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第1章 リーベウィッチ麗華ちゃん
第4話:リーベウィッチ麗華ちゃん・3
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「じゃあ、魔獣については本当に全くさっぱり心当たりがないというわけだね?」
「そう。魔神機のコアがいきなり起動して……見せた方が早いか」
並んで歩きながら、芽愛が自分の両手を左右から互い違いに重ねた。
そして十本の長い指をこすり合わせるように手掌を大きく捩じる。それぞれ百八十度ずつ捻って手掌の向きを逆転させる。たっぷり力を込めた両手を離すと、手の平の隙間には赤黒く光るダイヤ型の結晶が浮いていた。
「覚えてるでしょ?」
「ああ、懐かしいね」
幹部が持つ魔法兵器、その中核にあるコア。
このコアを媒介にして先ほどの戦闘形態が召喚されるのだ。幹部によって機体がそれぞれ異なり、ドールマスターが所有するのは天使型魔神機「ゴッドドール」である。
七年前、魔神機とは魔法少女が持つ魔法のステッキと対応する敵側の最大戦力だった。幹部がコアが出現させた瞬間、一気に巨大兵器との熾烈な戦闘に突入する。
しかし、今は昨日買ったアクセサリでも見せるかのように道端でなんとなく披露されている。どことなく漂うシュールさというか、記憶が痒みを訴えるような場違い感に軽く目を瞑る。
「レーダーが光ってたから、追って来たら魔獣が暴れてたって感じ」
芽愛の方は平然として浮かぶコアを指先で軽く弾いた。
途端にコアが縦にぎゅっと潰れたかと思うと、薄い真ん丸のプレート状に広がった。その中央には白い十字が引かれ、細いグリッドが縦横にうっすらと刻まれている。
このモニターに映っているのは目盛りだけだ。それ以外には何もない。
「今は何も映ってないみたいだけれど。元々このレーダーが探知できるものは何かな」
「魔獣と魔神機だけ。私のゴッドドールは戦闘特化だからレーダーの性能はあんま良くない、範囲もこの市内くらい」
「身近な脅威を知る分にはそれで十分だ。つまり今この市内に他の魔獣はいないし魔神機も起動していないということになるね、とりあえずは安心だ。他に悪の組織からの連絡とかは?」
「ないない、もう壊滅してるから」
「でも元メンバーはたくさんいるだろう?」
「それもない、というかこの七年で一度もない。ほら、悪の組織って男所帯だったでしょ。私はわざわざプライベートってどうこうって感じじゃない。皆いい人ではあったけど」
「君一人が距離を置いているだけなら、気の合う悪い男たちがまた集まって悪巧みしていてもおかしくはないんじゃないかな」
「魔法少女は知らないんだっけ、幹部以外は皆その辺の人だって。全員ボスがお金で雇ってただけ、ただのお仕事」
「えっ、マジで」
「マジで。魔神機を持ってるのだって幹部だけだから、他のメンバーが戦うことなんてなかったでしょ。他はまあ電気工事屋とか劇団員とか、何でも屋とか」
「それは裏社会の何でも屋的な?」
「……この町にはそんなのいないって。ほら、たまに電柱にチラシとか貼ってある。網戸の掃除とか、引っ越しの手伝いとか、エアコンの修理とかしてくれる人たち」
「ああ知りたくなかったな、その裏側は……」
「勝手に期待されてもね」
芽愛はレーダーを上下から手で挟んで押し潰した。そしてまた両手の平を百八十度ずつ大きく捻ってこすり合わせると、コアはそのまま消えてしまった。
手をパンと軽く払ってから、そっぽを向いて切り出した。
「そっちこそ、魔法少女は今どうなってるの?」
「こっちも似たようなものさ。小学校は同じだったけれど、中学からバラバラになってそれきりだ。最後に会ったのが中一の秋だったかな。そうなると五年少しは顔を合わせていないことになるか」
