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第2章 街角朱雀
第10話:街角朱雀・3
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Nモールまでは十五分くらいで着いた。
安っぽい青白ストライプのビニール屋根、その下で折り畳み日傘を畳む。日陰で出来た細長い道の前方で若い夫婦が大きなベビーカーを押していた。
大きな青空駐車場には入場バーも清算機もない。利用者や近隣住民に無料開放されているのだ。優に百台くらいは収容できそうな広い敷地は半分くらい埋まり、ほとんどの車が同じ地名のナンバープレートを付けていた。
立てた片手で目に小さなひさしを作り、大きなNモールを駐車場から見上げた。
相変わらず、三階建ての右半分には海のように濃い青色のブルーシートがかかっていた。僅かな風を捕まえてはゆったりと大らかに波打っている。よく見れば風化を示す茶色い線が蟻の巣のようにあちこち伸び、端に空いた穴からはざらついた鉄骨が見え隠れしていた。
「ここに来るのもしばらくぶりだな」
Nモールは麗華が生まれる前から営業している古参の複合商業施設だ。
それが大掛かりな改装工事を始めたのはおよそ六年半前、つまり魔法の騒動が終わってから半年ほど経ったときのことだった。
ひと夏の騒動が終わった直後、魔法少女の噂を聞き付けた人々がこぞって星桜市まで足を運んだ時期があった。騒動の最中には警察の方針で報道が切られていたが、秋になってようやくネットを介して噂が広がり始めたのだ。
人が来れば金が落ち、自然と町全体の景気が上向いてくる。それで浮足立った町内会はこの機に乗じて町興しをしようと頭を捻ったが、しかし冷静に検討してみると、噂以外の観光資源は何もないことに気付く。
なにせ、もう魔法の夏は終わってしまったあとなのだ。それはもう、完全に。
あの夏には見飽きるほど見た、喋るオコジョとか、戦う小学生とか、魔法の機械とか、薄く光る植物とか。そういう不思議でファンタジーな出来事はもう何一つ残っていなかった。
魔法少女のグッズを作ろうにも、ただの小学生に戻った子供たちを引っ張り出すのはよろしくない。悪の組織が建物を破壊した痕跡だけはあちこちに残っているが、それは観光資源というよりは復興事業の対象だった。
そんなわけで、あの夏の余韻は半年も経たずに鎮静化した。
このNモールも好景気に乗じて見切り発車で大規模修繕を始めたはいいが、すぐに出店する店舗の都合が付かなくなった。計画は宙ぶらりんのまま放置され、見た目はそのままで工事がストップ。更には駅の反対口にもう二回りほど大きな大資本のショッピングセンターが立ったのがとどめとなり、今では地元住民が細々と使う施設へと落ち着いた。
濁った透明プラスチックの自動ドアを通って中に入る。左右で開くタイミングにラグがあり、開き切ったところでギギッと軋む音がした。
「やあ久しぶり、店長」
「こんにちは。どうだい、夏休みの調子は」
たっぷりある白髪を後ろに撫で付けた老人が麗華をニコニコ笑顔で出迎えた。
年齢の割には体格が良く、カジュアルなジャケット姿で胸にロケットペンダントを付けているあたりが洒脱な好々爺だ。まるで銭湯の番台のようにいつも出入口近くの案内カウンターで待機していて、地元では店長と呼ばれて親しまれていた。
店長は改修工事が頓挫したタイミングでNモールの責任者に就任した。ただ実際のところは単なる雇われ店長ではなく、立て直しに失敗して借金塗れになった前事業主に代わってNモールそのものを買い取った割とすごい人らしい。人件費削減と老後の趣味を兼ねて自ら店頭に立っているという噂である。
「私の夏休みはかなり順調だぜ。このままいけば最高の夏を更新する見込みだよ」
「そりゃあ良かった。最近見ないから心配でねえ」
「一人徒歩で足を運ぶにはちょっと遠くてね、いずれ結婚でもした暁には贔屓にさせてもらうから」
