魔法少女七周忌♡うるかリユニオン

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第2章 街角朱雀

第13話:街角朱雀・6

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「芽愛でいい」
「じゃあ芽愛。私はもちろん魔獣退治はすべきだと思ってるけど、そこにあなたが混ざる意味がわからない。元幹部と手を組まないといけない理由がどこにあるのか教えてほしい」

 あまりにも直截な言い分に、見かねた麗華は芽愛の肩にぐるりと手を回してぐっと引き寄せてみた。

「あまり気を悪くせずに聞いてあげてよ。御息は腹のうちで疑っているくらいならはっきり伝えた方がフェアだと思う感じのやつなんだ」
「大丈夫。私が悪の組織にいたのは事実だし、いきなり信用しろっていう方が無理があるとは思う」
「うちは気にせんけどな。友達の友達は友達やろ、こんくらいの怪しさでいちいちグチグチ言ってられん」
「そうだね。御息には悪いけれども、これに関しては私も芽愛の肩を持つかな。昨日は町を守るため魔神機で魔獣を倒したのをこの目で見てる。さっきだって綺羅が絡んできたのが先だし。ねっ」
「なんか距離感近くないか? 付き合うてるん?」
「いや、まあ、魅力的だとは思っているけれど」
「そうなん? 昔はさんざん好き好き言うてたからてっきりなあ」

 これに食いついたのは芽愛だ。さっきまでの腰の引け方はどこへやら、ずいと前のめりになってテーブルが揺れた。

「それもうちょっと詳しく」
「あれ、聞いてへん? こいつ戦うたびにドールマスターさんかっこいい、ねえどう思うどう思うどう思うどう思うどう思う、って鬱陶しくてな、あんなに可愛い麗華は後にも先にもあれきりやな。あ、これ言っちゃダメなやつやった?」
「その脱線はあとでやってくれるかしら」

 御息は綺羅と麗華をぴしゃりと会話から排除し、改めて正面から芽愛を見据えた。テーブルを挟んで二人きりの尋問が始まる。

「もし仲間になるっていうなら、怪しいことは全部聞いておかないといけない」
「出来るだけ答える。見た目の話?」
「それは好きにすればいいわ。重要なのは内面だけだから。見た目が変わろうが変わるまいが七年前にあなたが悪の組織で幹部をやってたことは動かない。前回がそうなら今回もそうって考えるのが自然でしょう?」
「麗華にも話したけど、悪の組織はもうない。私が知る限り」
「組織の名義が今どうなっているかより、組織に動機があるかどうかを知りたいわ。例えば、組織の残党が魔法少女に復讐しようとしてるみたいなことがあるとは思わない? あなたも含めて」
「有り得ないと思う。なんか、悪の組織を悪のレッテルで見てない? そもそも悪の組織は大義ベースの組織で、個人的に憎くて戦うみたいな考え方自体が合わない。そこは魔法少女と同じ」
「そう言われても、俄かには信じがたいわね」
「じゃあ七年前におかしいと思わなかった? 建物をいくつも破壊したのに、死人は一人も出なかったし、怪我人もほとんどいなかったこと」
「それは魔法少女や勇気ある市民が避難や救助をサポートしたから……」
「違う、ボスがマニュアルを作ってた。器物損壊はするけど殺人と傷害はしない。そのラインを守るための行動指針がいくつも決まってた。最初の一撃は建物が倒壊しない程度に留めること、本格的な破壊は避難の完了を待つこと、他にも色々。変装した組織の下っ端が避難誘導してたこともあった」
「どうしてそんなことを?」
「騒動を起こす目的は魔力を高めることだから。そもそも組織の最終目標が『腐敗した世界をリセットする』だったのは知ってるでしょ。世界をリセットする大魔法を発動するための魔力は、不安や恐怖みたいなネガティブな感情が高まることで増幅される。だから怯えさせれば十分で、それ以上の被害を出す意味はなかった」
「なるほど、筋は通ってる、通りすぎな気もするけど。じゃあとりあえず組織の話は一旦無さそうって認識で保留しておくとして、それであなた個人はどうなのかしら」
「やっぱりそう来るか」
「ええ。結局、悪の組織についてもあなたの話しか情報源がないもの。ここまで全部嘘とまでは言わないけど、確度を計るためにもあなた自身の潔白度合いを知っておきたいって考えるのは当然じゃない?」
「うーん、まあ、なくはないんだけど……」

 天井を向いて渋る芽愛に麗華は横から耳打ちする、御息にも聞こえるように。

「こうなった御息は粘着質だから、何かあるなら諦めて出した方がいいよ。御息は迂闊な口約束をした大人が折れるまで何時間でも粘る子供だった」
「仕方ないか。アリバイ作りのためにやっていたわけじゃないから不本意だけど。ほら」

