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第11章 鏖殺教室
第61話:鏖殺教室・6
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その少女は彼方や灰火と同じくらい独特な服装をしている。
一見すると屍術士に似た袖の長い衣装にも見えるが、金色の派手な装飾が目立っている。しかも身体のラインが出ている上に長い裾は大きく切り裂かれており、とても儀礼向きとは思えない。
少女はぼやきながらきょろきょろとあたりを見回していたが、レンラーラを見つけると肩を怒らせてずかずかと押し寄ってきた。
「むっ、汝が黄泉に穴を開けたか!」
「……えっと、はい……たぶん? ……あの……死者の方ですか?」
「ああん? 我はピンピンに生きてるあろが!」
「ひええ……ごめんなさい」
「ん? これ汝が出したやつ?」
少女は地面に落ちている黒い塊を細長い靴の先で突っついた。さきほど少女と一緒に出てきたものだ。
「はい……あの、たまに失敗して黒い塊が……」
「ほう、にわか降霊師かと思ったがなかなか才能あるな。これ失敗じゃなくて正しいあるよ。どこかで誰かが死んで、黄泉に行きつく頃には匿名になった塊がこれ。だからちゃんと黄泉にアクセス出来てる証拠あるな」
「あの……あなたは死の国から来ていて……死者でなければ……死神ですか?」
「ちゃうちゃう。死神だって死んだら無に還るのね。汝、降霊師の割には死の世界にはぜんぜん詳しくないな。いいか? 唯一何もない世界、それが死の世界の定義ある。黄泉、ヘルヘイム、ニライカナイ、リンボ。色々な呼ばれ方をしてるが、本物の死の世界は一つしかないのである」
「……でも、あなたは何もないはずの死の国にいたから門を通って出てきたのでは……?」
「我も本当に死の世界に落ちたら無になって消えてしまうゆえ、本当に歩くのは中じゃなくて縁なのね。空なる死の世界の縁を歩く、それが能力、我の能力。そしてそれ故に空集合近傍」
少女が手で大きく空中に円を描いた。その軌跡が虹色に光って寂れた墓場を閃光のように照らす。少女の動作には華があり、緩んでいた空気が一気に引き締まる。少女は光るポータルを親指で自慢げに指さした。
「今日もトコトコ歩いてたらいきなり足元に穴が開いて落っこちたのね。バランス崩したら死んでたある」
「へー、彼方も私もてっきり世界をワープするような能力かと思ってたけど、面倒な設定が色々あったんだね」
「死の世界だけはどの世界のどの座標にも繋がってるのである。いつどこにいようが、死んだやつは死の世界に向かって吸い込まれるからな。だから死の国の縁を通れば色々な世界に歩いて行けるのである……って、汝は汝でどちら様?」
「さっきまで君に踏まれてたんだけどね」
灰火はいつの間にか背後の墓石の上に腰かけていた。もう飛散した肉体を回収して元の姿に戻っている。地面に散らばった蛆虫もすっかり引っ込んでいた。
「それは失礼したな。しかし我が気付かないとは尋常じゃない影の薄さあるな」
「よく言われるよ。趙睡蓮ちゃん」
「あん? 我のこと知ってるか? 汝も貫存在か?」
「まーそーなのかもね。私が趙ちゃんを知ってるのは文字通り人伝いにって感じかな。彼方の記憶を少し読んだだけで、顔と名前くらいしか知らないけど」
「ああん? 汝、彼方の知り合いあるな?」
「あちゃー、会話の選択肢を間違えたか。あいつ基本敵しか作らないんだった」
「否否、我は彼方に恨みないあるよ。むしろ面白いやつと思ってある。どうせ彼方がまた全方位に喧嘩売りまくってるな?」
「そ。それでこの可愛い可愛いレンラーラちゃんが今回の被害者ってわけ。うーん、なんか話がトントン拍子で気持ち悪いな。まだ会話が五往復くらいしかしてないのにわりと正確に状況が把握されてるよーな。趙ちゃんって彼方と仲が良かった方かな」
「奴が脳筋単細胞って知ってるくらいにはな」
