王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】

mako

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スラム街の王族

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スラム街の王族という名のゴシップは、瞬く間に大陸中を駆け巡った。ランズ王国はその中心にいる「リザ」とやらの女性を、秘密裏に王宮へ召喚したのである。

リザ召喚の場には、国王、王妃、フリードリヒ、クラリス、アルフレッド第1王子とその妃エリザベス、第3王子ヨハネスだけが立ち会った。

リザは簡素なワンピース姿であったが、凛と背筋を伸ばし、その姿はまるで令嬢。ドレスを着せたら、王宮にふさわしい上品さを持つ少女と見紛うほどであった。

国王は短く問いかける。

「リザと言ったか。君は何故ここに呼ばれているかわかるか?」

リザは少し戸惑った表情で答えた。

「申し訳ありません、よく理解が出来ておりません」

国王は一つ頷くと、さらに問いを続ける。

「スラム街に住む王族とやらの噂が大きくなってきている。単刀直入に問おう。君は王族なのか?」

リザはキョトンとした表情で国王を見つめた。
その視線を追うように、王族らも彼女を見守る。リザはその視線を恐れることなく微笑み、控えめながらも座るクラリスを見つけると、驚いたような表情を浮かべた。しかしクラリスは、静かに微笑み返す。

「私はメリーおばさんに育てられました。物心がついた時には両親はいませんでした。メリーおばさんが私を育てることになった経緯も聞く前に、おばさんも亡くなり、私は一人ぼっちになりました」

謁見の間は静まり返り、リザの声だけが響いた。

「メリーおばさんが亡くなる前、私が一人ぼっちになったらここを訪ねなさいと、地図を一枚渡してくれました」

王族たちは息を潜め、前のめり気味に聞き入る。

「その地図に書かれていたのが、ここの前にある湖でした」

クラリスは頷き、控えるテオドールを横目で見た。テオドールはクラリスに目もくれず、リザを鋭く見つめている。

「その湖へ毎日通っていたある日、男性から声を掛けられました。その男性が、後に先代国王陛下と知ることになるのです。国王陛下とは知らず、まるで会ったことのない父の影と重ね、とても幸せな気持ちでした」

クラリスもまた、懐かしむように目を閉じて耳を傾ける。

「そうしたある日、一人の女の子が現れ、私たちの間に入り込んできたのです」

クラリスは目を開き、リザを見つめる。

…?

「国王陛下は、私がドールハウスに憧れている話をよくしていたため、この王宮の森の中に小さなお家を建ててくれました。その女の子と一緒に、よく遊んでいました」

…え?

「しかし、そのお家の鍵はその女の子が持って行ってしまいました。先代がお亡くなりになった後は、ここへ来ることもありませんでした」

…待って、どうしてそうなる?

クラリスはリザを見つめるが、リザは視線を跳ね返すように国王を見据える。

「その女の子は数年後、再び私の前に現れました。先代から賜ったお家のおかげで幸せそうにしていました」



クラリスは頭の中が揺さぶられる感覚に襲われる。

「幸せそうとは?」

国王が問いかけると、リザは静かに答えた。

「詳しくは話してくれませんでしたが、充実しているように見えました。何より、やっと自由になれると嬉しそうでした。私は先代から賜ったお家の価値は存じません。その価値よりも、先代との時間が大切だったのです。しかし、その子はお家の価値に目がくらんでしまいました。それが、私にとって何より辛く、悲しかったのです」

クラリスは驚きのあまり、涙を堪えつつリザを見つめる。

しばらくの静寂の後、口を開いたのはランズ王国王太子、フリードリヒであった。

「君は国王陛下の問いに答えないのか? 国王陛下は君が王族かどうかを問われたんだ。その答えはイエスかノーか、あるいは知らないかだ。君の話は、あたかも先代国王が君の父親だといいなという希望的観測だろう?」

一見冷たいが、至極まっとうな指摘である。リザはフリードリヒに視線を移し、隣のクラリスに向けて膝を折った。

「国王陛下、私はスラム街に住んでおりましたので、国の情勢を理解できておりませんでした。お詫び申し上げます」

国王は短く頷いた。

「よい」

「先程のお話の女の子が、ここにいらっしゃいます」

国王は驚いた表情で問い返す。

「どういうことだ?」

リザは悲しそうな視線をクラリスに向け、静かに言った。

「貴女、あのお家の鍵を持って行ったのは、こういうことだったのですね。だから罪滅ぼしのために、あんなハンカチばかりを送ってきたのですね。確かに貴女のハンカチは高く売れるから助かっていましたし、嬉しかったわ。でもその分、自分は…」

クラリスは、悲しそうな瞳でリザを見つめる。

その隣では、エリザベス王女が表情ひとつ変えず、真っ直ぐ前を見据えていた。
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