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第2章 街角朱雀
第12話:街角朱雀・5
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いまやNモールで営業している飲食店は三階フロア隅のファミレス一店舗しかない。
周囲のテナントには軒並みシャッターが下りている中、一つだけ明るく営業している外観はかなり浮いている。しかしこれはこれで減りゆく利用者数に合わせて需給がバランスした結果であり、お昼時の今はちょうどよく席の八割ほどが埋まっていた。
客のほとんどはさっき中止されたライブイベント帰りの親子連れだ。幸いにも中止に文句を言う人は誰もいなかった。元々参加費無料だし、代わりに魔獣退治バトルショーを見て満足できたのが大きい。
麗華たち四人もボックス席に座る。麗華と芽愛が隣り合い、その対面に御息と綺羅。
七年前、このファミレスに入った記憶はない。小学生だけで飲食店に立ち寄ることはなかったからだ。何度も前を通ってはいたが利用するのは初めてのはず。
そんな懐かしいようで懐かしくないが少しだけ懐かしい、なんとも微妙な空間だった。
元魔法少女たちが顔を合わせるのはだいたい五年ぶりだが、全員がすっかり成長してしまうには十分すぎる年月だったようだ。二人とも服装や髪型から来る全身の雰囲気は当時とはかなり違う。道端ですれ違ったとしても古い知り合いとわかる自信はない。
「釈綺羅や、綺羅でええ。七年前はマジカルイエローやっとって、今は高校生YouTuberやっとる。ダチのダチはダチってこってよろしくな、芽愛ちゃん」
「安濃御息です。元マジカルブルー、今は高校に通いながら御当地アイドルをしています。とりあえず、宜しく」
綺羅と御息がそれぞれ手を差し出し、無言のままで左右を交互に見る芽愛。
ぎくしゃくと持ち上げた手が綺羅の方に伸び、途中で御息の方に方向転換。しかし手を握る前にまた元に戻してしまう。
「同時に握ってしまえばいいのではないかな。ほら、ね」
見かねた麗華が芽愛の左手を座席から引っ張り出す。
ガチガチに強張った手を三回擦って軽く解凍し、両手でアシストして二人の手を握らせた。それで麗華の手も重なって、四人が手を重ねているような妙な姿勢になる。
「……どうも。廻覇芽愛、元ドールマスター」
芽愛はいつもより低く固い声色で呟き、また手を座席の下に素早く戻してしまった。綺羅はにっと悪戯っぽい笑みを浮かべ、御息は無表情のまま指を組んだ。
当然ながら、この三人も初対面ではない。七年前には魔法少女と幹部として何度も交戦した仲だ。
思ったより動きが固い芽愛はともかく、元魔法少女側は穏当に接しているところを見てとりあえず麗華は胸を撫で下ろす。さっき「落ち着いて座れる場所で親睦を深めよう」と提案したのも麗華だ。
おかげで芽愛の性質が少しわかってきた。初対面の相手には物怖じしないし、綺羅からの喧嘩は堂々と買っていた割に、友達だけがウィークポイントらしい。思えば、最初に麗華がぐいと距離を詰めたときにもだいぶビクビクしていた。
そんなところもかわいいね、と口に出しては言わなかったが、麗華は机の下で芽愛の手を握りつつ、もう片方の手でスマホをテーブルに乗せた。
「で、綺羅のチャンネルってこれ?」
画面にはYouTubeアプリ上で「きらきらチャンネル」が表示されていた。
登録者数は五万人少し、有名人というほどではないがそこそこ厚い支持層を持つ中堅配信者というところ。割と近所で活動している女の子のYouTuberということで、女子小学生たちから話題を聞いたような記憶がうっすらと蘇ってきていた。
「せや、一昨年始めてからずっと急成長中や。夏休みはコラボ動画もガンガン上げてくつもりやからチャンネル登録よろしくな」
言いながら、綺羅は勝手に指を伸ばしてチャンネル登録ボタンを押していた。
一方、御息は動画一覧をスクロールして眉を顰める。
「言っちゃ悪いかもしれないけど、ちょっと治安の悪い動画が多すぎるんじゃないかしら。同じ地元に住んでる身としてはあんまり応援できないんだけど」
