決められた運命

野々村

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闇に潜む

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 早朝、軽装に着替えたエマが迎えに来てくれた。手にはグローブ型のナックルを装備している。
 城の料理人に作ってもらった朝食をリリーシャとコルマは食べ、四人が外に出ると昨夜まで降っていた雨はもう上がっていた。
 所々にある水溜りを避けながらヘンリーが三人を先導した形に歩いている。
「ねぇ、ヘンリー」
「ん? なんだ」
 街の外の方とは逆の方に向かうヘンリーに、リリーシャは不安になって声を掛けた。
 目の前には悠々とそびえる大きな山がある。
「こっちの方って何があるの?」
「外から見た時は山しか見えなかったけど、まさか山を越える……とかないよね?」
 リリーシャとコルマは不安そうに眉を寄せた。
 そんな二人にヘンリーは軽快に笑うと手を振る。
「ちげーよ、この先に元は鉱山になっていた洞窟を向こう側に渡してトンネルにしたのがあるんだ」
「その先には波止場があり、漁船や他の大陸へ繋がる船を出しています。昔は多少遠回りで行っていたのですが、 そのトンネルが開通したお陰でより新鮮な魚介類がお客様に提供できると、飲食店の方には喜ばれております」
「へぇ……」
 リリーシャは昨日と今日に用意してもらったご飯を思い出して頷いた。
 確かにどちらも魚料理があり、味も美味しかった。
 山に囲まれているこの大陸にしては珍しいとは思っていたが、そういう事だったとは。やっと疑問が解けた気分だ。
 ヘンリーの後ろを歩いていたエマは顔を二人に向け、何かを思い出したのか不安な表情を浮べた。
「ですが一つ問題がありまして」
「問題?」
「私たちにはあまり関係はないと思いますけど一応……。トンネル自体は真っ直ぐなのですが、鉱山だった名残で少し外れると中は入り組んでいます。そして外に通じる道が出来た所為か何時入ってきたのかは分かりませんが洞窟に住む魔物がこちらに移動し、住み着きはじめているのです。もし力試しをしたいのであれば、お止めはしませんが……」
 どうしますか? という目を向けられるが、リリーシャは大人しく首を振った。興味は十分にあるが急ぐ旅だ。
「ううん、興味はあるけど私は早く助けに行きたいから」
「そうですね」
 エマは胸元にある二つの通行証を握り、その一つを主へと渡した。
 ヘンリーはエマから貰った通行証を指で遊ばせながら前に見える洞窟の入り口に目を向けた。
 その脇に街の入り口と同じく兵士が二人立っている。
「ここにも兵士が居るの?」
「魔物が居ますから。それに人に害する危険な物を密輸する者も少なくありません」
「密輸?」
「そ、様々な物があったぜ。俺が見たのは盗品の骨董だったり、珍しい動物もいたな」
「ヘンリー様」
 窘めるように名前を呼ぶと、バツが悪そうに頭を掻いて明後日の方を向いたヘンリー。
「全く、先行きが不安になりますね」
 四人は兵士に通行証を見せ、湿ったトンネルに入って行った。中は松明が焚いてあり思ったよりも明るい。
壁には扉があり、そこからは何かがぶつかる音も聞こえてくる。魔物、だろうか。
 不安に駆られたリリーシャは鉄で出来た扉を差して聞いた。
「あ、あの扉を開けたら魔物が居るの?」
「はい、ですが心配ありません。ここにいる魔物は明るいものが苦手なようで、松明の方には近寄っては来ませんから」
「そ、そうなんだ……」
 ホッとしたように返すリリーシャを横目に、コルマは壁に掛けてある松明を指差した。
「もしあの中に入って行ったとしても、松明を持っていたら大丈夫って事?」
「いや、無理だな。こうもたくさん松明があるところだと魔物は嫌がるが、一つだと消せば良いだけだからな。カンテラも同じだ」
「もし、魔法の『ライト』を使ったとしても?」
「ライトか……」
 ヘンリーは考える仕草をして首を振った。
「そいつの力量次第、ってところだな。弱い光だと意味が無い。明るい光じゃないとダメなんだ」
「ふぅん」
 頷き、硬く閉まった扉を見ると、不思議そうに眉を寄せた。
 そして松明を一つ拝借して扉に近づくと、三人はどうしたのかと付いてくる。
「コルマ、どうしたんだ?」
「扉から少し離れた所に線状に砂が寄っているのが気になって」
 コルマが指す場所には確かに砂や石が線状に伸びているのが見える。
 まるで最近扉が開いたような……。
 四人は静かに顔を見合わせた。
「もしかしてこの跡、誰かがこの中に入った……とか?」
「まさか、んなわけ」
「ですが、もし面白半分で入った方がいらっしゃるのならもう」
 三者三様、様々な表情の中コルマが「どうする?」と尋ねた時だった。背を向けていた扉から重い物を叩き付け たような音が何度もしたのは。
「な、何?」
「やっぱり誰か入ったのか!?」
「まさか! でしたら早く助けてあげなくては!」
 エマがコルマを押しのけ扉を開けると、布が引き裂けるような高い音と同時にエマ顔に生暖かい何かが掛かった。
「……?」
 触れて確認すると、松明の明かりでも分かるほどの赤。
 声を上げる前に濡れた服を床に落とした音がして、皆の視線が前にいくと、小さく高い鳴き声が耳に届く。
 エマが闇の中に蠢くものを確認するより早くコルマが守るように前に踏み出した。
「エマさん!」
「コルマ!」
 エマを庇ったコルマに黒い靄が覆うと、数秒もしない間にコルマは消えてしまった。
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