「それじゃこれも何かの縁ってことで、彼方を倒すのに協力してくれないかな。私もどっちかというと今彼方の敵サイドなんだよね、なんか話の流れでさ」
「別に構わんが、我は高いあるよ」
「あれ、対価を求めるタイプだった。大義とか信条が無くても暇潰しで戦ってくれる、私と似たタイプかと思ったんだけど」
「それは当たらずも遠からずであるが、我から遊び始めるならともかく、汝から頼まれるなら無償では受けられないのね」
「それなんか意味あるのかな。どうせ君も世界を移動できるなら、通貨なんてあってもなくても大して変わらないでしょ」
「貨幣の本質は目に見える実績なのね。働いた結果お金が溜まるんじゃなくて、働きの結果を決めるのがお金ある。それはどの世界でも変わらないある」
「ふーん、よくわからないけどまーいーや。ちなみに私は一銭も持ってないけど」
「元より汝に所持金など期待していないある。貫存在が適当にかき集めたお金なんてこっちから願い下げ。この世界の人生が蓄積したお金を出すのが重要なのね。だから払うのは汝」
趙がレンラーラを見る目は黄金色にキラキラ輝いていた。レンラーラの周囲を小走りに回って服を不躾に見定める。
「汝の家ってそこそこお金持ち? 結構いい服着てるが」
「……そこそこお金持ちだと思います……魔法学院も半分は私の家が出資していますし……」
「出資分ってどんくらいなのね? 年あたりで」
「……だいたい……金貨十枚分くらいですかね……」
「じゃあその十倍でどう」
「……わかりました。……彼方さんを倒せるなら……反対する人はいないと思いますが」
「確かにな。ま、いいってことな!」
趙がガッツポーズを取り、その上に灰火が投げやりに手を重ねた。
「それじゃ交渉成立ってことで。死の縁を歩く能力、死の門を開く能力、死に寄生する能力。陰キャ能力揃いの日陰者連合ってことで頑張っていこーね」
「我はエンターテイナーゆえ、そゆのは納得いかないあるな。もっと深淵な……影の黒幕的な……」
「じゃあ訂正、ミステリアス連合ってことで頑張っていこーね」
「それは悪くない響きあるなー」
「色々うるさい割にはけっこうちょろいね」
「汝もな!」
一見すると屍術士に似た袖の長い衣装にも見えるが、金色の派手な装飾が目立っている。しかも身体のラインが出ている上に長い裾は大きく切り裂かれており、とても儀礼向きとは思えない。
少女はぼやきながらきょろきょろとあたりを見回していたが、レンラーラを見つけると肩を怒らせてずかずかと押し寄ってきた。
「むっ、汝が黄泉に穴を開けたか!」
「……えっと、はい……たぶん? ……あの……死者の方ですか?」
「ああん? 我はピンピンに生きてるあろが!」
「ひええ……ごめんなさい」
「ん? これ汝が出したやつ?」
少女は地面に落ちている黒い塊を細長い靴の先で突っついた。さきほど少女と一緒に出てきたものだ。
「はい……あの、たまに失敗して黒い塊が……」
「ほう、にわか降霊師かと思ったがなかなか才能あるな。これ失敗じゃなくて正しいあるよ。どこかで誰かが死んで、黄泉に行きつく頃には匿名になった塊がこれ。だからちゃんと黄泉にアクセス出来てる証拠あるな」
「あの……あなたは死の国から来ていて……死者でなければ……死神ですか?」
「ちゃうちゃう。死神だって死んだら無に還るのね。汝、降霊師の割には死の世界にはぜんぜん詳しくないな。いいか? 唯一何もない世界、それが死の世界の定義ある。黄泉、ヘルヘイム、ニライカナイ、リンボ。色々な呼ばれ方をしてるが、本物の死の世界は一つしかないのである」
「……でも、あなたは何もないはずの死の国にいたから門を通って出てきたのでは……?」
「我も本当に死の世界に落ちたら無になって消えてしまうゆえ、本当に歩くのは中じゃなくて縁なのね。空なる死の世界の縁を歩く、それが能力、我の能力。そしてそれ故に空集合近傍」
少女が手で大きく空中に円を描いた。その軌跡が虹色に光って寂れた墓場を閃光のように照らす。少女の動作には華があり、緩んでいた空気が一気に引き締まる。少女は光るポータルを親指で自慢げに指さした。