確かに、インパクト優先の胡散臭い動画が多いことは否定できない。
並ぶタイトルは「怪しいテキヤに突撃してみた」とか「あの事件の真相を聞いてみた」とか「チャンネル最大の危機です」みたいなものばかり。炎上ギリギリのラインを攻めている、悪い意味で題材がキャッチー、モラル意識が薄い、高評価と同じくらい低評価も付いているタイプのチャンネルだ。
「今時そういうんが求められてるんやからしゃあないやろ。やっぱりパッと見てガッとオモロいもんがいっちゃんええんや。ご当地アイドルも似たようなもんやろ?」
「全然違うから。一緒にしないでくれる」
御息は眉根に刻んだ皺をより深くしながら、所属している御当地アイドルグループのインスタグラムを開いてみせた。
こちらのフォロワー数は二千人程度だ。無名というほどではないが、グループでオフィシャルにやっている割にはかなり小規模な方。
投稿はイベントの告知や活動報告が中心で、あとはちょっとした自撮りや食事、地元の名所紹介など。どれも文章にきっちり句読点を用いていて顔文字も絵文字もない。十代のアイドルとはとても思えない堅さだった。
「こらあかんわ。もうちょい爪痕残すこと覚えた方がええで。とりあえず『今まで本当にありがとうございました』て釣りタイトルでファンの反応見いや」
「爪痕を残すためにやってるんじゃないから。星桜市の魅力を紹介して、いいなと思った人に足を運んでもらうのが御当地アイドルの役割」
「お役所勤めか? それならなおさら誰も見んかったら意味ないやろ。影響力が全てとは言わんけどな、影響力がないやつが何しても意味ないで」
「へえそうなんだ。影響力が付いてくるといきなりイベントに乱入して暴れるのも有意義なわけ?」
「なんやねんおどれ、終わったことをいつまでもネチネチしくさって。誰もケガせんかったんやからええやろがい」
「良くない、皆ライブのお客さんなんだから。戦う前に声をかけてくれれば避難誘導もできた」
「ざっくりワクワクする見世物が見たくて来とるんやろ。ブーイングどころか拍手喝采やったやんけ」
「私が目指してるのは誰もが安心して楽しめるステージ。危険と隣り合わせのショーじゃない。前の席には怖くて泣いてる女の子だっていたわ」
「そら良かったやん、最初にビビっときゃ後は慣れるだけやから。ワクチンみたいなもんやろ、免疫付けな」
早くも口論を繰り広げる綺羅と御息を置いて、芽愛と麗華は席を立ってドリンクバーに向かう。正確に言えば、芽愛が繋いだ手を引っ張ったので麗華も付いてきた形だ。
コップにファンタグレープを注ぎながら芽愛が口を開いた。
「あの二人って昔からこんな感じだったの?」
「まあそうだね。綺羅はとにかく面白いことが好き、御息はとにかく安全最優先。作戦一つにしても、危ない橋を渡りたがる綺羅とリスクを抑えたい御息でよく揉めていたものさ。もっとも、七年前は今ほど極端じゃなかった気もするけども」
「麗華はどっち?」
「中間を取るのが仕事だね、リーダーだったから。二人が極端な考え方をしてくれるから穏当な作戦が取れるという言い方もできる。ただ正直に言えば、少し綺羅寄りではあるかな。私もちょっと危なくて面白いくらいが好きだから。魔法の戦いには確かにドラマチックで華やかな側面もあると思う方だ」
「へえちょっと意外。安全第一みたいなイメージだった。家も潔癖っぽいし」
「もちろん被害を出してもいいと言っているわけじゃあないよ。最終的にはハッピーエンドで終わらせる前提だ。そこはきっと綺羅も同じだと思う」
席に戻った麗華はまだ揉めている二人の前に大きなコップをそれぞれ一つずつ置いた。
御息の前には爽健美茶、綺羅の前には紫の澱が沈殿した赤緑色の液体。ジュースを手当たり次第に色々混ぜて、タバスコも一滴入れておいた。
「少し落ち着きなよ、二人とも。この席は近況報告と情報交換も兼ねる予定なんだからね」
二人は同時にコップを手に取った。
御息は目を閉じてゆっくりとお茶を口に含み、綺羅は特製ミックスジュースを躊躇なく一息で飲み干す。そして「どうせ入れるならもっと思い切らんとオモロくならんで」とダメ出し。