 芽愛は自分のスマホに一枚の写真を表示した。
 そこには芽愛と腰の曲がったお婆さんが並んで映っている。杖を突いたお婆さんは笑顔で芽愛の腰に手を回し、芽愛は照れくさそうにそっぽを向いていた。
 背景はこじんまりとした総菜屋だ。看板はピカピカ光っていて真新らしい。新装開店を祝う花束が三本ショーケースに乗っていた。
 そして芽愛が着ているのは制服ではなかった。真っ白いカッターシャツにジャケットを羽織い、下に履いているのはフォーマルなデニム。足元にはかかとが高いヒールを履いていて、今の姿よりかなり大人びて見えた。

「これ……五丁目の商店街にあるコロッケ屋さん? やたら大きい看板がかかった交差点の」
「そう、七年前の騒動で特に被害が大きかった区画。ときどき復興の手伝いに行ってた。自分で言うのもあれだけど、改心した証拠みたいな話で……」
「あそこのお婆ちゃんなら番号知ってるし、ちょっと聞いてみる」

 御息は自分のスマホを素早くタップし、電話はすぐに繋がった。裏を取りに行くスピード感に麗華は内心で呆れるが、こういうのを正義の素養というのだろうか。
 御息は「お久しぶりです。ちょっとお伺いしたいことが、知り合いが一人、そう、そちらに女の人が……」などと話し始める。いきなりかけた割にはなかなか終わる気配がなく、「えっ!」とか「へえ……」とかいちいち大きなリアクションを三人で聞く羽目になる。
 そのうちにパスタやオムライスが運ばれてきた。熱心に喋り続ける御息を尻目に、綺羅はチーズがたっぷりかかったダブルハンバーグをナイフで切りながら口を開いた。

「ちなみに、うちは別に何でも構わんで。芽愛ちゃんが味方でも敵でも黒幕でも何でも。もし魔獣を作ってたんやとしてもありがたいくらいやわ」
「やってないことを感謝されても困るけど」
「つまり気にせんでええってことや、七年前のことも含めてな。うちは最終的に皆がオモロ! って言うてくれたら全部勝ち、そういう考えで動画作っとる。七年前も最後には丸く収まって今じゃ皆のいい思い出や。だったら別にええ。今日のイベントだってそうやろ? 結局皆は魔獣退治を見て満足したんや、おもんない歌とかダンス見るよりもな」
「そこまでは言わないけれども、気にしなくていいという点については私も同意見だよ。魔獣が現れたおかげで芽愛とまた会えたしさ」
「いちいち歯の浮くこと言いよるな」

 綺羅が鋭い犬歯を光らせながらハンバーグの塊にかぶりついたとき、ようやく電話を切った御息がいきなり身を乗り出した。

「あなた、とてもいい人なのね!」

 光が散るような高い大声、そして明るく開けた目を輝かせて芽愛の両手を強く握る。
 あまりの勢いに空のコップが倒れる。ついでに綺羅がフォークを持つ腕に御息の肘が当たり、綺羅は「グムッ」と小さく呻いた。

「全部聞いたわ。店を壊されてしばらく経ってからあなたが来るようになって、何でも色々手伝ってくれたって。お婆ちゃんが熱を出したときは病院まで背負っていって、お礼を渡そうとしても絶対に受け取らなくて、子供たちと遊んだり買い物にも行ったりしてくれたんだって」
「まあ、うん。でも褒められるようなことはしてない」

 芽愛はテーブルに目を伏せ、居心地悪そうに首を振る。

「だって自作自演でしょ、私が魔神機で壊した店を私が直してるだけなんだから。それに私が幹部だったってことは伝えてないし謝ってもいない。自己満足の罪滅ぼしでしかなくて」
「ますます気に入ったわ。人間、一度も間違えないことより過ちを認めて黙って償うことの方が難しいの。疑ってごめんなさい、あなたみたいな人が仲間にいると嬉しい。これからは一緒に頑張りましょう」

 手をぶんぶんと振る御息を尻目に、綺羅は裏返した第一関節でテーブルを叩いた。

「なんか知らんけど一件落着ってことでええか? ほんならグループでも組んで退治せんか? こりゃ伸びるで。皆べっぴんさんになっとるしな、地元アイドルともコラボ企画ってことで」
「するわけないでしょう。こういうのは粛々と裏側でやるべき。芽愛を見習って」
「ジブンもアイドルの端くれやろ? バズチャンス掴まんでどうすんのや」
「魔獣なんかで金稼ぎをするのは間違ってる」
「お堅いんやな。どうせうちは一人でも動画作るけど。そんじゃ今回も愉快な仲間たちで頑張っていきましょってこって……ん、いや、そいや一人足りんな。メルリンはどした?」

 綺羅がわざとらしく周りを見渡した。そこらをパタパタ飛ぶあのマスコット妖精の姿を見つけようと、きょとんと作った顔で手を目に乗せるジェスチャーをしてみせる。

「いないよ。あの日、決戦が終わったあとに魔法の国に帰っただろう? それからは見ていないよ」
「ふうん? うちはメルリンがワーッとやってんのかと思ってたわ」
「ワーッて何なのだよ」
「妖精さんが魔法の諸々整えてくれとるってか、なんかそういうイメージ持っとったわ。ステッキとかもメルリンプレゼンツやしな」

 言葉の割にはどうでもよさそうに、綺羅はハンバーグの二口目を口に運んだ。
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