王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】

mako

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地下室の危機と王太子妃の帰還

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駆け下りる階段がこれほど長く感じたことはなかった。

地下室に入ると、悍ましい光景が目の前に広がった。

「クラリス!」

側近が急いで鍵を開けると、フリードリヒはクラリスの元へ駆け寄り、抱きかかえる。

「テオ、しっかりしろ!兄上、フィリップスの元へテオドールを!」

アルフレッドは急いで騎士たちにテオドールを担がせ、その場を後にした。

その光景を目にしたヨハネスは、言葉を失う。

「嘘…何で…?」

フリードリヒは鋭くヨハネスを睨みつけ、まずはクラリスを抱え王宮へと戻った。

馬車に乗り込むと、フリードリヒはクラリスの熱を鎮めるように抱きしめ、慎重に介抱を続ける。クラリスの身体は敏感に反応し、苦しげながらも彼の手に求める。

「クラリス、大丈夫だ。もうすぐ王宮に着く」

優しく囁きながら、フリードリヒは彼女を落ち着かせるように手を添え続けた。

王太子宮に駆け込むと、フィリップスが慌てて駆け寄る。

「殿下!」

「テオは?」

フィリップスは頷き、安心させるように答えた。

「大丈夫です。すぐに性の解毒手配もしてあります。朝には完全に回復するでしょう」

「女への報酬はきちんと払うように頼め」

フィリップスは短く頷く。

「妃殿下は?」

「もう大丈夫だ。薬で休ませている。明日には完全に解毒できるだろう」

ヘトヘトになったフリードリヒの肩を、フィリップスは軽く叩く。

「南国の媚薬とは…よくお持ちでしたね」

フリードリヒは肩を回し、疲れ切った声で答える。

「あいつは他国からの取り寄せが好きだからな。とにかく今夜は休む。疲れた…」

その夜、フリードリヒはクラリスを抱きしめ、解毒が完了するまで側に寄り添い続けた。

翌朝、ヨハネスが監禁されている離れの塔に、王妃とアルフレッドが迎えに来る。

「ヨハネス…」

王妃の声に、ヨハネスは振り返る。

「義母上…」

王妃はすぐに彼の隣に座り、そっと抱きしめた。

「貴女の辛い気持ちに気づけず、ごめんなさい。それでも自分のしたことには責任を取らなくてはいけないわ」

ヨハネスはいつもの笑顔ではなく、抜け殻のようにアルフレッドと王妃に連れられ広間へ向かった。

広間には、既にフリードリヒとクラリス、テオドールとフィリップス、アルフレッドの側近であるファビウスが席についていた。

王妃はクラリスを気遣いながらフリードリヒに言う。

「フリード、何もクラリスまで呼ばなくても…」

フリードリヒは静かに首を振る。ヨハネスが席に着くのを確認すると、フリードリヒはテオドールの前に進み、深く頭を下げた。

「すまなかった」

その深さに、家臣たちは息を呑む。瞬きを忘れたテオドールは叫ぶ。

「で、殿下、お止めください!」

フリードリヒは顔を上げ、柔らかな微笑みで続けた。

「お前がクラリスの側近で良かった」

テオドールは悔しそうに答える。

「未然に防げず、妃殿下をお助けいただき、誠に申し訳ございません」

フリードリヒは静かに首を振る。

「テオドール、クラリスを守ってくれてありがとう」

彼の視線が次に向けられたのはヨハネスではなく、クラリスだった。

「クラリス、君は自分のしたことがわかっているのか?誰からか分からない脅迫に乗り、大切な家臣を危険にさらしたのだ」

クラリスは驚きながら答える。

「…それは」

「ヨハネスだと知っていたから?だから大丈夫だと?で、どうだった?本当に大丈夫だったのか?」

「申し訳ありません…」

フリードリヒはなおも静かに言葉を重ねる。

「違うよ。謝るのはまずテオドールにだ。あの状況で君が無傷で帰れたのは、すべてテオドールのおかげだ。君にはわからないだろうが、あの媚薬の効力は凄まじい。男にとって、君があんな至近距離にいたのを抑えられる者はほとんどいない」

全員が深く頷く。

フィリップスもテオドールに頭を下げた。

「テオドール、ごめんなさい」

テオドールは首を振る。

「力不足で申し訳ありませんでした」

その光景を見て、ヨハネスは固まる。

フリードリヒは彼の前に進み、静かに問いかける。

「ヨハネス、言いたいことがあるのだろう?言ってみろ」

王妃は堪えきれず口を挟む。

「待って!確かにヨハネスは許されないことをしたわ。だけど…」

王妃はクラリスを気遣い、申し訳なさそうに視線を送る。

「毒を盛ったわけではないのよ。媚薬は我が国では違法ではない。貴族の間では楽しむものもいるの」

冷めた視線のフリードリヒに、王妃は続ける。

「分かってる。無茶を言ってるのは承知してる。でも、ヨハネスを見捨てないで。お願い…この通り」

王妃の頭を深く下げる姿に、ヨハネスは泣きそうな顔で答えた。

「申し訳ありませんでした」

「ヨハネス、何故こんなことを?」

フリードリヒが優しく問う。

「姉上が、『第3王子か…』と言ったから…」

ヨハネスは昔の記憶を語る。

「森の妖精、それを一目見たくて湖に行った。妖精は僕に聞いた。
『貴方は王子様?』
僕は笑顔で答えた。
『うん、第3王子だよ』
すると妖精は
『なんだ、王太子になれないのね』
その瞬間、劣等感に包まれたんだ。
その屈辱はずっと忘れられなかった。その妖精が兄上に嫁ぐと知った時、また湧き上がった。散々苦しめられてきたのに、王太子妃になるなんて…だから姉上を許せなかった」

国王はポツリと呟く。

「それは本当にクラリスなのか?」

ヨハネスは悔しそうに返す。

「父上。僕もそう思いたい。でも間違いない。あの湖に一度だけ行ったのは間違いなく先代の後を追った翌日です。だから辛い思い出なんです」

フリードリヒは冷たく、しかし論理的に言い放つ。

「くだらない話だ。ヨハネス、それはクラリスではないだろう。先日のスラムの娘だ。王女が王太子か王子か分からないなんてことはない。クラリスなら、王太子の兄がいる湖に一人で行くことはできないはずだ。それに、クラリスは最後まで王太子妃になるのを嫌がっていたのだから」

クラリスは小さく頷く。

「はい…湖では先代以外とは会っていません」

乾いた笑いが広間に響く。

「ハハハ…私はスラムの娘の一言でこんなに苦しんでいたのか。王女に見下されたとランズ王国が見下されたと…」

ヨハネスは項垂れ、椅子から滑り落ちるように座り込んだ。
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