魔法少女七周忌♡うるかリユニオン

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第1章 リーベウィッチ麗華ちゃん

第5話:リーベウィッチ麗華ちゃん・4

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 住宅街にあるにしては、そこそこ大きな公園だった。
 高い木々が並んでいるが園内の見通しは良い。いくつかの広場が平坦な道で結ばれ、バスケットゴールやアスレチックなど大小様々な遊具が並ぶ様子が一望できる。
 二人並んで歩きながら、芽愛はパンダの遊具を撫でた。上に乗ると大きなバネで揺れるやつだ。
 パンダは頷くようにほんの僅かに前後して応じる。今は黒い塗装がハゲてきて白い猫になりつつあるが、七年前にはもっとチャーミングな姿だったのだろう。

「ここで待ち合わせ?」
「そうだね。もうどこかにはいるだろうし、待っていればすぐ会える」

 出入り口に近いベンチに座り、子供たちが遊ぶ平和な光景を見やる。
 汗だくで走り回ったり、大木の下に集まって喋ったり、ベンチでゲーム機やスマホを向け合ったり。たくさんの声が重なって充満し、開けた場所だというのに密封されているように響き続ける。まるで公園そのものが途切れない声を発しているようにも聞こえた。

「どんな感じの人? 年上?」
「可愛らしい感じの。年下だね」
「年下好きなの?」
「とても難しい質問だけども……私がそう見えるのは間違いないかな、平均的には」
「そう……」

 不意に電子音声の童謡が流れ始めた。
 公園の中心に君臨する、一際背の高いスピーカーが歌い出したのだ。気が抜けて眠くなる子守歌のような音声が子供たちの声を上書きしていく。
 向かい合って立ち話をしていた子供たちは時計台を一度見上げてから身体の向きを変えた。一方、走り回る集団が足を止めることはない。このゲームがひと段落したら家路につくのか、それとも親が叱りに来るまで遊び続けるのか。
 その中で、芽愛の目を捉えたのは一際華やかな女子小学生の一団だった。三人組のグループだ。
 それぞれが年相応なお洒落を纏い、口を開くたびに表情がくるくると変わる。後ろを向いて歩いてみたり、スキップのように足を浮かせたり。
 市松模様とレースの模様が印刷されたシャツ、スリット風の差し色が入った長いスカート、少し安っぽいが子供にしてはフォーマルなモノクロスニーカー。

「……」

 芽愛の脳裏に生暖かい手触りが不意にフラッシュバックした。その根っこを辿るとすぐに七年前の記憶がリンクする。
 同性で同世代の友達が三人連れ立って友達同士で楽しそう。手を伸ばせば手に入るような気もするし、どこまでも逃げていってしまうような気もする。大木に引っかかった風船を見ているようなセピア色のもどかしい憧憬。
 いくら魔法少女たちが羨ましくても、七年前の芽愛は仲間に入れてもらえる年齢でも立場でもない。それぞれにそれぞれのやるべきことがあり、戦うことでしか触れ合えなかった。少なくとも当時は。

「あっ!」

 女子小学生三人組のうち、先頭にいた一人が不意にこちらを指さした。後ろを振り返るが誰もおらず、向き直ったときには麗華がベンチから立ち上がっていた。
 走り寄ってくるのは茶色がかった髪を花柄のヘアピンで止めた女の子。その足取りに合わせ、麗華は地面にしゃがんで両手を広げた。

「お姉ちゃん! 今日はごめんねー、さっきまでママと一緒に買い物行っててさ」
「気にしないで、家族は大事だから。私も今日は古い友達と会えたし良い日になったよ」
「何それ、私と会えなくて良かったみたいな」
「はは、ごめんって。ほらおいで」
「もう」

 頬を膨らませる少女の汗に濡れた髪を絹のハンカチで柔らかく撫でる。そしてそのまま両手を回して細い腰を抱きしめる。

「あーっ、ずるい!」

 その後ろから別の女の子が大声を上げる。
 薄く色味がかった丸く大きなサングラスをかけた、特にませている感じの子供だ。髪も一部だけを編んで流すという高級な技を使っている。

「ずるいというのは良くないね。この世でも数少ない、奪い合ってもなくならないものなのだから」
「愛があれば何でもできるってやつ?」
「そうそう。順番にね」

 また麗華が手を伸ばし、ませた女の子も視線を合わせて抱き締められると満足気な表情で頷く。
 三人目のぽややんとした女の子にもハグをしたあたりで、童謡の最後の一節が終わった。公園に伸びる影はもう高いスピーカーまで覆いつつあった。

