決められた運命

野々村

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取り戻す為に

取り戻す為に 3

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「私、あの村の人には会ったことがあるけど、村に入るのは初めてだわ」
「俺は半年前に鹿の肉を売りに来て以来だな」
 村の周りにはたくさんの木が生えていてそれが村の壁の変わりになっていた。
 その木々の中に一際大きな木が生えていて、下のほうで二股に分かれた幹の隙間に兵士が二人立ってる。きっとそこが村の門なのだろう。
 リリーシャ達が近づくと彼等は視線を二度ほど左右にやり、一歩だけ前に出た。
「許可証を提示してください」
「はい」
 首に下げていたカードを見せると兵士は左右に別れ軽く頭を下げた。
「ご協力感謝します」
 兵士たちを通り過ぎて胸に下げていたカードを眺めた後、リリーシャは兵士をもう一度見て感嘆した。
「私、許可証なんて何に使うんだろうって思ってたけど、こういう時に必要なのね」
「商人はこれに『商売許可証』が必要になるけどね」
「それ、本当?」
 疑いの眼差しで見つめると、コルマは通常の許可証の下に『商売許可証』と書かれたカードを見せた。
 後ろにはたくさんの規約が書かれていて、眼が痛くなったのかリリーシャは目頭を押さえた。
「それ、何が書かれてあるの?」
「簡単に説明すると『人に害するものを売ることは禁止』『騙して売るのを禁止』とか、間違った売り方をしたら罰せられるって書いてある」
「それ、もしかして防具とか売りたいときも必要になるの?」
「いや、これが必要なのはあくまで『一般市民』に商売する時だけ」
「へぇ……」
 色々と面倒だなと思っていると、遠くの方で少女の声が聞こえた。
 不思議にそちらを見ると、木の上に少年が登っていて小さな果実を取っている。
「アルト、危ないから下りてきてよ」
「大丈夫だって、カレンは早く籠を持ってきてよ。母さんに頼んで今日のおやつにしてもらうんだから」
「もう、アルトってば!」
 兄妹なのだろう、その懐かしく微笑ましい光景に目元が緩んだ。
(まぁ、心配されるのはいつも私の方だったけど)
 眉を下げたまま大きくスカートを掴んで前に出した少女の所に少年は器用に果実を入れている。
「懐かしいなぁ」
 零れた言葉に、コルマは一瞥しただけで何も言わなかった。
 それよりも彼は先のほうにある小さなお店に行きたそうだった。
「リリーシャ、俺は少しアイテム整理をしてくるけど、君はどうする? ここで休んでくれると見付けやすくて助かるんだけど」
「分かったわ、そうするから早く行ってきて」
 リリーシャたちが町を出てから、自分の持ってきた荷物が多いと愚痴を零していたコルマはここで少しでも身軽にしたいのだろう。
 よくよく考えれば、二人は話し合って旅をしたわけではなく、リリーシャの旅にいきなりコルマが同行した形だ。確かに余分なアイテムが出てきてもおかしくない。
 石で囲われた噴水にある広場でリリーシャは待つことにした。
 広場の脇に木でできた暖か味のある椅子に座り、今朝作った卵とベーコンを挟んだサンドイッチを食べていると、なんらかの視線を感じて横を向いた。
「……えっと、何かな?」
 見ていたのはさっきの子供たちだ。
 竹籠にたくさんの瑞々しい果実を入れ、帰る途中なのが分かる。
 だが、視線はリリーシャに向けられ、口も少し開いている。お腹が空いているのか、時折お腹の方からかわいらしい音が聞こえてきた。
「えっと、食べる?」
 ダメもとで聞いてみると二人は嬉しそうに走りよってきたが、少女が思い出した様に立ち止まり少年の手を引いた。
「ダメ、知らない人から貰っちゃいけないってお母さんが言ってたでしょ!」
「だって、お腹すいたもん! 少しくらい良いって!」
「ダメなの!」
 しっかりしているなぁ。と思うのと同時にまた懐かしくなる。
 木登りも叫びの森に行くのだってリリーシャがいつも先にいて、弟は心配そうに無茶しないように側に居た。
「ねぇ、じゃあこう交換しない? 私のサンドイッチと君の持ってる果実を少し。どうかな?」
 これだったらあげた事にならないよね? と問えば二人は考えているのか時折何度も顔を合わせている。
 その考えを中断させたのは、男の子のお腹から聞こえる虫の音だった。恥ずかしそうにぎゅっとお腹を押さえる姿に、渋々といった表情で少女は頷いた。
「それだったら……いい」
 女の子が果実の入った籠を差し出してきた。
 リリーシャは微笑んでそれを少し受け取り、脇に置いていたサンドイッチを二人にあげると嬉しそうに食べ始めた。
「おいしい!」
「うん、でもお母さんが作るご飯も美味しいもん」
 口々に言い合いながら食べる姿は微笑ましい。
 ……そう、微笑ましくて、でも羨ましくも思える。
(本当なら私の横には……)
 開いた手には誰も繋いでくれる手なんて無い。冷たい風が指の間を通り抜けていくようだ。
「二人は兄妹?」
「そうだよ、俺がお兄ちゃんでコイツが妹」
「コイツって言わないでよ」
 口の端にソースを付けてニッと笑う少年に、頬を膨らませる妹は可愛らしく、リリーシャは「いいな」と声を出した。
「お姉さん? どうしたの?」
「お腹減ったのか?」
 心配気に見つめる二人に苦笑いで手を振る。
 どうやら顔に出ていたようだ。
「違うの。私にも居るのよ、弟だけど。とっても優しい大切な弟が」
 食べ終えた二人にハンカチを渡して、貰った果実を口に放り込んだ。
 それは瑞々しく甘酸っぱい味で心が落ち着く気がした。
「もしかして、あのお兄ちゃん?」
 男の子が言っているのはコルマの事だと分かり首を振る。
 ちょっとだけ兄妹だったら、なんて想像してしまい歳は彼が上だから兄かと『口うるさいコルマ』が想像できて嫌な顔をしてしまった。
「違うわ、全然違う」
「へぇ、そうなんだ」
「お姉ちゃんの弟は何処にいるの?」
「今は側に居ないの。少し遠くに居るから、私が迎えに行くところよ」
 『少し』なのかはただの想像にしか過ぎない。
 だが、諦めるわけにもいかなかった。
「じゃあ、迎えに行ったら帰りに俺たちのところに寄っていってよ! 俺たちのお母さん、おやつ作るの上手いんだ!」
「お姉さんだったらいつでも歓迎するよ!」
「あ、ありがとう」
 なんだか懐かれてしまったようで、子供たちは自己紹介を始めてしまい、おやつに使うはずの果実を機嫌よく食べている。
「でね、アルトはお兄ちゃんなのにいっつもお母さんに怒られてるの」
「カレンは泣き虫だよ!」
 二人の声が最初の頃よりも少し大きくなると、離れたところからコルマの声がした。
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