「はは、楽しみにしておくよ。それなら今日の要件はお買い物ってわけでもなさそうだね」
「まあそんな感じだ、悪いけれども。聞きたいのは、今日はイベントか何かをやっていたのだったかな?」
「夏休みはほとんど毎日やってるよ。どうぞ」
店長はピッとキレのある動きでカウンターに置かれたチラシを差しだしてきた。
カラフルなカレンダーには七月と八月の予定がびっしり書き込まれている。工作教室や朝顔の育て方など、夏休み中の小学生を狙い打ったイベントがほとんどだ。
店長が引き継いでから、Nモールのコンセプトは地元密着型にシフトした。近隣に暮らす家族、特に小学生以下の親子連れをメインターゲットに定めている。夏休みにイベントを開催しているのもその一貫。自由研究のサポートやお金のかからない思い出作りにNモールは打ってつけというわけだ。
しかし今日に限ってはもう少し対象層の高そうな、毛色の違うイベントがカレンダーのマスを占めていた。
「今日は屋上でライブだね。ちょうどさっき始まったくらいかな」
「そうそう。若い衆がやりたいって言ってたやつだね」
今日のマスに書いてあるのは「アイドルライブイベント」だ。
しかしライブといっても、テレビに出るアイドルを呼び寄せるような立派な興行ではない。呼ぶのは市内で活動する御当地アイドル、だから予約もチケットもない小規模な無料イベントだ。
このイベントに限ったことでもないが、Nモールのイベント参加費は無料か、材料費程度のごく安価であることが多い。全く採算が取れていなさそうなNモールが営業を続けられている理由は謎だが、市から多額の助成金を受けているとも、金持ちの店長が私財を投じた道楽とも噂されていた。
「店長、念のために館内放送はいつでもできるようにしておいた方がいいよ。何かあるかもしれない。これは元魔法少女として言ってる、色々あってさ」
「そう、麗華ちゃんが言うならそうしとこうかね」
「助かるよ。ありがとう」
麗華は手をひらひら振って、型の古い蛍光灯が照らす館内へと踏み出した。
だいぶ久しぶりに来たが、建物の老朽化は進む一方のようだ。壁紙や天井がうっすらと黄ばみ、亀裂のような染みもあちこちに走っている。壁紙だけの劣化ならいいが、コンクリートとか鉄骨は大丈夫なのだろうか。
あるいはもしかしたら、以前からこんなものだったのかもしれない。この建物は数十年選手のはずで、ここ数年でそう一気に劣化が進むわけでもないだろう。子供の頃はそういうものとして気にならなかった建物のぼろさが、この年齢になって改めてまじまじ見ると目につくだけなのかもしれない。
中学生の頃は義両親と一緒に何度かNモールを訪れていて、店長と顔見知りになったのもそのときだ。しかし一人暮らしを始めてからはもっと家に近い小さなスーパーを利用するようになり、ここにはめっきり来なくなった。義両親と来たときは一階で食品を買って帰るだけだったので、二階より上のフロアに足を踏み入れるのは小学生以来だ。
案の定、食品類を扱う一階に比べ、二階では人通りはまばらになってくる。
半分以上のテナントにはシャッターが下りているが、しかし逆に効率化の結果なのか、いくつもの区画を横断して靴や古着や文房具や雑貨を無秩序に売る店が君臨していた。
「おお、懐かしいな」
三階から屋上に向かうエスカレーターのすぐ近く、ゲームコーナーの前で足を止めた。
七年前、Nモールの大規模修繕が始まるよりも前。このゲームコーナーには魔法少女たちでよく遊びに来たものだ。
一人では遠出も出来ない小学生にとっては手頃で楽しい遊び場だった。魔獣退治の後にアイスバーを食べたりエアホッケーで遊んだり。
しかし今見ると、あまりの安っぽさになんだか爪先が落ち着かない。
ぽつぽつ置かれている古い機種のプリクラやメダルゲーム。一番奥にはすっかり塗装の禿げたアンパンマンが揺れている。