「気を付けて帰るのだよ。寄り道はしないようにね。お母様にもよろしく」
「心配しすぎー」

 女子小学生たちは皆揃って手を振って走っていく。公園を出て大通りへの道を曲がっていき、姿が見えなくなったところで麗華はようやく立ち上がった。

「待たせて悪かったね。用事も済んだことだし、私たちも帰ろう」
「えっ……」

 立ち上がりかけた芽愛の腰が止まる。

「あの、誤解かもしれないけど」
「何かな」
「ひょっとして、今のが彼女?」
「そうだが」
「小学生が?」
「そうだが」
「三人も?」
「そうだが。他にも七人いる」
「いやそれって……いや……」
「何か問題があるかね? 条例を遵守して十八歳になるまでは手を出さないことにしているし、彼女たちの親御さんにもきちんと了承を取っている。公園で一緒に遊んであげて、後日お付き合いさせて頂いておりますと手土産を持参する。それで遊んでもらって良かったわねお願いしますね、ってなものさ」

 麗華はくるりと回って後ろに手を組み、小学生がしていたように後ろ歩きで芽愛の目を捉える。逆向きに先導されて芽愛の足も麗華を追う。

「もしかして、麗華って実はかなり怪しい人?」
「怪しいかどうかは見方による問題だろうね。しかしその点、私はどこからどう見てもとても見目麗しいという強力な反論材料がある」
「それを自分で言うのは怪しい要素ではなく?」
「重要なことだぜ。人並外れて整った顔立ちはもちろん、髪はいつでも長く艶やかに、そして清潔感があり露出の少ない服装を季節に合わせて五セットずつは用意しておく。暑い中で甘ったるい匂いだと鬱陶しいから、今は森の最奥にポップした泉のように爽やかなミントの匂いがしているはずだ。全体的にはカワイイとカッコイイとキレイを二対三対五くらいでコントロールしている」
「まあ、美形だとは思うけど」
「それだけじゃない。迷いなく人を助けて笑顔を絶やさず、落ち着いた立ち振る舞いには安心感がある。高校では地域奉仕部に所属し、内申点稼ぎではなく休日も熱心に活動しているのは私一人くらいのものだ。ボランティアや児童館には積極的に出向き、特に小学生と接触できるイベントは皆勤賞だ。保護者の皆さんからは面白優しいしっかり者子供好き信頼できる美人お姉さんとして認知されているからこそ、公園で小学生に混ざっても歓迎されるというわけさ」
「情報が増えれば増えるほど怪しくなっていってない?」
「言葉で語れば異様でも、態度で示せば好感しかないよ。とはいえ一番のポイントは、幼少期から積み立てている信頼だろうけどね。君もよく知っているように」
「なんか知ってたっけ」
「私は魔法少女をやっていたということだよ」
「それって皆知ってるの?」
「この辺じゃ有名だ。幹部は違うのかな?」
「ないって。人前に出るときは仮面付けてたでしょ。あれに迷彩みたいな効果があって、見られただけじゃ特定されないようになってた」
「なるほど。魔法少女には通じなかったが、幹部の仮面にはそんな効果があったのか。幹部は顔が割れるとヤバいだろうしね」
「ネームバリューを使って小学生を絆してる元魔法少女の方がヤバくない?」
「ヤバくない愛なんて愛じゃないよ、愛があれば何でもできるんだから。そして私は元マジカルレッドだぜ。愛と情熱と愛と愛と愛と愛の」
「多い多い」
「ま、とりあえずは招待するよ。私の愛溢れる住処に」

 麗華が立ち止まって両腕を広げた。公園の正面にある、大きな一軒家の前で。
 実に模範的な二階建てだった。まるで広告の写真からそのまま取ってきたような。どこかで見たことのある要素だけで構成された、最大公約数のファミリーハウス。
 全てが原寸大のフィギュアを置いたように出来合いの物に見えた。大きな赤レンガが映える三角屋根も、車が止まっていないひさし付きの車庫も、赤く磨かれた郵便受けも、玄関前に置かれたスイートピーとペチュニアの鉢植えも。リアル志向で作ろうとしたが、ありきたりな材料しか使わなかったせいで個性の見えない下手なジオラマというか。
 麗華が親指を弾く。赤いハートのキーホルダーが付いた鍵が高く宙を舞う。放物線の頂点で、沈む日が最後に残した光を反射した。
 腕を大きく回して鍵をキャッチし、そのまま扉に差し込んで振り向く。

「出てくる頃には、私たちも仲良くなれているといいね?」
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