二人だって別に本気で喧嘩していたわけではない。
七年前と違って今はいつでも小競り合いを切り上げられる程度には大人になっている。芽愛が両手に持っているファンタグレープを一つ受け取り、麗華はテーブルに向き直った。
「それで、魔獣に気付いたのはいつ?」
「今日や、今日の朝。起きてうーんて伸びしたら引き出しからうっすら光が漏れとるやないか。そんで開けたらあのステッキが光っとる。びっくりおったまげて掴んだらビビビと来てな、そんでビビビビ来るほうに歩いてったらモールに着いて、ステージに魔獣がおる。こら動画のネタになるわーてどついたら、自撮り棒がブチ折られてもうた。こら困ったどないしよ、って思たらなんと! 魔法のステッキが自撮り棒に変わってたんやなあ」
綺羅は魔法のステッキを鞄から取り出してみせた。七年前、メルリンから一人一本ずつ与えられたものだ。
ステッキは白く短く、魔法少女によって細かい配色が異なる。マジカルイエローだった綺羅のステッキには黄色いラインや石が散りばめられていた。見た目は当時のままで、劣化や汚れは見当たらない。
綺羅が「ん」と小さく力を込めると、ステッキは一瞬光って自撮り棒に変形した。七年前にはステッキ自体が変形するギミックは見た記憶がない。
「私もだいたい同じ経緯ね。違うのは、こっちは魔法のステッキがスタンド付きのマイクになったことくらい。麗華は?」
「私が持っている情報も皆とそう違わないよ。魔獣が町にまた現れたのと前後して魔法少女にも力が戻ってきていると考えるのが妥当だろうね」
「魔獣の復活と魔法少女の復活はどっちが先なんでしょうね」
「そこまではわからないが、話はこれ以上なくシンプルだ。魔獣が出るなら魔法少女で退治しようというだけ、その過程で何かがわかれば良しだ。あとは頼もしい味方の新顔が一人ということで、この夏も仲良くやっていこうじゃないか?」
「それは簡単に言い過ぎでしょう」
御息から予定調和のツッコミが入る。
どうせ御息ならそう言うだろうと思って麗華はあえて雑な物言いをした。そのあたりの機微がきちんと伝わったのか、会話のバトンははっきり御息に回った。
「はっきり言うけど、私はあなたを全然信じてない。ドールマスターさん」
周囲のテナントには軒並みシャッターが下りている中、一つだけ明るく営業している外観はかなり浮いている。しかしこれはこれで減りゆく利用者数に合わせて需給がバランスした結果であり、お昼時の今はちょうどよく席の八割ほどが埋まっていた。
客のほとんどはさっき中止されたライブイベント帰りの親子連れだ。幸いにも中止に文句を言う人は誰もいなかった。元々参加費無料だし、代わりに魔獣退治バトルショーを見て満足できたのが大きい。
麗華たち四人もボックス席に座る。麗華と芽愛が隣り合い、その対面に御息と綺羅。
七年前、このファミレスに入った記憶はない。小学生だけで飲食店に立ち寄ることはなかったからだ。何度も前を通ってはいたが利用するのは初めてのはず。
そんな懐かしいようで懐かしくないが少しだけ懐かしい、なんとも微妙な空間だった。
元魔法少女たちが顔を合わせるのはだいたい五年ぶりだが、全員がすっかり成長してしまうには十分すぎる年月だったようだ。二人とも服装や髪型から来る全身の雰囲気は当時とはかなり違う。道端ですれ違ったとしても古い知り合いとわかる自信はない。
「釈綺羅や、綺羅でええ。七年前はマジカルイエローやっとって、今は高校生YouTuberやっとる。ダチのダチはダチってこってよろしくな、芽愛ちゃん」
「安濃御息です。元マジカルブルー、今は高校に通いながら御当地アイドルをしています。とりあえず、宜しく」
綺羅と御息がそれぞれ手を差し出し、無言のままで左右を交互に見る芽愛。
ぎくしゃくと持ち上げた手が綺羅の方に伸び、途中で御息の方に方向転換。しかし手を握る前にまた元に戻してしまう。
「同時に握ってしまえばいいのではないかな。ほら、ね」
見かねた麗華が芽愛の左手を座席から引っ張り出す。
ガチガチに強張った手を三回擦って軽く解凍し、両手でアシストして二人の手を握らせた。それで麗華の手も重なって、四人が手を重ねているような妙な姿勢になる。