コーナー全体にループしている、ビープ音を組み合わせたような電子音があまりにもチープで空々しい。サウンドの一つ一つが乾いたフロアに弾かれて行き場なく霧散するばかり。
だが、このコーナーの有様が当時と全く変わっていないことは自信を持って言える。当時に何百回と聞いたBGMの音階は両耳の間あたりに染み付いている。
改めて感銘とも困惑とも付かない曖昧な郷愁に首が傾く。
七年経っても変わらないゲームコーナーが却って自分の無自覚な変容を突き付けてきていた。同じものを見たり聞いたりしても年齢が上がれば感じる手触りは全く違ってくる、そんな当たり前の事実を再認識する。
「ま、いつまでも懐かしんではいられないけども」
少し後ろ髪を引かれつつ、エスカレーターに乗って屋上にまで上がっていく。曇りガラスの扉を開けたとき、冷房の効いた屋内にいきなり猛烈な熱が吹き込んできた。
その熱源は降り注ぐ日差しだけではない。大勢の人々が口々に放つ歓声を多く含んでいた。
「盛り上がってるね」
入口にあるガラス戸の位置からはステージが見えない。ちょっとした人混みをかき分けながら、背の高い木板に囲まれた見通しの悪い通路を進む。
この屋上はかつて全面駐車場だったが、来客数の低下に伴ってイベントスペースに改装された。色々なイベントを催すための道具や設備があちこちに置かれ、更にはベニヤ製の大きな衝立やら小屋のような簡易倉庫やらがそこら中に建ち、全体がいくつかの区画に区切られた状態になっていた。イベント舞台のステージはその最奥にある。
曲がった道を進みながら違和感に気付く。今はライブイベントをやっているはずだが、歌声や音楽が全く聞こえないのだ。
ただ観客が歓声を上げる声は一定間隔で聞こえてきて、「おお」とか「わっ」とかいう声が一様に揃って沸いている。
断続するパフォーマンスに盛り上がっているというよりは、時たま何か面白いことが起こるタイプのイベント。そう、これではまるで大道芸へのリアクションのような。
ようやく最後の角を曲がった途端、威勢の良い大声が耳を右から左へと突き抜けた。
「おらおら、もたもたせんとかかってこんかい! ここはおどれのおうちやないぞ!」
安っぽい青白ストライプのビニール屋根、その下で折り畳み日傘を畳む。日陰で出来た細長い道の前方で若い夫婦が大きなベビーカーを押していた。
大きな青空駐車場には入場バーも清算機もない。利用者や近隣住民に無料開放されているのだ。優に百台くらいは収容できそうな広い敷地は半分くらい埋まり、ほとんどの車が同じ地名のナンバープレートを付けていた。
立てた片手で目に小さなひさしを作り、大きなNモールを駐車場から見上げた。
相変わらず、三階建ての右半分には海のように濃い青色のブルーシートがかかっていた。僅かな風を捕まえてはゆったりと大らかに波打っている。よく見れば風化を示す茶色い線が蟻の巣のようにあちこち伸び、端に空いた穴からはざらついた鉄骨が見え隠れしていた。
「ここに来るのもしばらくぶりだな」
Nモールは麗華が生まれる前から営業している古参の複合商業施設だ。
それが大掛かりな改装工事を始めたのはおよそ六年半前、つまり魔法の騒動が終わってから半年ほど経ったときのことだった。
ひと夏の騒動が終わった直後、魔法少女の噂を聞き付けた人々がこぞって星桜市まで足を運んだ時期があった。騒動の最中には警察の方針で報道が切られていたが、秋になってようやくネットを介して噂が広がり始めたのだ。
人が来れば金が落ち、自然と町全体の景気が上向いてくる。それで浮足立った町内会はこの機に乗じて町興しをしようと頭を捻ったが、しかし冷静に検討してみると、噂以外の観光資源は何もないことに気付く。
なにせ、もう魔法の夏は終わってしまったあとなのだ。それはもう、完全に。
あの夏には見飽きるほど見た、喋るオコジョとか、戦う小学生とか、魔法の機械とか、薄く光る植物とか。そういう不思議でファンタジーな出来事はもう何一つ残っていなかった。