「あんなに仲良く戦ってたのに。ああ見えて意外とドライな関係?」
「そんなことはないけれどもね、お泊まり会とかもしたし。うーんでも、一生の友達という感じでもなかったのだろうな。ほら、子供って近くにいる子と仲良くなるだけで、仲良くなるためにわざわざ近付くわけでもないじゃないか? 身近に他の友達がいるのに、わざわざ別の学校の友達とそうそう遊ばないというか」
「そんなもの? 実はけっこう羨ましいと思ってたんだけど。同じ年ごろの女の子同士で」
「まあねえ、芽愛は友達が全然いなかったのだろうし」
「なっ! ……ん、で、そう、思うわけ?」
「だってさ、一緒に遊ぶ友達がいたら貴重な高校生の夏休みに悪の組織の幹部なんてやるわけないから」
「うあっ!」
悲鳴を上げた芽愛の全身が硬直した。歩いている最中にいきなりフリーズしたものだから、曲げた右足が地面を掴むことに失敗して身体が傾く。
素早く動いた手がブラウスの下に潜り込んだ。そのままぐっと引き寄せ、体温が上がった身体を優しく抱き留める。顔に触れる髪を指で丸めながら耳元で囁いた。
「ごめんごめん、別に意地悪を言うつもりはなかったんだ。それに、幹部をやっていた君はマイペースで孤高な感じがすごく格好よかったよ。いや皮肉じゃなくて、本当に、心から。もし私がクラスメイトだったら絶対に放っておかなかったのにね、こんなに綺麗な子は毎朝でも遊びに誘うさ。周りの連中はさっぱり見る目なしだ」
「彼女がいるのにそんな口説き文句言っていいわけ?」
「愛に出来ないことは無いんだぜ。そもそも……」
そのとき大きな着信音が麗華の言葉を遮った。やけに明るく大きな声の歌。毎週日曜朝に放送している、魔法少女アニメのテーマソングだ。
おっとごめんね、と一言入れて麗華は自分のスマホを耳に当てた。今帰り、ああうん近くにいる、そうそう、と一通り話してから数十秒で芽愛に向き直った。
「近くにいるらしいから、ちょっとタッチして帰ってもいいかな」
「誰に?」
「彼女に。顔を見せるだけだから」
「まあいいけど……」
芽愛は乱れた髪を軽く撫でた。
「そう。魔神機のコアがいきなり起動して……見せた方が早いか」
並んで歩きながら、芽愛が自分の両手を左右から互い違いに重ねた。
そして十本の長い指をこすり合わせるように手掌を大きく捩じる。それぞれ百八十度ずつ捻って手掌の向きを逆転させる。たっぷり力を込めた両手を離すと、手の平の隙間には赤黒く光るダイヤ型の結晶が浮いていた。
「覚えてるでしょ?」
「ああ、懐かしいね」
幹部が持つ魔法兵器、その中核にあるコア。
このコアを媒介にして先ほどの戦闘形態が召喚されるのだ。幹部によって機体がそれぞれ異なり、ドールマスターが所有するのは天使型魔神機「ゴッドドール」である。
七年前、魔神機とは魔法少女が持つ魔法のステッキと対応する敵側の最大戦力だった。幹部がコアが出現させた瞬間、一気に巨大兵器との熾烈な戦闘に突入する。
しかし、今は昨日買ったアクセサリでも見せるかのように道端でなんとなく披露されている。どことなく漂うシュールさというか、記憶が痒みを訴えるような場違い感に軽く目を瞑る。
「レーダーが光ってたから、追って来たら魔獣が暴れてたって感じ」
芽愛の方は平然として浮かぶコアを指先で軽く弾いた。
途端にコアが縦にぎゅっと潰れたかと思うと、薄い真ん丸のプレート状に広がった。その中央には白い十字が引かれ、細いグリッドが縦横にうっすらと刻まれている。
このモニターに映っているのは目盛りだけだ。それ以外には何もない。
「今は何も映ってないみたいだけれど。元々このレーダーが探知できるものは何かな」
「魔獣と魔神機だけ。私のゴッドドールは戦闘特化だからレーダーの性能はあんま良くない、範囲もこの市内くらい」
「身近な脅威を知る分にはそれで十分だ。つまり今この市内に他の魔獣はいないし魔神機も起動していないということになるね、とりあえずは安心だ。他に悪の組織からの連絡とかは?」