「今日もトコトコ歩いてたらいきなり足元に穴が開いて落っこちたのね。バランス崩したら死んでたある」
「へー、彼方も私もてっきり世界をワープするような能力かと思ってたけど、面倒な設定が色々あったんだね」
「死の世界だけはどの世界のどの座標にも繋がってるのである。いつどこにいようが、死んだやつは死の世界に向かって吸い込まれるからな。だから死の国の縁を通れば色々な世界に歩いて行けるのである……って、汝は汝でどちら様?」
「さっきまで君に踏まれてたんだけどね」
灰火はいつの間にか背後の墓石の上に腰かけていた。もう飛散した肉体を回収して元の姿に戻っている。地面に散らばった蛆虫もすっかり引っ込んでいた。
「それは失礼したな。しかし我が気付かないとは尋常じゃない影の薄さあるな」
「よく言われるよ。趙睡蓮ちゃん」
「あん? 我のこと知ってるか? 汝も貫存在か?」
「まーそーなのかもね。私が趙ちゃんを知ってるのは文字通り人伝いにって感じかな。彼方の記憶を少し読んだだけで、顔と名前くらいしか知らないけど」
「ああん? 汝、彼方の知り合いあるな?」
「あちゃー、会話の選択肢を間違えたか。あいつ基本敵しか作らないんだった」
「否否、我は彼方に恨みないあるよ。むしろ面白いやつと思ってある。どうせ彼方がまた全方位に喧嘩売りまくってるな?」
「そ。それでこの可愛い可愛いレンラーラちゃんが今回の被害者ってわけ。うーん、なんか話がトントン拍子で気持ち悪いな。まだ会話が五往復くらいしかしてないのにわりと正確に状況が把握されてるよーな。趙ちゃんって彼方と仲が良かった方かな」
「奴が脳筋単細胞って知ってるくらいにはな」
「それじゃこれも何かの縁ってことで、彼方を倒すのに協力してくれないかな。私もどっちかというと今彼方の敵サイドなんだよね、なんか話の流れでさ」
「別に構わんが、我は高いあるよ」
「あれ、対価を求めるタイプだった。大義とか信条が無くても暇潰しで戦ってくれる、私と似たタイプかと思ったんだけど」
「それは当たらずも遠からずであるが、我から遊び始めるならともかく、汝から頼まれるなら無償では受けられないのね」
「それなんか意味あるのかな。どうせ君も世界を移動できるなら、通貨なんてあってもなくても大して変わらないでしょ」
「貨幣の本質は目に見える実績なのね。働いた結果お金が溜まるんじゃなくて、働きの結果を決めるのがお金ある。それはどの世界でも変わらないある」
「ふーん、よくわからないけどまーいーや。ちなみに私は一銭も持ってないけど」
「元より汝に所持金など期待していないある。貫存在が適当にかき集めたお金なんてこっちから願い下げ。この世界の人生が蓄積したお金を出すのが重要なのね。だから払うのは汝」
趙がレンラーラを見る目は黄金色にキラキラ輝いていた。レンラーラの周囲を小走りに回って服を不躾に見定める。
「汝の家ってそこそこお金持ち? 結構いい服着てるが」
「……そこそこお金持ちだと思います……魔法学院も半分は私の家が出資していますし……」
「出資分ってどんくらいなのね? 年あたりで」
「……だいたい……金貨十枚分くらいですかね……」
「じゃあその十倍でどう」
「……わかりました。……彼方さんを倒せるなら……反対する人はいないと思いますが」
「確かにな。ま、いいってことな!」
趙がガッツポーズを取り、その上に灰火が投げやりに手を重ねた。
「それじゃ交渉成立ってことで。死の縁を歩く能力、死の門を開く能力、死に寄生する能力。陰キャ能力揃いの日陰者連合ってことで頑張っていこーね」
「我はエンターテイナーゆえ、そゆのは納得いかないあるな。もっと深淵な……影の黒幕的な……」
「じゃあ訂正、ミステリアス連合ってことで頑張っていこーね」
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「色々うるさい割にはけっこうちょろいね」
「汝もな!」
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