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絶望が見えるか
絶望が見えるか 6
しおりを挟む「さぁ、リリーシャ殿もどうぞ」
「え……はい」
エマに促されるまま並べられた道具を見るが、見た事もないものが多く、困惑したまま固まるリリーシャ。
(……こ、この細長い紙はメモ紙? そしてこれは随分大きいけど草刈鎌?)
その中でやっと見慣れたものを手に取るが、そんなリリーシャにエマは感嘆とした声を上げた。
「霊符とサイスですね。中々使う人は見た事がありませんでしたが、リリーシャ殿がお使いになられるとは」
「え? え?」
どういうこと? と持っていた二つを見ていると、コルマは丁寧に説明してくれた。
「リリーシャ、君の持っているのはどっちも武器だよ。霊符はその紙に文字を描いて敵に投げて攻撃する。サイスはその大きさと刃の鋭さで多くの敵を一網打尽できる武器」
「……そう、なんだ」
(武器、だったんだ……)
抱えた武器を改めてみると、なんだか禍々しく思えてきて、そっと元の場所に戻した。
触らぬ武器になんとやら……だ。
武器を戻したリリーシャにエマは不思議そうに首を傾げる。
「お止めになるんですか? 例えばコルマ殿の持つ弓などはなされないのでしょうか?」
エマの言葉にリリーシャとコルマは固まった。
「リリーシャに、弓はなぁ……。下手すると仲間を倒す可能性が」
「……はい?」
コルマからリリーシャに視線を変えると、気まずそうに視線を避けられた。
その姿にコルマは苦笑いで話し出した。
「数年前、狩りが出来るようにって俺に弓の使い方を習いに来た事があって、その時に俺は命の危機を……」
「ちょっと失敗しただけよ」
コルマの台詞が嫌だったのだろう、リリーシャは口を尖らせて言い返したが、それはどうだろうと口をヒクつかせたコルマ。
「いや『ちょっと失敗しただけ』なのに何で俺に矢が飛んでくるんだ? 真後ろに居た俺に」
「う、ぐ……」
「………」
これにはエマも、楽しそうに聞いていたヘンリーも言葉をなくしてしまう。
コルマはリリーシャを半眼でからかうように見るとバツが悪そうに頬を膨らませた。
「と、兎に角、私にはこの剣がありますから」
腰に下げていた前祝でもらった剣はまだ切れ味が損なわれる事は無い。
その剣を軽く叩いてみせると、エマは嬉しそうに微笑んだ。
「そうですか、それはその剣にとっても誇らしい事でしょう」
「?」
エマの言葉に首を傾げると、彼女はゆるく首を振って胸に手を当てた。
「武器は人に使われるために生まれ、そして最後まで使われる事無く捨てられる。今はそんな武器がとても多いんです。そしてここにある武器は、主人すら持てずに消えていく物も少なくありません」
「………」
「もしかしたらと思ったのですが、やはりリリーシャ殿は自分の武器を大切になさる方だったのですね」
嬉しそうな表情を浮べるエマに不思議な感覚がして見つめていると、暗くなった窓の外を眺めていたヘンリーが笑いながら口を開いた。
「エマの親父は鍛冶屋だったんだ」
「『だった』?」
さらに両手にお菓子を追加したコルマが聞く。
コルマを静かに見ていたリリーシャはその図々しさに固まってしまったが、気付かれた様子は無い。
「私の父は経営が向かなかった為に、他の鍛冶屋との競争で負け、経営不振で仕事を畳んでしまったのです。ですが、ヘンリー様が口添えをしてくれていたらしく、今はここの兵士たちの武器の修理をしています」
「ヘンリーが、マジで? 意外」
「へ、へぇ、本当に良い人なんですね!」
「はい、ヘンリー様には頭が上がりません」
三人が尊敬の(いや、コルマは驚いた)表情で見てくるのが恥ずかしくなって、そっぽを向いて嫌な顔をする。
「そんなんじゃねぇよ。ただ、エマのオヤジが手を抜かない仕事が出来るヤツだからだ。そんなヤツが居なくなったら惜しい人材だと思ったからだよ」
「でも、私の家族は感謝しております。それに、私もヘンリー様にお使え出来る事を喜ばしく……」
「だぁぁっ! もう黙れ!」
顔を真っ赤にして叫んだヘンリーは「もう寝る!」と言って部屋を出ようと扉ノブを掴んで、思い出した様に立ち止まった。
「あ、忘れてた。明日はエマに迎えに行かせるから、早めに寝ろよ。エマ、客人用の部屋に案内頼む」
「はい、かしこまりました」
一切こちらを見ようとはしないその姿に全員が「恥ずかしいんだな」と理解したのでそれ以上誰も何も言わなかった。
大きな音を立てて閉まった扉の向こう側でヘンリーは先ほどとは違う真剣な表情で前を見つめている。
「まさか、もう始まっていたとは……」
暗い色を乗せた顔のままヘンリーは自室へと歩いていった。
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