「ないない、もう壊滅してるから」
「でも元メンバーはたくさんいるだろう?」
「それもない、というかこの七年で一度もない。ほら、悪の組織って男所帯だったでしょ。私はわざわざプライベートってどうこうって感じじゃない。皆いい人ではあったけど」
「君一人が距離を置いているだけなら、気の合う悪い男たちがまた集まって悪巧みしていてもおかしくはないんじゃないかな」
「魔法少女は知らないんだっけ、幹部以外は皆その辺の人だって。全員ボスがお金で雇ってただけ、ただのお仕事」
「えっ、マジで」
「マジで。魔神機を持ってるのだって幹部だけだから、他のメンバーが戦うことなんてなかったでしょ。他はまあ電気工事屋とか劇団員とか、何でも屋とか」
「それは裏社会の何でも屋的な?」
「……この町にはそんなのいないって。ほら、たまに電柱にチラシとか貼ってある。網戸の掃除とか、引っ越しの手伝いとか、エアコンの修理とかしてくれる人たち」
「ああ知りたくなかったな、その裏側は……」
「勝手に期待されてもね」
芽愛はレーダーを上下から手で挟んで押し潰した。そしてまた両手の平を百八十度ずつ大きく捻ってこすり合わせると、コアはそのまま消えてしまった。
手をパンと軽く払ってから、そっぽを向いて切り出した。
「そっちこそ、魔法少女は今どうなってるの?」
「こっちも似たようなものさ。小学校は同じだったけれど、中学からバラバラになってそれきりだ。最後に会ったのが中一の秋だったかな。そうなると五年少しは顔を合わせていないことになるか」
「あんなに仲良く戦ってたのに。ああ見えて意外とドライな関係?」
「そんなことはないけれどもね、お泊まり会とかもしたし。うーんでも、一生の友達という感じでもなかったのだろうな。ほら、子供って近くにいる子と仲良くなるだけで、仲良くなるためにわざわざ近付くわけでもないじゃないか? 身近に他の友達がいるのに、わざわざ別の学校の友達とそうそう遊ばないというか」
「そんなもの? 実はけっこう羨ましいと思ってたんだけど。同じ年ごろの女の子同士で」
「まあねえ、芽愛は友達が全然いなかったのだろうし」
「なっ! ……ん、で、そう、思うわけ?」
「だってさ、一緒に遊ぶ友達がいたら貴重な高校生の夏休みに悪の組織の幹部なんてやるわけないから」
「うあっ!」
悲鳴を上げた芽愛の全身が硬直した。歩いている最中にいきなりフリーズしたものだから、曲げた右足が地面を掴むことに失敗して身体が傾く。
素早く動いた手がブラウスの下に潜り込んだ。そのままぐっと引き寄せ、体温が上がった身体を優しく抱き留める。顔に触れる髪を指で丸めながら耳元で囁いた。
「ごめんごめん、別に意地悪を言うつもりはなかったんだ。それに、幹部をやっていた君はマイペースで孤高な感じがすごく格好よかったよ。いや皮肉じゃなくて、本当に、心から。もし私がクラスメイトだったら絶対に放っておかなかったのにね、こんなに綺麗な子は毎朝でも遊びに誘うさ。周りの連中はさっぱり見る目なしだ」
「彼女がいるのにそんな口説き文句言っていいわけ?」
「愛に出来ないことは無いんだぜ。そもそも……」
そのとき大きな着信音が麗華の言葉を遮った。やけに明るく大きな声の歌。毎週日曜朝に放送している、魔法少女アニメのテーマソングだ。
おっとごめんね、と一言入れて麗華は自分のスマホを耳に当てた。今帰り、ああうん近くにいる、そうそう、と一通り話してから数十秒で芽愛に向き直った。
「近くにいるらしいから、ちょっとタッチして帰ってもいいかな」
「誰に?」
「彼女に。顔を見せるだけだから」
「まあいいけど……」
芽愛は乱れた髪を軽く撫でた。
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