決められた運命

野々村

文字の大きさ
8 / 14
絶望が見えるか

絶望が見えるか 2

しおりを挟む
 リリーシャたちが旅を始めて数十日が経ち、簡易テントの床の固さにも慣れてきた頃。
 二人の前には瓦礫と建物が燃え残った小さな村があった。
 死臭が残るそこを見たリリーシャは顔を真っ青に染め、何処から派遣されたのか兵士が村の使えそうな残骸を馬車に運んでいた。
 リリーシャから離れていたコルマは、頭や服から包帯が巻いているのが僅かに見える男性から話を聞き終わったのだろう、メモ紙に書き込んだものを見ながら歩いてきた。
「何を聞いたの?」
「この村を襲った者について聞いてきた」
「……で、何だったの?」
「魔物が襲ってきたらしい。子供数人が連れ去られたけど他の人間は殺されたって。見慣れない魔物もいたらしい。彼は瓦礫の隙間に居たらしくて助かったとか」
「私達がもっと早くここに着いていれば……」
「後悔しても仕方ないよ、今は出来る事をやろう」
 読み終わった紙を折りたたんでポケットに入れた後に優しく笑った。
 リリーシャはコルマの優しさに心が軽くなったが、苦くなった気持ちは消える事は無い。
「ごめんなさい」
 未だ燃え続ける家屋を見て、リリーシャは顔を歪め両手を力強く握り締めて搾り出すように呟いた。
「もうこんな悲劇、見たくない」
「リリーシャ……」
(絶対助けるから……。それにきっとそこに弟も一緒に居る)
 強い覚悟と、確かな手がかりが見つかった所為か、その瞳はいつにも増して碧く輝いている。
「リリーシャ、彼のことは兵士がなんとかしてくれるから俺たちは次の街に行こう」
「そう……ね」
 コルマが静かに見上げた空の先は、厚い雲に覆われていた。
(ひと雨来そうだな)
 天気で変わる自身の持つ弓の弦を心配しながら軽くなった鞄を背負いなおし、気付かれないように溜息を吐いた。
「雨が全部流してしまえばいいのに」
 無理だと知っているからこその愚痴だ。
 地面に描かれた町や人々の絵を消されるのとは訳が違う。
 瓦礫となった村から二人は少し歩いたところで見えたそれに、リリーシャは指を差した。
「ねぇコルマ、あそこに見える街は何?」
 蜃気楼のようにぼんやりと見えるそれは、遠目からでも分かる城壁。
 コルマは目を細めながら何度も持っていた弓の弦を軽く弾いて答えた。
「俺たちの住む大陸一帯を治める領主が住まう街だって。だからこそ街は栄えるし、人は多いから情報は期待出来ると思うよ」
「そっか」
「……リリーシャ」
「分かってる」
 少し遠くに見える三体の魔物に視界を向けたままリリーシャは腰に提げた剣を抜いた。
 まだ自分が弱いのを戦う中で知ったからこそ、先手必勝を狙って魔物の背後に入り込む。
「――っせい!」
 こん棒を持ったゴブリンの背を斬りつけると、甲高い鳴き声を上げて武器を落とした。その隙を見逃さずリリーシャは剣先を垂直に構えると足に力を込めて地面を蹴る。
一閃いっせん!」
 声と共に真上に刃を振り上げると、ゴブリンは倒れ、そのまま動かなくなった。
「コルマ!」
 残った魔物を探すとゴブリン、そしてワームと呼ばれる大芋虫がコルマの方に行っているのが見えて、リリーシャは力いっぱい剣を投げるとゴブリンの体に突き刺る。
 その勢いのまま地面へと倒れたゴブリンに背中に乗ると剣を思いっきり引き上げた。その姿を見たコルマは追撃の矢をゴブリンの脳天に射抜くと魔物は声もなく絶命した。
 弦の音が耳に響く。コルマは顔を歪めると持っていた弓を直し、腰に提げていた小太刀で今にも噛み付こうと口を開けていたワームに応戦するべく腰を落とす。
 小太刀の頭の部分に当てていた左手に力を入れた時、ワームは体を揺らして緑色の液体を吐いて事切れた。
「?」
 どうしたんだ? と思っているとリリーシャが大きく剣を振るのが見えて静かに納得した。
「大丈夫!?」
「あ、あぁ、大丈夫だ。悪い、弦が嫌な音を立ててたから小太刀で応戦しようとしたんだけど、リリーシャの方が早かったようだな」
「……街で張り直してもらう?」
「そうだな。弦を変えたのはもう随分前だったし。俺が持っている弦より街で売っている方が質は良さそうだしな」
 コルマが軽く弾いた弦は別段何処が悪いのかは分からなかったが、使用者が言っているのだから、そうなのだろうと頷いた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...