「……どうも。廻覇芽愛、元ドールマスター」
芽愛はいつもより低く固い声色で呟き、また手を座席の下に素早く戻してしまった。綺羅はにっと悪戯っぽい笑みを浮かべ、御息は無表情のまま指を組んだ。
当然ながら、この三人も初対面ではない。七年前には魔法少女と幹部として何度も交戦した仲だ。
思ったより動きが固い芽愛はともかく、元魔法少女側は穏当に接しているところを見てとりあえず麗華は胸を撫で下ろす。さっき「落ち着いて座れる場所で親睦を深めよう」と提案したのも麗華だ。
おかげで芽愛の性質が少しわかってきた。初対面の相手には物怖じしないし、綺羅からの喧嘩は堂々と買っていた割に、友達だけがウィークポイントらしい。思えば、最初に麗華がぐいと距離を詰めたときにもだいぶビクビクしていた。
そんなところもかわいいね、と口に出しては言わなかったが、麗華は机の下で芽愛の手を握りつつ、もう片方の手でスマホをテーブルに乗せた。
「で、綺羅のチャンネルってこれ?」
画面にはYouTubeアプリ上で「きらきらチャンネル」が表示されていた。
登録者数は五万人少し、有名人というほどではないがそこそこ厚い支持層を持つ中堅配信者というところ。割と近所で活動している女の子のYouTuberということで、女子小学生たちから話題を聞いたような記憶がうっすらと蘇ってきていた。
「せや、一昨年始めてからずっと急成長中や。夏休みはコラボ動画もガンガン上げてくつもりやからチャンネル登録よろしくな」
言いながら、綺羅は勝手に指を伸ばしてチャンネル登録ボタンを押していた。
一方、御息は動画一覧をスクロールして眉を顰める。
「言っちゃ悪いかもしれないけど、ちょっと治安の悪い動画が多すぎるんじゃないかしら。同じ地元に住んでる身としてはあんまり応援できないんだけど」
確かに、インパクト優先の胡散臭い動画が多いことは否定できない。
並ぶタイトルは「怪しいテキヤに突撃してみた」とか「あの事件の真相を聞いてみた」とか「チャンネル最大の危機です」みたいなものばかり。炎上ギリギリのラインを攻めている、悪い意味で題材がキャッチー、モラル意識が薄い、高評価と同じくらい低評価も付いているタイプのチャンネルだ。
「今時そういうんが求められてるんやからしゃあないやろ。やっぱりパッと見てガッとオモロいもんがいっちゃんええんや。ご当地アイドルも似たようなもんやろ?」
「全然違うから。一緒にしないでくれる」
御息は眉根に刻んだ皺をより深くしながら、所属している御当地アイドルグループのインスタグラムを開いてみせた。
こちらのフォロワー数は二千人程度だ。無名というほどではないが、グループでオフィシャルにやっている割にはかなり小規模な方。
投稿はイベントの告知や活動報告が中心で、あとはちょっとした自撮りや食事、地元の名所紹介など。どれも文章にきっちり句読点を用いていて顔文字も絵文字もない。十代のアイドルとはとても思えない堅さだった。
「こらあかんわ。もうちょい爪痕残すこと覚えた方がええで。とりあえず『今まで本当にありがとうございました』て釣りタイトルでファンの反応見いや」
「爪痕を残すためにやってるんじゃないから。星桜市の魅力を紹介して、いいなと思った人に足を運んでもらうのが御当地アイドルの役割」
「お役所勤めか? それならなおさら誰も見んかったら意味ないやろ。影響力が全てとは言わんけどな、影響力がないやつが何しても意味ないで」
「へえそうなんだ。影響力が付いてくるといきなりイベントに乱入して暴れるのも有意義なわけ?」
「なんやねんおどれ、終わったことをいつまでもネチネチしくさって。誰もケガせんかったんやからええやろがい」
「良くない、皆ライブのお客さんなんだから。戦う前に声をかけてくれれば避難誘導もできた」
「ざっくりワクワクする見世物が見たくて来とるんやろ。ブーイングどころか拍手喝采やったやんけ」
「私が目指してるのは誰もが安心して楽しめるステージ。危険と隣り合わせのショーじゃない。前の席には怖くて泣いてる女の子だっていたわ」