魔法少女のグッズを作ろうにも、ただの小学生に戻った子供たちを引っ張り出すのはよろしくない。悪の組織が建物を破壊した痕跡だけはあちこちに残っているが、それは観光資源というよりは復興事業の対象だった。
そんなわけで、あの夏の余韻は半年も経たずに鎮静化した。
このNモールも好景気に乗じて見切り発車で大規模修繕を始めたはいいが、すぐに出店する店舗の都合が付かなくなった。計画は宙ぶらりんのまま放置され、見た目はそのままで工事がストップ。更には駅の反対口にもう二回りほど大きな大資本のショッピングセンターが立ったのがとどめとなり、今では地元住民が細々と使う施設へと落ち着いた。
濁った透明プラスチックの自動ドアを通って中に入る。左右で開くタイミングにラグがあり、開き切ったところでギギッと軋む音がした。
「やあ久しぶり、店長」
「こんにちは。どうだい、夏休みの調子は」
たっぷりある白髪を後ろに撫で付けた老人が麗華をニコニコ笑顔で出迎えた。
年齢の割には体格が良く、カジュアルなジャケット姿で胸にロケットペンダントを付けているあたりが洒脱な好々爺だ。まるで銭湯の番台のようにいつも出入口近くの案内カウンターで待機していて、地元では店長と呼ばれて親しまれていた。
店長は改修工事が頓挫したタイミングでNモールの責任者に就任した。ただ実際のところは単なる雇われ店長ではなく、立て直しに失敗して借金塗れになった前事業主に代わってNモールそのものを買い取った割とすごい人らしい。人件費削減と老後の趣味を兼ねて自ら店頭に立っているという噂である。
「私の夏休みはかなり順調だぜ。このままいけば最高の夏を更新する見込みだよ」
「そりゃあ良かった。最近見ないから心配でねえ」
「一人徒歩で足を運ぶにはちょっと遠くてね、いずれ結婚でもした暁には贔屓にさせてもらうから」
「はは、楽しみにしておくよ。それなら今日の要件はお買い物ってわけでもなさそうだね」
「まあそんな感じだ、悪いけれども。聞きたいのは、今日はイベントか何かをやっていたのだったかな?」
「夏休みはほとんど毎日やってるよ。どうぞ」
店長はピッとキレのある動きでカウンターに置かれたチラシを差しだしてきた。
カラフルなカレンダーには七月と八月の予定がびっしり書き込まれている。工作教室や朝顔の育て方など、夏休み中の小学生を狙い打ったイベントがほとんどだ。
店長が引き継いでから、Nモールのコンセプトは地元密着型にシフトした。近隣に暮らす家族、特に小学生以下の親子連れをメインターゲットに定めている。夏休みにイベントを開催しているのもその一貫。自由研究のサポートやお金のかからない思い出作りにNモールは打ってつけというわけだ。
しかし今日に限ってはもう少し対象層の高そうな、毛色の違うイベントがカレンダーのマスを占めていた。
「今日は屋上でライブだね。ちょうどさっき始まったくらいかな」
「そうそう。若い衆がやりたいって言ってたやつだね」
今日のマスに書いてあるのは「アイドルライブイベント」だ。
しかしライブといっても、テレビに出るアイドルを呼び寄せるような立派な興行ではない。呼ぶのは市内で活動する御当地アイドル、だから予約もチケットもない小規模な無料イベントだ。
このイベントに限ったことでもないが、Nモールのイベント参加費は無料か、材料費程度のごく安価であることが多い。全く採算が取れていなさそうなNモールが営業を続けられている理由は謎だが、市から多額の助成金を受けているとも、金持ちの店長が私財を投じた道楽とも噂されていた。
「店長、念のために館内放送はいつでもできるようにしておいた方がいいよ。何かあるかもしれない。これは元魔法少女として言ってる、色々あってさ」
「そう、麗華ちゃんが言うならそうしとこうかね」
「助かるよ。ありがとう」
麗華は手をひらひら振って、型の古い蛍光灯が照らす館内へと踏み出した。
