯まで燃え上がった。
炎が持ち手に届く前に彼方は木刀を手放していた。内側から燃やされた木刀は炭化を超えて塵と化し、地面に落ちる前にサラサラと風に溶けた。
「驚いた。エルフが扱えるのは水だけじゃないのか」
「私も今日まで知りませんでした。私たちエルフが使える魔法、それは精霊の助力を請うて遍く自然のマナを活性化する精霊術」
「ありがちな魔法設定は何でもいいが、やはり魔法だか精霊だかに殺傷能力があることはとても喜ばしい。存分に活かしてほしい」
残った木刀の先端でフェンシングのように突いて間合いを計る。
炎の魔法を見たことによって肉弾戦のリスクは一気に跳ね上がった。使用条件のようなものがあるかどうかは不明だが、とりあえず手の平で触られたら身体も燃尽する即死魔法だと思っておいた方がいい。この木刀も掴まれないように素早く刃先を動かして牽制しなければならない。
しかしイツキが既に闘争の世界に入門してしまっていることは彼方にとっては対処を容易にする要因でしかない。イツキから漂う敵意の流れが見えている。
どのように魔法を使うのかはわからなくても、どのタイミングでどの角度から叩こうとしているのかは手に取るようにわかる。いかに戦闘技能があれど読み合いにかけてはまだ初心者だ。
木刀を正中で振り下ろすように見せかけて、左腕を打ち付けて強引に軌道を押し曲げる。更に手首を返して横薙ぎに振るった一撃をイツキは地を這うように伏せて避けた。
地面に付いた手に今度は茶色い紋章が浮かぶ。
「!」
地面が盛り上がり、石弾がいくつも飛んでくる。
彼方の動体視力ならば撃ち落とすことは容易いが、この手の攪乱系の手札を持っている敵は厄介だ。
実際、防御に回した木刀がすぐに裏側から赤く光った。攪乱の隙に接近したイツキが火の魔法を発動し、またしても木刀が燃やされる。
「ここの貧相なドロップアイテムで手に負える相手ではないな。私も私の武器を使おう」
彼方はポケットから細長いボックスを取り出した。
これはビクトリノックスのマルチツールを桜井さんが戦闘用に魔改造したものだ。筆箱程度のサイズだが、中には大量の武器が詰まっている。
僅かに飛び出たトリガーを親指で弾くと、すぐにバネが解除されて小型のバタフライナイフが顔を出した。手首のスナップを効かせて振るった一閃をイツキは当然飛んで避けるが、これは囮だ。
ツール裏面に仕込まれたミニガンをイツキに差し向ける。弾丸は一発限り、至近距離で打っても貫通しない威力だが骨くらいは折れる。戦局を変えるには十分だ。
いくら簡易武器とはいえ火薬仕込みの銃弾、その速度はとても視認できるものではない。水の魔法では流せない、火の魔法でも燃やせない、土の魔法でも弾けない。
「さあ、これはどうする?」
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