「そら良かったやん、最初にビビっときゃ後は慣れるだけやから。ワクチンみたいなもんやろ、免疫付けな」
早くも口論を繰り広げる綺羅と御息を置いて、芽愛と麗華は席を立ってドリンクバーに向かう。正確に言えば、芽愛が繋いだ手を引っ張ったので麗華も付いてきた形だ。
コップにファンタグレープを注ぎながら芽愛が口を開いた。
「あの二人って昔からこんな感じだったの?」
「まあそうだね。綺羅はとにかく面白いことが好き、御息はとにかく安全最優先。作戦一つにしても、危ない橋を渡りたがる綺羅とリスクを抑えたい御息でよく揉めていたものさ。もっとも、七年前は今ほど極端じゃなかった気もするけども」
「麗華はどっち?」
「中間を取るのが仕事だね、リーダーだったから。二人が極端な考え方をしてくれるから穏当な作戦が取れるという言い方もできる。ただ正直に言えば、少し綺羅寄りではあるかな。私もちょっと危なくて面白いくらいが好きだから。魔法の戦いには確かにドラマチックで華やかな側面もあると思う方だ」
「へえちょっと意外。安全第一みたいなイメージだった。家も潔癖っぽいし」
「もちろん被害を出してもいいと言っているわけじゃあないよ。最終的にはハッピーエンドで終わらせる前提だ。そこはきっと綺羅も同じだと思う」
席に戻った麗華はまだ揉めている二人の前に大きなコップをそれぞれ一つずつ置いた。
御息の前には爽健美茶、綺羅の前には紫の澱が沈殿した赤緑色の液体。ジュースを手当たり次第に色々混ぜて、タバスコも一滴入れておいた。
「少し落ち着きなよ、二人とも。この席は近況報告と情報交換も兼ねる予定なんだからね」
二人は同時にコップを手に取った。
御息は目を閉じてゆっくりとお茶を口に含み、綺羅は特製ミックスジュースを躊躇なく一息で飲み干す。そして「どうせ入れるならもっと思い切らんとオモロくならんで」とダメ出し。
二人だって別に本気で喧嘩していたわけではない。
七年前と違って今はいつでも小競り合いを切り上げられる程度には大人になっている。芽愛が両手に持っているファンタグレープを一つ受け取り、麗華はテーブルに向き直った。
「それで、魔獣に気付いたのはいつ?」
「今日や、今日の朝。起きてうーんて伸びしたら引き出しからうっすら光が漏れとるやないか。そんで開けたらあのステッキが光っとる。びっくりおったまげて掴んだらビビビと来てな、そんでビビビビ来るほうに歩いてったらモールに着いて、ステージに魔獣がおる。こら動画のネタになるわーてどついたら、自撮り棒がブチ折られてもうた。こら困ったどないしよ、って思たらなんと! 魔法のステッキが自撮り棒に変わってたんやなあ」
綺羅は魔法のステッキを鞄から取り出してみせた。七年前、メルリンから一人一本ずつ与えられたものだ。
ステッキは白く短く、魔法少女によって細かい配色が異なる。マジカルイエローだった綺羅のステッキには黄色いラインや石が散りばめられていた。見た目は当時のままで、劣化や汚れは見当たらない。
綺羅が「ん」と小さく力を込めると、ステッキは一瞬光って自撮り棒に変形した。七年前にはステッキ自体が変形するギミックは見た記憶がない。
「私もだいたい同じ経緯ね。違うのは、こっちは魔法のステッキがスタンド付きのマイクになったことくらい。麗華は?」
「私が持っている情報も皆とそう違わないよ。魔獣が町にまた現れたのと前後して魔法少女にも力が戻ってきていると考えるのが妥当だろうね」
「魔獣の復活と魔法少女の復活はどっちが先なんでしょうね」
「そこまではわからないが、話はこれ以上なくシンプルだ。魔獣が出るなら魔法少女で退治しようというだけ、その過程で何かがわかれば良しだ。あとは頼もしい味方の新顔が一人ということで、この夏も仲良くやっていこうじゃないか?」
「それは簡単に言い過ぎでしょう」
御息から予定調和のツッコミが入る。
どうせ御息ならそう言うだろうと思って麗華はあえて雑な物言いをした。そのあたりの機微がきちんと伝わったのか、会話のバトンははっきり御息に回った。
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