だいぶ久しぶりに来たが、建物の老朽化は進む一方のようだ。壁紙や天井がうっすらと黄ばみ、亀裂のような染みもあちこちに走っている。壁紙だけの劣化ならいいが、コンクリートとか鉄骨は大丈夫なのだろうか。
あるいはもしかしたら、以前からこんなものだったのかもしれない。この建物は数十年選手のはずで、ここ数年でそう一気に劣化が進むわけでもないだろう。子供の頃はそういうものとして気にならなかった建物のぼろさが、この年齢になって改めてまじまじ見ると目につくだけなのかもしれない。
中学生の頃は義両親と一緒に何度かNモールを訪れていて、店長と顔見知りになったのもそのときだ。しかし一人暮らしを始めてからはもっと家に近い小さなスーパーを利用するようになり、ここにはめっきり来なくなった。義両親と来たときは一階で食品を買って帰るだけだったので、二階より上のフロアに足を踏み入れるのは小学生以来だ。
案の定、食品類を扱う一階に比べ、二階では人通りはまばらになってくる。
半分以上のテナントにはシャッターが下りているが、しかし逆に効率化の結果なのか、いくつもの区画を横断して靴や古着や文房具や雑貨を無秩序に売る店が君臨していた。
「おお、懐かしいな」
三階から屋上に向かうエスカレーターのすぐ近く、ゲームコーナーの前で足を止めた。
七年前、Nモールの大規模修繕が始まるよりも前。このゲームコーナーには魔法少女たちでよく遊びに来たものだ。
一人では遠出も出来ない小学生にとっては手頃で楽しい遊び場だった。魔獣退治の後にアイスバーを食べたりエアホッケーで遊んだり。
しかし今見ると、あまりの安っぽさになんだか爪先が落ち着かない。
ぽつぽつ置かれている古い機種のプリクラやメダルゲーム。一番奥にはすっかり塗装の禿げたアンパンマンが揺れている。
コーナー全体にループしている、ビープ音を組み合わせたような電子音があまりにもチープで空々しい。サウンドの一つ一つが乾いたフロアに弾かれて行き場なく霧散するばかり。
だが、このコーナーの有様が当時と全く変わっていないことは自信を持って言える。当時に何百回と聞いたBGMの音階は両耳の間あたりに染み付いている。
改めて感銘とも困惑とも付かない曖昧な郷愁に首が傾く。
七年経っても変わらないゲームコーナーが却って自分の無自覚な変容を突き付けてきていた。同じものを見たり聞いたりしても年齢が上がれば感じる手触りは全く違ってくる、そんな当たり前の事実を再認識する。
「ま、いつまでも懐かしんではいられないけども」
少し後ろ髪を引かれつつ、エスカレーターに乗って屋上にまで上がっていく。曇りガラスの扉を開けたとき、冷房の効いた屋内にいきなり猛烈な熱が吹き込んできた。
その熱源は降り注ぐ日差しだけではない。大勢の人々が口々に放つ歓声を多く含んでいた。
「盛り上がってるね」
入口にあるガラス戸の位置からはステージが見えない。ちょっとした人混みをかき分けながら、背の高い木板に囲まれた見通しの悪い通路を進む。
この屋上はかつて全面駐車場だったが、来客数の低下に伴ってイベントスペースに改装された。色々なイベントを催すための道具や設備があちこちに置かれ、更にはベニヤ製の大きな衝立やら小屋のような簡易倉庫やらがそこら中に建ち、全体がいくつかの区画に区切られた状態になっていた。イベント舞台のステージはその最奥にある。
曲がった道を進みながら違和感に気付く。今はライブイベントをやっているはずだが、歌声や音楽が全く聞こえないのだ。
ただ観客が歓声を上げる声は一定間隔で聞こえてきて、「おお」とか「わっ」とかいう声が一様に揃って沸いている。
断続するパフォーマンスに盛り上がっているというよりは、時たま何か面白いことが起こるタイプのイベント。そう、これではまるで大道芸へのリアクションのような。
ようやく最後の角を曲がった途端、威勢の良い大声が耳を右から左へと突き抜けた。
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