ゲーミング自殺、16連射アルマゲドン

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第12章 よくわかる古典魔法

第65話:よくわかる古典魔法・4

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「君たちは驚くべき才能を発揮しているが、それはリトルリーグ選手にしては優秀というだけだ。貫存在トランセンドの水準には届いていない」

 彼方は宙を舞う双剣を逆手で掴んだ。
 レイの能力を真似た遠隔操作ではなく、氷膜を張った手でしっかりと握ってレイの制御下から無理矢理奪い取る。僅かに血が滲むが、硬化した氷を貫通するほどではない。
 明らかに今までと違う挙動を警戒したニースが口を開く。

「動かな……」
「動く!」

 彼方が大声で吠えた。ニースの呪文に被せて、あらん限りの気合いを込めて腹の底から叫ぶ。
 あまりの声量にパリラが耳を塞ぎ、木々の葉がビリビリと震えた。雄叫びに上書きされたニースの呪文は効果を発動する前に霧散する。

「ニース、君が使っているのは本来の言霊術ではない。ちょっとした威嚇能力のようなものだ。更なる威嚇で上からかき消せば無効にできる」

 そのままレイに向けて逆手で握った双剣を振り抜く。首筋を狙って何度目かわからない刃が迫る。
 パリラは一瞬だけ逡巡してから指先を振ることを決めた。何故かわからないが、この攻撃を通したら何かが不味い気がした。今この瞬間だけはルーチンを切り替えてレイを守らなければ取返しが付かないことが起こるという、正しい直観がパリラに結界術を使わせた。

「その判断は正しいが結果は変わらない。パリラ、君の能力も本物の結界術ではないからだ。単に透明な薄い壁を即興で作る能力に過ぎないし、その気になれば破壊できる」

 リバースグリップで握った双剣の柄を透明の防壁に叩き付ける。壁は硬化プラスチック程度の硬さしかない。彼方が本気で叩けば一撃で割れる。
 その隙にレイが新たな双剣を空中から引き出そうとするが、握り拳だけが宙に空振りする。

「あれ?」
「そしてレイ、君の能力も創造ではない。単なる転送だ。音楽室に置いてあった大量の双剣を遠隔で引き出して操っているのだろう。さっき魔導弓を校舎に突き刺したときに四階フロアごと凍らせた。だからもう次の双剣は出ない」

 彼方は双剣をサバイバルナイフのように振り抜いた。レイの首が両断される。
 これでレイを殺すのが何度目かもうわからないが、即座に白い羽が舞って時が戻る。飛んだ生首を空中で引き戻して修復しようとする。

「それももう覚えた。偽物だから」

 羽の上から粉雪が舞った。羽の暖かい光を塗り潰すように、凍て付く粉雪が降り積もる。
 そして一度は繋がったレイの首が再び宙に浮く。その瞬間、全員の集中がレイの動向に注がれたことを彼方は見逃さなかった。
 ツグミの時戻しは戦略の柱であるだけではなく精神的な支柱でもある。いくら戦闘の才能があったとしても、初めて間近に迫る死を前にして経験の浅い者たちが平静でいられるはずがない。死ですらも巻き戻して無効にする時戻しの発動が怪しくなったとすれば、大なり小なり動揺せずにはいられない。

「ここが急所」

 彼方の操る双剣が閃光のように飛んだ。時戻しの発動に気を取られ、防御が意識から離れたニースとパリラの首を落とす。
 一度崩れればあとは雪崩だ。二人の死亡に気付いたツグミが時戻しの術を乱し、白い羽は完全に粉雪に飲み込まれた。
 三姉妹の首は落ちた。そしてもう二度と戻らない。

「もう終わりだ。君が逆行させた時間を私がもう一度逆行させて順行にした。私がそれを出来てしまった以上、この局面から君が時間逆行で立て直せる可能性はもうない。あとは順行するだけだ。君たちの敗北という確実な未来に向かって」
「……私の時戻しをコピーしたんですか?」
「君は歩き方を真似されたくらいでコピー能力がどうとか言い出すのか? こんなものは手の振り方を真似るのと大差ない。だいたい、真の想像力に裏打ちされた本物の暴力であれば誰にも真似出来ないはずだ。翻って、君たちの能力はせいぜい省エネ術に過ぎない。頑張れば魔法無しでも出来ることを楽にこなすだけ」

