謡う魔剣と少女の物語

たまぞう

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第1章 錆びた魔剣

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 ティナはその身長よりも大きい塊をいとも軽々と運んでいく。母屋の玄関口を通り、祖父の工房へ。工房の戸口で彼女はふと、足を止めた。
 いつもこの仕事場で、爺ちゃんは鍛冶仕事をしていた……
 今は弟子のドーハンが自分用の仕事場として整えつつある。同じ、なのにどこかが違う。
 鍛冶職人ではない彼女にとって、この工房兼住居はどことなく自分の居場所ではないと思っていた。祖父が亡くなってから、彼女は独り立ちをするつもりでこの家を出た。この工房はドーハンが受け継ぎ、いずれは彼が家族や弟子を迎えるのだろう。
 その場所に彼女の居場所はない。
「どうかしましたか?」とドーハンが尋ねた。
「ううん、何でもないよ」と彼女は答えた。そして工房の大きな作業台にその金属の塊を安置した。
「どうだい? 錆は落とせそうか?」とカイルがのぞき込んで尋ねた。
「ええ、おそらく。どうやら羊皮紙を土台にして表面を包み、その上に化学反応で錆状の粒子を付着させているようで」
「か、かが……?」とカイルは首をひねった。
「まあ、錬金術のようなものでして」とドーハンは応じた。「見たところ羊皮紙で覆われているので本体にはほとんど汚れがありませんね」
「……ふむ、器用なものだな」
「ドワーフの手先は器用ですからね!」とドーハンはウィルフレッドに誇らしげに言った。「これなら半時かそこらで一面はキレイになりますよ。もう一面はまたお嬢さんに手伝ってもらって、ひっくり返さなきゃなりませんがね」
「うん、わかった。先生、カイル、ここはドーハンに任せて、あたしたちはもう一度蔵に行ってみようよ?」
「そうだな、この剣らしき物の来歴がわかるかもしれん」

 彼らは金属塊をドーハンに預け、工房を出て再び蔵へと戻った。蔵の中を漁ってみたものの、金属塊の正体を示すものは見当たらず、その代わりに見つけた試作品らしき短剣や作りかけの籠手、金具類などを木箱に入れて工房に持ち帰ってきた。
「ちょうどいいところで。お嬢さん、これを見てくださいよ」とドーハンが作業台の上を示す。台の上には大方半身の錆を落とされた金属塊が横たわっていた。
「巨人用みたいなでっかい剣だね」とティナは目の前の物を見て言った。
「確かに見たことのない金属だな」とウィルフレッドがそっと刃に触れる。「うん……?」
 居合わせた四人は思わず声を潜め、耳を澄ませた。
「低い音がする……」小声でカイルが囁く。
「……歌みたいに聞こえる」ティナが言い、耳を剣に近付けた。「低い声で歌ってるみたいに…… 音程があるよ」
 カイルがかすかに眉根を寄せた。
「き、気味が悪いな……」
「怖い?」と尋ねてティナが笑みを見せた。
「だって、魔剣だぞ? ……普通じゃないだろう……」
「ううむ、確かに呻りのような音だ」
 ドーハンは彼らに羊皮紙を見せた。
「裏にびっしりと呪文のようなものが書かれていました」
「ひっ!」とカイルは身を竦めた。
「何の呪文だろう?」とティナは興味津々で覗き込んだ。
「……はっきりとしたことは言えませんが、おそらくは魔力を封じるか、保持するか、どちらかの系統だと思います」とドーハンが応じる。
 一同は思わず顔を見合わせた。
「……剥いじゃあ、まずかった?」とティナ。
「……」
「ま、まあ、しょうがないよ。取扱説明書もないし」
「い、いや、だって、魔剣だろう……?」とカイルが気味悪そうに身を引いた。
「……爺ちゃん、何かメモでも残しておいてくれればよかったのに……」と彼女は困ったように笑った。「ドーハン、爺ちゃんに何か聞いたこと、ある?」
「いいえ。蔵にはガラクタしかない、としか……」
「儂も特に聞いたことはないな。もしかして、ボスコーク以前の誰かが隠したのでは?」
 その言葉にティナは首を傾げた。
「……でも、あたし、これを見たことがあるような気がするんだ。その時は錆なんかなくて、刃が虹色に輝いていたような……」
「虹色?」とカイルは台の上の剣を見やる。「……白っぽい灰色だぞ?」
「別の何か、なのかなぁ……?」
 彼らはしばらく首をひねっていたが、やがてティナが顔を上げた。
「いずれにせよ、ここに置いてたら、ドーハンが仕事できないね?」と言うや、柄に手をかけ、軽々と持ち上げた。「今のところこれを持ち上げられるのはあたしだけだし、とりあえず、王都の物知りの人にでも当たってみようか」
「……そうだな、それくらいしか今は思いつかぬ」とウィルフレッドも頷いた。「どれ、知り合いに王立図書館の司書だった人物がいる。彼に尋ねてみよう」
 ティナは目を輝かせた。
「そうだね! お願いします、先生!」
「ティナ、お前、それを持って帰るのか……?」とカイルが怖々と尋ねた。
「うん。だって、ここに置いておいたら邪魔でしょ? それともカイルが持っていく?」といたずらな表情で尋ねた。
「い、いやいやいや! そんな薄気味悪いもの、家に持って帰ったら、親父に家を追い出されるよ!」カイルの家は代々騎士の家系だ。体力勝負の彼ら一族にとって、魔法や魔術に関するものとは相性が悪いらしい。「第一、重くて持ち上がらないんだぜ?」
「あはは、それもそうだね!」とティナが軽く流した。
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