 彼方はツグミの首に短剣を突き付けた。五対一でようやく拮抗していたというのに、一対一では勝負にならない。ここからツグミがどう動いても一手で殺せる。

! 世界を根本原理から改変し、それ故に他の誰にも模倣されないものでなければならない。それは世界を強制終了して逆創造する『終末器インデックス』であり、世界に敷いた鉄道で走り回る『次元鉄道エルライン』であり、世界の信仰をも便箋で操作する『世界便セグメント』であり、世界に開けたポータルで徘徊する『黄泉比良坂ファイセット』であり、そして世界を超えて他人の本質に寄生する『蛆刺しエッセンス』もそうだ。しかし君たちの能力には世界を変革する力が無い」

 彼方は失望を吐き出さずにはいられない。このゲームに期待を受け止められるプレイヤーはおらず、何を言っても粉雪のように無為に降り積もるばかりだと知りながら。

「例えばレイが真に創造者だったなら、それはこの世界には存在しない新事物エーリアンを作り出す能力だったはずだ。例えばニースが真に言霊使いだったなら、それは世界を言語化した法則を改変する能力だったはずだ。例えばパリラが真に結界術師だったなら、それは世界の空間座標を再定義する能力だったはずだ。だが、実際にはそうではない。レイが扱えるのはアイテムを手元に引き寄せる転送能力でしかなく、ニースが扱えるのは相手を怯ませる威嚇能力でしかなく、パリラが扱えるのは一時的に壁を作り出す防衛能力でしかない」
「私の時戻しも?」
「そうだ。真の時間操作は世界にただ一つだけ存在する本物の時間軸に干渉する。世界全てがロールバックし、術者以外は時が戻ったことにさえ気付けない。しかし君の能力はちょっとした物理操作に過ぎない。誰にでも認識可能で、何度か見れば真似できてしまう程度のものだ。だからもう殺す。他に何か手はあるか?」
「確かに私は殺されるかもしれません。ですがこれは最初からチーム戦です。私たちはチームです。誰かがあなたを殺せば私たちの勝利です」
「知ってる。私の想定を出ないのは、チームとしての覚悟でさえもそうだから」

 彼方は剣先を一閃した。ツグミの首が落ちる。そして短剣を上に向けて地面に突き立て、踵を返して正門に向けて歩き出す。
 次の瞬間、背後で隕石が落下したような爆音が響いた。

「ツグミが殺された瞬間、ツバメは時間飛ばしの能力を発現する。三秒ほど自分の時間を飛ばして移動する最高峰の奇襲能力だ。加えて姿勢を制御するための補助翼を全て自切し、私に相討ち狙いの攻撃を仕掛ける。だから落下地点に剣を立てておいた」

 背後ではツバメの身体が左右に両断されて地面に転がっていたが、彼方はもう振り向きもしない。
 軽く溜め息を吐き、正門に向かって歩を進める。自分の勝利条件を満たすために。

「決死の覚悟でさえも私には見飽きたものでしかない。私は数多の世界を渡る中でツバメとも何度も戦った。君個人にとってはこれが一世一代の賭けだとして、ツバメという個体群にとってはむしろ予定調和だ」

 その歩みは少し前に広場に降り立ったときの歩みとは似ても似つかない。肩を落とし、ぼんやりと自省しながらだらだらと歩く。当初の緊張感はもう身体のどこにも残っていなかった。

「全く、安っぽい能力バトルを戦ってしまった。ここはブックオフの百円コーナーか? 日に焼けて脱色した薄っぺらいライトノベルじゃあないんだぜ」

 もはや道を迂回する気力すらない。氷結魔法で噴水を固めてアーチ状の階段を作り、広場の中央をゆっくりと踏破する。
 そして噴水の頂上で足を止めた。最後に門から現れた生徒を睥睨する。

「遅刻だな。アリア、レイ、ニース、パリラ、ツグミ、ツバメはもう死んだ。六人殺して残りは君一人だ、レンラーラ」
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